第9話一番金稼げる魔物
昨日大きな額の金を手に入れていた俺だが、まだまだ何があってもなんとかなる、という大金持ちには至っていない。
元父親が気が変わってちょっかいを出してきたりすることももしかするとあるかもしれない。
そんな時のために、着実にお金を稼がねばならないのだ!
……昨日石を人にぶつけて、もしかしたら捕まるかもしれないからその前に稼げるだけ稼ごうとかそういうわけではない。断じて。
そういうわけで、今日も俺は朝からギルドに来ていた。猫と一緒に。
「受付さん、この辺で一番高い値段する魔物ってなんですか?」
今回は昨日と違う緑髪のお姉さんに話しかけてみる。
「えーと……君まだ新人だよね? いきなりそんな大物倒そうとするのはやめときなよ?」
「……荷物持ちとかする際の剥ぎ取りに活かしたくて」
「ふぅ〜ん……。まぁいいわ。ここらで一番換金が高いのはアイアンゴーレムよ。森の奥からたまに出てくるんだけど、良い鉄らしいのよね」
苦しい言い分に、じとー、とまっすぐ俺のことを見つめる受付嬢だったが、見逃してくれた。
「なるほど」
「高さ5メートルくらいあるんだけど、全部持ち運ぶのは無理があるから切り取って少しずつ運んでくるのが主流かしらね」
「ありがとうございます」
有益な情報を入手したので、怪しまれないようにFランクの依頼が貼られているボードの前に来る。
万が一昨日顔を見られていてもいいようにフードを被って。
「森に行くのにちょうど良い依頼は……えーっと……」
低ランクでも金は稼げるとはいえ、ついでにランクを上げておいて損はないだろう。
信用は重要な付加価値となるためだ。
「ゴブリンは……倒さなきゃいけない数多いと面倒だし……でも希少な魔物は探すのが……」
「あ、あの!」
「ぬわ!?」
探すのに苦労せず少ない討伐数のものを吟味していると、耳元で大きな声を出された。
「な、なんでしょう俺なんもしししてませんよ! って昨日の」
衛兵に昨日の石ころ事件がバレたのかと焦ったが、声の主は昨日助けたシスター少女ナギだった。
「さ、昨日はありがとうございました。あなたがいなければ命はなかったと思います」
そう言って頭を下げるナギ。
彼女の言っていることは事実でもある。ヒーラーが単体で魔物を相手にすることはそもそも無謀なのだ。
「ナイフバードを瞬殺するところを見て、高名な魔法使いの方だと推測しました。……昨日『常勝無敗』に勧誘されたと聞きました。参加、されるんですか?」
常勝無敗……?
なんだっけその臭い名前のパーティ。
「……あっ。いや、パーティを組むメリットを感じられなかったから断ったよ」
「っ! そ、そうですか……」
驚いた顔をした彼女の瞳には一瞬の希望と失望が入り混じっている。
「今日も一人?」
「あ、はい。最近はソロが多いです」
「……そっか。まあお互い頑張ろな」
正直ヒーラー一人で活動するのは止めたかったが、よそはよそで考え方だったり事情はある。口出しするのは筋じゃない。
それに俺だって日銭を稼ぐのに精一杯の状況だ。
その思いで余計な助言をぐっと堪えた。
「……はい」
そうして俺たちは別れるのだった。
アークの背中を見送ったナギは自分の意気地なさにため息を吐く。
自分が目にした圧倒的な魔法戦闘力を持っている。それはこの街のトップ層であるパーティ『常勝無敗』から勧誘を受けた事実が証明している。
ナギは、限られた期間で友人を救うためには優秀な人材を招き入れることが不可欠だと考えていた。
その眼鏡に適ったのがアークであり、今日はパーティへの勧誘、もしくはその前段階として関係を築こうとしていた。
「やっぱりあれだけ強ければパーティが逆に邪魔なんでしょうか……」
アークが『常勝無敗』の勧誘を断ったのは思わぬ行幸だったが、彼の口から語られた理由はナギの目的にストップを掛けた。
実力で劣り、パーティの雰囲気もアークにとって苦痛になることを予測していたため、迂闊に声をかけることは躊躇われた。
「でも騙すようなことするのは違いますよね」
他のパーティメンバーには話を通してあり、歓迎されているとでも言えば入ってくれる可能性は上がるだろう。
しかしそれでは短期間では"入った"という事実を盾に上手く行くかもしれないが、長期的に見ればパーティの信用が失墜し、自分たちの首を絞めることになるのは確実だ。
それに、ナギ自身がそうやって勧誘することを良しとしなかった。
「……今日は失敗しちゃったけど、私もやれることをやらないと!」
ナギは気持ちを切り替えて、今日も修行をしに森へと向かった。
ーーーあるモンスターの異常種が森で発見されたのは、その直後だった。
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