ep10 下水の姫と小さな翼

扉の向こうには3段ほどの小さな階段が設置されていた。

そしてそれを登ると、予想だにしていない光景が広がっていた。


「……研究室?」


中身の見えないカプセルがいくつか並んでおり、書類らしきものが散乱している。


「でも一度水没したらしいな。」


壁に一本の筋が入っている。

水がここまで入ってきたのを示しているのだろう。

机の引き出しは全てダメになっていそうだ。

地面に散らばった書類も水で滲んで読むことができない。


「まぁ、つまり“これ”しか手がかりはありませんよ、ってことだ。」


机の上に置かれた手帳のようなサイズ感の冊子。

引き出しは全滅だろうが、机の上までは濡れなかったのか、何とか読めそうだ。


――――――――――――


俺を否定したあいつらに痛い目を見せてやる。

実家から盗んできた金ももう残っちゃいないが、おかげで実にいい隠れ家を用意できた。

この下水道の工事を知っていなければできなかったことを考えればあの実家も少しは俺の役に立ったか。

ここで俺の研究を完成させなければ。



何故だ?この魔物を利用すれば最高の魔物を産み出せるはずなんだ!

母体が悪いのか?



何故だ。

何故うまくいかない?

俺は天才なんだ、俺を笑った馬鹿どもとは生物の格が違うんだ!

あんな程度の低い奴らがこの結果を実験無しで導き出したとでも?



持ち込んだ魔物が下水道に逃げてしまった。

もう数匹しか残っていないというのに、もったいない。

まぁ、寄生する対象なんてネズミかゴキブリ程度の物だろう。

問題ない。

むしろ分裂して増えてくれれば助かる。



やったぞ!

最高の母体を手に入れた!

とてつもない揺れを感じて外へ出てみればこれだ!

あぁ、我が“天使”よ。

奴らに神罰をくれてやれ!



何故だ?

どうしてうまくいかない!?

だが確実に進歩している、あとは教育だけだ!



何故だ。

あの日、天の島から落ちてきた天使は俺の救世主じゃ、俺の“天使”じゃないのか?

やはり天使も神ももう居ないと言うのか?

あの神秘学者共も歴史学者共も嘘は言ってなかったのか?



とうとう、天使は物を語るようになった。

しかし俺の願う言葉を話しはしない。

ずっと同じ単語を繰り返している。

こんな欠陥品を作りたかったんじゃない!



やはり翼のない天使は天使じゃなかったんだ。

これで最後に、失敗したら廃棄処分にしよう。

なんならおれのこのモヤモヤをスッキリさせる手伝いくらいはさせてもいい。

顔だけは良い女なんだから、せめて俺の役に立ってから死ね、腐れゾンビが!



日記のような、恨み言ノートと言った方が正しいかもしれないそれを読み終えたことで、ショコレータは思考の海へと潜る。


「……要約はできたか?」


そう言って誰も居ないこの部屋でショコレータは語り始めた。

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