ep1 ショコレータ・ショコランティエ
有名ゲーム実況者・ショコレータ・ショコランティエ。
その男はVRゲームが産まれ、世の中に普及し始めたころから台頭していたゲーム実況者だった。
その男の特徴はいたって普通。
それこそ、町中を歩けば似たような顔がごろごろと見つかるようなありふれた顔。
体格もまた、太りすぎず、痩せすぎず。
そんな、ある意味一見しただけではカリスマの一つも感じられないような男だった。
「いやいや……俺昨日配信した後すぐコンビニ行って今帰ってきたんだぜ?なんで炎上なんてするんだっての!」
男はスマホの通知を切って自身の炎上した“火元”を探す。
呆れるほどの罵詈雑言を目で確認しながらその中の情報を抜き取っていく。
“女の趣味悪そう”
“ゴミクズカスゲーマー”
“(生理的に)ダメな男”
“VRゲームがうまいだけのクズ”
そんな状態ですら、VRゲームの腕を貶めるような発言は存在しない。
それこそがこの男を有名にしたアイデンティティだからだろう。
初見であろうがVRゲームであれば必ず勝てる、とまで言われたその腕前を認めない人間は存在しえない。
「“女”って単語が出まくるな……俺は別に童貞……いや今朝捨てたんだっけか。」
あの女に連れ込まれた先の記憶があいまいだが、あの状態を見るに間違いなく“卒業”しているだろう。
「いや、まて!あの女か!」
自分を批判しているアカウントから“大元”の投稿を見つけ出す。
【最悪】有名ゲーム実況者の最悪な女漁り【ナンパ注意】
今日○○街でナンパされてホイホイついて行ったんだけどその男が最悪でした。
自分は有名ゲーム実況者だからって万札叩きつけて来るわ、無駄に高いお酒を無理やり飲ませてきてふらふらになった途端ホテルまで連れ込まれてヤられました。
途中で気づいて抵抗した途端“有名インフルエンサーに逆らってまともに生きていけると思うな”って叩かれて逃げられませんでした。
【男の寝顔を移した写真】
その投稿を見た途端、男はあまりの内容に怒りで机を叩いてしまった。
「あの女だ!クソ!何のつもりだ!」
ナンパしてきたのはあの女自身、ホテルに連れ込んだのも俺じゃなくてあの女だった。
そこでやっと気づく。
「嵌められたんだ!」
とにかく弁明をしなければ。
そう思って自分のSNSのアカウントから声明を出そうとする。
「いや、まて……信じてもらえるか?」
自分のスペックは正直凡人だ。
ゲームの腕だけなら人より優れている自負があるが、今の問題にその能力はあまりに無力。
「……直接問いただしてやる!」
大元のアカウントへ怒りを込めてメッセージを送る。
何のつもりだ、何を思ってこんなことをしたんだ、つらつらと書き続け送るとその瞬間、スマホに通知が届く。
「SMS……?この番号にかけろってことか?」
記号一つのSMS。
送り主は恐らくあの女。
すぐに電話をかけると1コールもしないうちに繋がった。
「フフフ。」
「おい!これは何の真似だ!」
開幕から怒鳴る。
女はそれにあの零れるような笑いで答えた。
「フフフ……ねぇ。あなたは“ミスティカ・アナザーワールド”に参加する?」
そのタイトルには聞き覚えがあった。
これまでのバイザー型機械でプレイするVRゲームとは違い、椅子のような巨大な機械に横になってプレイする“フルダイブ型VRゲーム”であると聞いている。
しかし。
「お前も参加するのか?」
「フフフ。お前“も”、ってことね。ありがとう。もう充分ね。」
女はそれだけ言って電話を切った。
何度かけても着信拒否を告げるアナウンスが流れるばかり。
「あの女も……ゲーム実況者ってことか?」
“ミスティカ・アナザーワールド”は現在1000人ほどの配信者にのみその参加権を与えられている。
それは椅子型の筐体が費用的に家庭用と言うには高すぎるのが原因でもあった。
配信者には無料で配り、2年後の正式サービス開始に向けてプロモーションを行ってもらうという趣旨のはずだ。
普段使っている配信サイト・アプリとは別の、独自の物を使って配信し、その収益の一部を筐体費用として天引きされるという契約。
配信者にしかメリットも無ければ、そもそも参加権を手に入れるには配信者でなければならない。
そんなゲームにあの女が参加する?
「ともかく、あの女に謝罪させなきゃ俺の気がおさまらねぇぞ!」
こうして、最強のVRゲーマー、ショコレータ・ショコランティエは“ミスティカ・アナザーワールド”に参加を決めたのだった。
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