ep8 白の支配者
このままではまずい。
そう判断せざるを得ない状況だった。
倒すだけならばあの雑魚はいくらでも相手ができる。
しかしそれの相手をしていてはボスの行動を確認するだけの余裕がなくなってしまう。
「……とにかく“どっち”だ!?」
今必要なのはどちらか。
STRかDEXか、今振れるステータスを考える。
耐久をあげるVITやスキルの回転をよくするAGIは必要ない。
ダメージのブレを抑えるLUKにしたっていまの低いステータスで実感できるほどの効果は期待できない。
弱点へのダメージを増やすDEXか、単純に威力を上げるSTRか。
「……まずは情報を集めるか。“インパクト”!」
――ドゥン!
足の節を狙った一撃。
頭部が弱点ではないならあの巨体を支える足の、それも関節を狙えば弱点扱いされるかと思えば、それもまた傷をつけることができなかった。
「……弱点扱いされそうな場所って他にあるか……?」
思考しながらまとわりついてくる雑魚を踏み潰しながら走り回っていると、ボスがわざわざこちらに向き直した。
ザリザリザリ!
「……それで突進のつもりかよ!図体ばかりデカくなってとろくなってんじゃねぇか!」
ボスの突進は巨体だから大きく躱す必要こそあれど、脅威ではない。
しかしその事実があまりにも“異常”に感じた。
「……STRに振るか。間違いじゃないことを祈るぜ?」
振り分け可能なステータスを全てSTRへ振る。
そしてこちらへ向き直すその頭に向かって照準を合わせる。
「“インパクト”……。」
薄く光る銃身から弾丸が飛んでいく。
――ドゥン!
それは狙い通り、頭部の中心へと吸い込まれていく。
しかし。
「……これでも駄目なのかよ?もう出せる手がねぇんだけど?」
壁を背にぐるぐると部屋を回って戦っている現状、これ以上の手は思い浮かばない。
――ゴッ!
「いってぇ!?」
見れば、U字型の鉄棒を挿しただけの梯子にぶつかったようだった。
その隙をつくように雑魚ゴキブリが群がってくる。
「だぁ!?“ストンプ”!」
しかしなぜこんなものがあるのか。
「……上にギミックありと見たぜ!」
梯子を一気に登っていく。
ボスがそこに頭突きをかますも、そこにはもういない。
「いや……上の下水路までの梯子かよ。意味ねぇ……。」
上の水路は人が通れるような太さではない。ギミックなどはなかった。
「いや、雑魚が来ない安全地帯ってことか?」
奴らは降ってきた訳だが、どうやら壁を走れないようだった。
「でもなぁ……俺の攻撃が通らないんじゃもう打つ手なんて……。」
あった。
あったのだ。
マジックガンナーの特殊技能が。
使いづらいせいで思考から追いやっていたそれが。
「こうだったな……。」
リボルバーのチャンバーを回転させる。
ロシアンルーレットのようなこの動作こそが、そのトリガーなのだ。
段々と加速していくそれはやがて赤熱化し、どんどん赤くなっていく。
「これでダメならもう知らん!……“インパクト”!」
――ズドゥン!
いや、音は最早しなかった。
“チャージ”と“インパクト”による破壊力が生み出す、その大きすぎるその音は一瞬、撃った本人すら意識を失いそうな音を立てて、目標へと到達していたのだった。
撃ち下ろした形になったことで、薄く張った水が一気に巻き上がり、水煙を生んでいる。
それもやがて治まっていき、標的の姿を再び浮かび上がらせる。
「あぁ……なるほど。」
しかしショコレータの口をついた言葉は歓喜の声ではなかった。
「【白と黒の衝撃】……なるほどな。」
水煙の晴れたその広場には、たしかにボスゴキブリの死体があった。
頭部を完全に破壊しつくした一撃によって、もうピクリとも動かないであろうそれ。
しかしそれでいてなお、動き続ける足。
もがくように地面をひっかくその足は、昆虫の動きのそれではなかった。
「第二ラウンド開始ってわけだ。」
白く蠢くそれ。
破壊された頭部からズリズリと這い出て地面を擦るその巨体。
そして完全に死んだはずのボスゴキブリすら動かして敵を探そうとするそれは。
「“黒”がゴキブリの王を示していたのなら、最初の“白”ってのは何だ?って話なわけだ。」
やがてそれはこちらを見つけたようで、その白い首をもたげてこちらを見つめる。
「【白と黒の衝撃】THE WHITE RULER……名は体を表すってわけだ。“白の支配者”がボスだっていうなら、外のゴキブリの何処にも弱点なんかあるはずねぇよな?」
その姿は、ただの巨大なゴキブリだった時とは、禍々しさの格が違っていた。
死体から伸びた白い支配者。
真っ白なミミズのような姿に加え、体中から伸びた白い触手が周囲の雑魚ゴキブリを絡めとり、その触手を突き刺してゴクリゴクリと何かを取り込んでいる。
「白い寄生虫がボスの本体だったわけだ……勘弁してくれよ……。」
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