ep5 ブラック・ホール

下水道をダンジョンとしてみなし、探索を開始する。


「まずはマップが欲しいな……いや、待てよ……“インパクト”!」


――ドゥン!


10秒ほど音が反響して聞こえる。


「かなり広いな。それにマーキングも無理か。」


壁に打ち込んだ破壊痕は30秒ほどするとすっかり元に戻ってしまう。

壁に目印を刻んでいくのは無駄に思える。


「メモなんてねぇし……いや、川があるか。」


此処は下水の終着点なのだから帰りは下水の流れを見て下流へと向かえば戻ってこられるはずだ。


「他に出口があったとしても同じような感じだろうしな、よしそれで行こう。」


ダンジョンだからか、ほんのりと水が光って見える。

それが照明代わりになって敵の姿もクッキリとみることができた。


「まぁ……下水って言ったら大体そうだよな?」


キチン質の翼を広げ、まるで大空すらも自分の物だと言わんばかりの堂々とした羽ばたき。

黒光りする頭部は少ない光を鈍く反射しヌラヌラとその油ぎった質感をこれでもかと主張する。

昆虫特有の節のある足はまるで死神の手招きのようにくるりと曲がっている。


「30センチはあるか。……食事中だとヤバかったな。」


Gの頭文字を持つその悪魔は世の女性の大部分に特攻を持っており、軟弱な精神の男であれば女性同様に悲鳴を上げて逃げ出してしまう生理的嫌悪感を与える。


――ガサガサガサ!


地面に着地したそれは圧倒的なその速度を持ってショコレータへと進撃を開始する。


――ガゥン!


「まぁ、今更ゴキブリ相手に苦労する程度のエイム力じゃねぇよ。」


きっちりと頭部へ撃ち込まれた銃弾は敵の頭部を破壊しつくし、ポリゴンへと変える。


「……しっかしあの速度で数いると面倒だな。」


――ガサガサガサガサ!


「……おーおーフラグだったか?それとも……。」


――ガゥン!


――ガサガサガサガサガサガサ!


「“音”に反応しているか?……まぁだろうな?こんだけ来るんだもんな?」


視界一杯に映るゴキブリの山。

道を埋め尽くすかのような大群が、体と地面を擦りながら、耳障りな音と共に現れたのだ。


――ガゥン!……ガゥン!


正確にその頭部を吹き飛ばしていくも、致命的に速度が足りていない。


「……やっぱ近接武器の方がよかったんじゃねぇ?」


“インパクト”も“チャージショット”も威力を上げる手段でしかない。

連射速度はどうやってもカバーできない。


「……ちっくしょうがぁ!」


怒りを込めてゴキブリに悪態をつきながら叫ぶ。

無情なまでのその“数の暴力”に、ショコレータの体が飲み込まれるのは時間の問題だった。


「アァ!らぁ!」


――ガゥン!……ガゥン!……ガゥン!


そうしてとうとう、その黒い悪魔はショコレータの元へと辿り着いたのだった。

一瞬の間にショコレータの体は真っ黒な悪魔の集団に飲み込まれた。

もう、銃声は聞こえない。

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