第一章:下水の姫と小さな翼

ep1 アンブロシア

キャラメイクを終えたショコレータが扉をくぐると、そこは大きな街だった。

いや、大きい街という呼び方は語弊があった。


「すげぇな……岩山に街をつくったのか……。」


3方にそびえ立つ岩山。

その間を吊り橋がターミナルのように複雑な円形に伸び、巨大な街を形作っていた。


「太鼓みたいな町だな……いや、上にもなにかあるのか?」


岩山の上の方にはキラキラと光を反射して煌めく屋敷が見える。


「居住区……いや、教会とかそういう建物か?」


後ろを振り返ると岩山をくりぬいて作ったかのような建物がある。


「壁沿いにも店があるのか……なかなかにファンタジー……。」


とにかくまずは情報を集めよう、そう思い目の前の建物に入る。


「……いらっしゃい。新たな狩人かい?それとも商人?……まぁ前者だろうが。」


小さな木製のカウンターに腰掛ける女性。

伸びた髪をくるくると弄びながら声をかけてくる。


「……あぁ、この街には初めて来たんだ。まずは狩人でも始めてみようかと思ってね?」


その言葉を聞いた女性は手元にあった鉄製のピンをヒュッと投げる。

その投げた先を見ればコルクボードのような木の板がかけられている。


「そこにあるものを納品するならアンタは狩人だ。ここは狩人としか取引しない店“アンブロシア”だ。」


店の名前は“アンブロシア”と言うらしい。

霊薬の類だったか?


「まぁ、今は獲物も無いんでな。またくるよ!」


「今度来るときはちゃんと狩人としてくるんだよ!」


アンブロシアを出ると、自分と同じく茶色のローブに身を包んだ集団と鉢合わせた。

仕方ない、と横をすり抜けようとするとその中でも髪色が派手な男が声をかけてきた。


「おいおい、“女漁りのショコレータ・ショコランティエ”じゃねぇか!こいつはキッツイお灸を据えないとこのゲームのモラルがすぐ地に落ちちまうぜ!」


「おいおい、俺にそんな二つ名がついたのか?そんな二つ名、もっと似合うやつがいると思うんだけどな?」


明らかにこちらを煽ってきた男に答えると、派手な男はニヤリと口角を上げて続けた。


「お前はつえーらしいけどなぁ?銃を選んだお前をサービス開始のこのタイミングで襲えばただの雑魚だろ!お前をキルしたいっつー“正義の味方”がこんなに集まったんだぜ!」


そう言って周囲のプレイヤーの数を見せるように両手を広げて見せた。


「13人か……なかなか集めたな?でもそれだけじゃねぇだろ?」


「ハハハハハ!おいおい、この数見て調子に乗れるかよ!?今ならちょうど配信してるし謝罪しておけよ!“女遊びがひどいクソゲーマーです。許してください”ってな!」


「あーあ……俺の二つ名は“最強VRゲーマー”だって聞いた事ねぇのかよ?」


そう言って銃を軽く右手に握る。


「それも今日で終わりだ!今日からその称号はこの俺!バンデット・ケーニッヒのものになるんだからなぁ!」


なんの合図も無い。

ただ、互いに視線と視線がぶつかり合ったのを認識した瞬間、戦いは始まった。


――ガゥン!……ガゥン!


最初に攻撃したのはショコレータだった。

銃の通常攻撃によって二人のプレイヤーの頭を正確に吹き飛ばす。


「なに!?一撃だと!?」


バンデットはそれを横目に見ながら驚愕に叫ぶ。


「銃は高火力武器だぜ?ステータス差の少ない現状、そういうことだってあるさ!」


しかしヘッドショット……確定クリティカルでなければそんなことは起きなかっただろう。

バックステップしながらの射撃で正確に二人のプレイヤーを倒して見せたのは間違いなくショコレータの実力だった。


「……でもなぁ!“そう”だよなぁ!」


華麗なバックステップを決めたショコレータに肉薄する影が三つ。

双剣使いが3人がかりでその剣を振るう。


「……押し切る!」


「自己紹介もせずに来るんじゃねぇよ“モブ根性”染みついてんじゃねぇの!?」


それすらも銃で受け、蹴り飛ばしてしのいでいく。


「……だれがモブ……えっ?」


頭を起こしたその先には黒い銃口が向けられている。


――ガゥン!……ガゥン!……ガゥン!


襲い掛かった3人を蹴り飛ばした順にキルしていく。


「ハッ!それで調子に乗るんじゃねぇよ!」


一瞬バンデットを見るが、攻める気のない姿に視線を外す。


「ほう!やるじゃねぇか!モブプレイヤー!」


その視線の先には刀の特殊技能“居合”を構え、真っ赤に染まるオーラを立ち昇らせたプレイヤーが3人待っていたのだった。

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