ep9 決着

寄生虫がこちらを向いたということは、すでに補足されているということだ。


「……よっと!」


梯子の上から地面へ飛び込む。

下水を跳ね上げ、大きな音を立てるが、仕方がない。


――ズドドドドド!


先ほどまでいた場所を大量の触手が襲う。

岩の壁をものともせず、突き刺さっていくその触手の威力の高さは推し量れる。


「音か?匂いか?目か?」


何でこちらを探知しているのか。

梯子の上にいた自分をどうやって見つけたのか。

呟きが漏れたことで発見されたのだろうか。

匂いで見つけ出したのか。

それともどこかに目があるのか。


「……音だな!」


水しぶきを上げ、落下した場所を触手が襲った。

既に走り始めているとは言っても、この広場には薄く水が張っている。

絶対に音を立てずに動くことなどできない。


「だったらさぁ!“インパクト”!」


――ドゥン!


音と衝撃が腕に伝わる。

もちろん今の音はボスの索敵に引っかかる。


「三角跳びでぇ!」


触手が狙ってくるも、後ろの壁を利用して三角跳びで躱す。


「靴跡付けてヤルヨォ!、“ストンプ”!」


壁を蹴り、大きく跳躍した上で寄生虫の頭上へと飛び上がる。

そして強烈な踏み付けを加え、反対の壁際へ着地する。


――バシャン!


当然その瞬間、派手な水音が起きる。


――ズドドドドド!


「当然三角跳びでぇ!」


回避する。

再び壁を利用して頭上へと飛び上がり。


「“ストンプ”!」


踏みつけて反対の壁へ。


――ズドドドドド!


「パターン入ったぁ!」


三角跳びで再び頭上へ飛び上がる。


「“ストンプ”!」


そして着地。


――ズドドドドド!


そして三角跳びで回避。


「“ストンプ”!」


【Normal BOSS BATTLE】


【白と黒の衝撃】


【THE WHITE RULER】


【BATTLE ENDED】


「……ふぅ。やっと終わったか。」


POWERの残りは2割ほど。

ほとんどが“ストンプ”の連続使用による減少だった。

終わってみればボスの攻撃自体はバリエーションも少なく、回避も簡単な部類だった。

弱点扱いされていないゴキブリの破壊に苦労こそしたものの、難易度が高いということも無かった。


「そして……“これ”なんだよなぁ……。」


このダムのような広場の片隅に設置された鋼鉄の扉。

このダンジョンがここで終わりでないことを示すその扉。


「まぁ、様子見で行ってみるか。」


そうして扉に触れる。



【SUB STORY QUEST】


【下水の姫と小さな翼】


【このクエスト中は自動配信がオフになります。】


【クリア時公式サイトにて攻略風景が配信されます。】


【また、サーバー内でクリア者が出た場合、以降このクエストは消滅します。】



そのアナウンスにショコレータは触れたことを後悔した。


「はぁ……あー……厄ネタ?」


サーバー内で一人だけがクリア可能なクエスト、それも内容はクリアするまで共有されないと来た。


「今0時だろ?今から寝ようって人は多いはずだ。ベッドで俺の配信を見てる奴は多いはずだ。」


それだけ自分のプレイに価値があると思っている。

下水道のダンジョン自体、ログアウトしてから俺の配信を見て人が来ている可能性もある。

そんな中俺がログアウトすればこのクエストを攻略しに来るプレイヤーも居るだろう。


「つまり、今からこれをクリアしないともったいないってわけだ。」


正直ボス戦のカロリーが重すぎた。

疲労もかなり溜まっているが、進むしかないことがさらに疲労感を感じさせる。


さび付いたその扉を開き、中へ入るとアナウンスが流れた。


【下水の姫と小さな翼】


【SUB STORY QUEST START】


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る