第二章:憧憬の凶行と恋鎖する重い
ep1 運営たちの本音
ミスティカ・アナザーワールド開発運営会社“ゾシモス”ビル内。
「何故だ!」
男はその妙に丈のあっていないローブを引きずりながら叫んだ。
「一週間!!一週間待ったのだぞ!?」
叫ぶ男をたしなめるようにもう一人の男、科学者のように白衣を着たメガネの男は言った。
「おいおい、錬金術師ニコラス・フラメルと呼ばれた天才なんだろ?焦っても結果はついてこねぇよ。」
「だが一週間だ!ここまで来て何故誰一人としてランク3へすら到達しない!?」
「そりゃあ、ストリーマーは皆サブクエ探してうろうろしているからだろ?」
「それがおかしいのだ!あれはランク5、魔術師に辿り着いた者のみに意味がある報酬のはずだぞ!?なぜそんなものを望む!?おとなしくレベルを上げるかランクを上げればいいだろう!?」
男の苛立ちをなだめるようにメガネの男が続ける。
「だからさぁ……現代の文化も、日本の文化も正しく理解できていないから遅く感じるだけだろ?そんなんだから失敗するんだぜ?アレイスター。」
「その名で呼ぶな!……失敗したと思ってはいるのだ。私のせいで神秘の時代が終わってしまったわけだしな。」
「そしてそのせいでアンタは不老不死でなくなりそうな危機に瀕している。だろ?もう何度も聞いたさ。」
二人の間に妙な空気が流れる。
そんな空気を打ち破るかのように呟いた。
「……お前には感謝しているのだ。お前がいなければこうしてこの計画を進めることもできなかったからな……。」
「まぁ、突然やって来て“お前の曽祖父は魔術師だった、お前もまた魔術師になれる”なんて言ってこんなゲーム……いや、異世界シミュレーターを作らせたんだからな。……俺じゃなきゃお前を警察に突き出して終わりだったぜ?」
メガネの男は煙草を咥え、部屋の中央に設置された設備を見る。
銀色の天球儀。
それはこの世界の物ではない。
ミスティカ・アナザーワールドの世界を示したものだった。
「魔術と科学の融合……それがあんたの望みなんだろう?」
「違う。魔術の新しい時代だ。科学という“信仰”によって破壊されない“新たなる神秘”の誕生だ。」
「まっ、これからたぶんランク3がポコポコ生まれますよ。その為の準備はもうできてるんで。」
「ほう?それはよかった。あまり時間もかけたくないのでな……それで?どうするつもりだ?」
メガネの男はまるで“ゲーム内のように”システムウィンドウを出現させてニコラスへと投げる。
第一回ストリーマー全員参加のPVP大会!
サービス開始1カ月を記念して大規模イベントの開催が決定しました。
入賞商品は“神秘の欠片”!
ミスティカ・アナザーワールドの世界ではこれを求めて何度も争いが起きた曰くつきの強化アイテムです!
特殊決戦フィールド“ロスト・ムーン”にて行われるサバイバルゲームに参加しよう!
時間経過とともに消滅していくマップ上で最後に立っているのは誰か!
当日の様子は全世界同時配信され、全編フルでまとめたコンプリートボックスの販売も予定しています!
「……こんなものが?」
「こんなものが、さ。人って言うのは、いや、ストリーマーっていうのは目立ちたがりの集団さ。だからこれを見た奴らはすぐにレベル上げに向かう。そういうことさ。」
「……ならいい。お前に任せた。」
「アイアイ、ボス。」
男たちは知らない。
未来を見ることなど、人類には不可能が故に。
自分たちの滅びを知らない。
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