ep4 スラムに流れる川

街の外へ向かうには門を通らねばならない。

魔物は外にいる。

その事実が大量のプレイヤーを門の元へと集めていた。


「どいつもこいつも……薄汚い茶色のローブで集まんなよ……。」


プレイヤーの証である茶色のローブに身を包んだ集団が集まってぎゃあぎゃあと叫ぶように喋っている。

人と人の距離が短いから他人の会話に遮られて会話にならなくて自分たちの声が大きくなって、周りがまた同じ理由で声を大きくして……。


「のど自慢大会か?今日びそんなデカい声出すこともねぇだろうに。」


しかし困った。

フルダイブの関係か、所謂チャンネル移動と言うか個別狩場と言うか……そういう物は無いらしいのだ。

つまり今ここにいるプレイヤーが全員同時に狩場へ向かうわけだ、絶対に狩場争いが起きる。


「突っかかってくるわけでもないプレイヤーをキルするのはまずいよな……。」


それこそ本当の炎上案件だ。


「……今は19時か。ゴールデンタイムだし深夜まで適当に回るか。」


深夜になれば狩場も空くだろうと思考する。

先ほどラーメンを食べた“あば与”の方へと振り返ると、門のそばを流れる川にふと気づく。


「川……いや、用水路?」


畑なんて無さそうなこの街に用水路があるのを不思議に思った。

しかしよく考えれば人が煮炊きする以上、下水道は必要だし、山から湧き水の類も出るだろうと思い思考が止まる。


「……いや、ちょうどいいな。」


川沿いに街を探索してみよう。

そう思って川のそばを歩けばスラムの人達の生活が見えてくる。

洗濯ものを済ませている場所や、大きな焚火を囲むようにできた小屋のような家。


「“ザ・異世界”ってかんじで楽しいな。チンピラに襲われたりしないのか?定番だろそういうの。」


すれ違うNPC達に軽くガンつけながら歩くもなかなかそういうイベントは起きなかった。


「……とうとう端まで来ちまったな。」


川の流れの終端は金属でできた柵で人が通れないよう閉じられていた。

岩山の中を通るような川だったらしいが、この柵の向こうは山の向こうへ続いているのではないかと思った。


「山の向こうに行けるなら門が開くまで狩場を独占できるか?」


金属の柵を突破する方法を考えていると、スラムの子供が柵をスポッと抜いて中から糸で縛った肉の塊を取り出して帰って行った。


「この柵飾りじゃねぇか……っつーか賢いな今の子供。」


しかし中へ向かえるなら試してみる価値はある。

子供がやった様にスポッと柵を外して中へ入る。


「少し深いな……無理やり通れるか……?」


壁に手をつきながら柵を戻して中を進んでいく。


「下水ってほどの汚れじゃねぇな?下水道はまた別か?」


むしろ冷たくて気持ちのいい水だ。

湧き水に近いのかもしれない。


「っつーか完全に湧き水だな。」


目の前の岩に空いた穴、そこからこの水は溢れ出していた。


「そしてこっちが下水ってわけか。」


街の外へ向かう汚れた川。

こちらは整備されているようで、上から伸びる管を通って下水を街の外へ運んでいる様だ。


「この管の隣にあるはしご……整備用だろうが気になるな。」


梯子なんてものを見たらゲーマーは登るしかないと思う。

そうして登りきったところにあった扉を押し開けその奥へ立つ。


「下水道……にしては通路が広すぎるだろ?」


辿ってきた管へと流れ込む下水の川、その横に沿うように作られた通路は明らかに作業用の足場ではない。


「ダンジョンってわけだ。これは当たりを引いたか?」

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