ep3 スラムにあば与

――ドスン!


派手な音と共に落下したショコレータは、キチン質の甲殻の端切れや腐った匂いのする泥のようなものの溜まった山に落下していた。


「……POWERがあれば落下ダメージは特になし……か。」


特に問題が無いことを確認すると、周囲を確認するためキョロキョロと見回す。

ゴミに溢れた道のようで道じゃない道。

薄暗いそれを見るに、ある単語が頭をよぎる。


「スラム……?いや、どうなんだ?」


ふらふらと歩き回ると、一つの明かりが見えてくる。

近づいてみればそれは小さな屋台だった。


“らぁめん あば与”

“素らぁめん 50C”


ブゥン、と言う音を立ててステータスを開けば1000Cの表示がある。


「Cが通貨か。……まぁこれだけあるならいいだろ。」


暖簾をかき上げ席に着くと、不愛想な主人が手を差し出した。

メニューを操作して50Cを取り出すと主人に握らせた。


「……あいよ。」


ジャッジャッと言う音で湯を切る主人。

グツグツと音を立てるスープにその麺を入れ、スッと差し出す。


「……うまいな。」


一口麺を啜ると鶏ガラのような旨味が口いっぱいに広がり、鼻から抜ける空気がまたその香りを楽しませる。


「……そうか。」


「……ここらはいつも“こう”なのか?」


不愛想な主人だが少しは話を聞かせてくれるだろうか。

そう思って声をかけてみれば、意外にも主人は饒舌に語り始めた。


「……他の客が来るまでだぞ。」


それを皮切りにたらたらと話す。


「ここらに住んでる奴らは皆同じだ。門の外へ出る勇気も無ければ、知恵を使って金を稼ぐ術もない。人に使われるのを嫌い、人をコケにするのを至上の喜びとするクズだ。」


「……つまりここにいるのは職なし金なし勇気無しと?」


「そうだ。だからこんな一杯10C程度の麺を50C出して喰う奴らだ。だが、そんな奴らを産んだのは貴族の奴らだ。」


「貴族?」


「あぁ、……あっちに見える大通りがあるだろう?あの先は門だが、反対には上の階層へ向かうカーゴがある。その一番上に住んでる奴らだよ。」


「……あぁ、あの山の上にあるキラキラした屋敷か。」


「貴族は門の開閉権、そして税を取り立てて建物や吊り橋、カーゴの管理をしている。だから俺達平民……いや、スラムのゴミもそうだ。そいつらが反抗すれば門を開けて自分たちはぬくぬくと結界の中で待てばいい。」


「結界?」


「貴族の奴らはヤバい道具を持っているんだよ。昔、平民たちが貴族街へ侵攻した時、不思議な光の壁がそれを防いだんだ。そして門は開け放たれ、無数の魔物がこの街を襲った。」


「……平民の大部分はそれで死んだのか?」


「当然だな。……しかも街に入り込んだ魔物を殺しつくしたのも貴族だ。それ以降この街は貴族によって完全に支配されている。……まぁスラムのゴミ共にとっては関係ない話だがな。」


すっかり丼の中身がなくなってしまった。

後一言くらいしか聞けないだろう。


「狩人ってのは何をする者なんだ?」


「あんた狩人じゃないのか?門の外で魔物を殺し、その素材を持ち帰る奴らだよ。上の街にはうじゃうじゃいるぜ?」


それだけ聞くと席を立つ。


「また来るよ!」


「……もっといい店行けよ!」


「今度は具だけ持ち込むわ!」


「やめろ馬鹿野郎!」


話にあった、メインストリートを進んで門の外を目指す。

門は閉じているが問題はないだろう。

そう思いながら門の前に着くと、辟易するような光景が広がっていた。

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