第6話会話

「ぁ……はぃ……」


 こくり、とシスター少女が躊躇いながらも頷いたことにより、一緒に街に帰ることが決定した。まあ彼女にとっては自分の好き嫌いに命を懸けられるバカでなければ選択肢などあってないようなものだっただろうが。


「……」


「……」


 俺たちの耳に響くのは草木を踏みしめる音と風のざわめき、そして二人の息遣いだけ。

 結構気まずいが、決して戦闘力が高いとは思えない少女が一人でこんな森の奥にいる理由なんて決して、全然、ほんの少しも気にはならないが、流石に厄介ごとに首を突っ込みたくないので聞くのは自重する。

 あと普通に嫌われているようなので、変に話しかけて冒険者ギルドに苦情など入れられたらたまったもんじゃない。

 こちとら家なし金なしFランク、吹けば飛ぶくらいペラペラの身分なのだ。


 ということで、俺から話しかけることはない。

 脇に抱えたデカイ翼の値段を考えて気まずさから逃避する。


「……あの」


 そうして数十分、ふと俺の後ろをとぼとぼ着いてくる少女が口を開いた。


「ん?」


「そ、その……助けていただいてありがとう、ございます……」


 警戒心は感じるが、少女の口から感謝の言葉が溢れた。

 鳥を殺した時でさえそのような言葉はなかったため、常識のない人だと思っていたので少し意外だった。


「うん」


「……なんでこんなところにいたか、聞かないんですか?」


 気になっていたことに触れられ、思わず少し後ろを見ると目があった少女はびくり、と身体を跳ねさせる。

 なんでこんなに嫌われてるんだ……?

 原因が全く思い当たらないので尚更メンタルにきて泣きそうになる。


「……まぁ、めんどーーー聞かれたくなさそうだったからな」


「別にそんなことはないんですけど」


「……そっか」


「……私、力が必要なんです」


 俺の心配を一蹴しそのままの勢いで俺の心に蹴りを入れてきた少女は独白を始めた。


「私は女の子二人と冒険者パーティを組んでいて、冒険者ランクもDランクと着実に成長していました。……ですが、最近私の友達の母親が難病に罹ってしまいました。その病気は特効薬があるんですけど、薬を手に入れるには莫大なお金が必要なんです……。なので、大きなお金を稼げる力が必要なんです!」


 少女は終始オドオドしていた様子からは考えられないくらいに気持ちの入った言葉を紡ぐ。

 しかし、この子が求めている水準の力は本当に必要なのだろうか。


「見たところ後衛のヒーラーのようだけど、あんたに敵を薙ぎ倒すようなタイプの力が必要なのか?」


 そう、シスターーーー教会は一つの事業として治療院や回復魔法を活用した商売をしているため、教会に属するシスターは回復魔法を得意とする人が多い。

 彼女もデカい鳥から逃げ回っていたところを見ると前衛ということはなさそうなので、自衛程度の力さえあれば問題ないような気もする。


「そ、それは……」


 視線を泳がせたあと、少女は意を決したように口を開く。


「私たちのパーティに問題があって……それで私がヒールに専念できないというか……なんというか……」


「はあ」


 別に他の有望株だったり前線を担える人をパーティに加えればいいだけだと思うけど。

 その疑問は、俺が初見から嫌われていることも合わせて彼女の次の言葉で腑に落ちた。


「そ、その……私たち女性三人パーティなんですけど、全員男の人が苦手で……」


「あ〜……」


 だから初めから避けられていたり、会話の際も自信なさげというか、おどおどしているというような印象を持ったわけか。

 なら今も相当頑張って俺に話をしてくれているのだろう。


「まあ、黙っておくのが気まずいとかなら無理に会話してくれなくて大丈夫だぞ」


「え、あ、いえ! そういうわけじゃないんです、けど……」


 尻すぼみになっていく声。チラリと少女を見ると何か言いたげに口を開いては閉じて、を繰り返していたが、結局その言葉の続きを聞くことはなかった。




 そうして街のギルドに着き、少女と別れる。

 俺は脇に抱えた鳥の翼がどれほどの値段になるのか、期待で胸がいっぱいだった。


「あの〜、これ換金お願いできます?」


「あ、今朝ぶりですね。一日目で換金に来るなんてすごいですよ〜! 換金承りまし……えぇ!? なんですかこれ! ナイフバード!? 氷漬け!?」


 新人冒険者を褒めたかと思えば驚いたり、忙しい人である。


「こ、これ、どうやったんです?」


「魔法でカチカチにしました」


「カチカチに」


「はい。氷魔法でカチカチに」


「……と、とりあえず金額を見てもらってきますね」


 信じられないものを見たような表情で俺を見た受付嬢は、つめたっ、と言いながら翼を奥へと持って行った。


「王都に行くわよ!」


「ダメ! あたしたちの実力じゃ王都では生き残れないよ!」


「安全取ってる余裕なんて私たちにあるの!?」


 ぼーっと結果を待っていると、併設されている飲食店の方から甲高い怒声が耳に届いた。


「ない! けど君たちをあたし個人の事情のために命の危険に晒すことなんてできるわけない!」


「私はあんたのために命を賭ける覚悟があるわ!」


 見ると、声の主は王都に行きたがる白パンさんと今朝会った保守的な感じ悪い青髪女だった。


「なんつー巡り合わせだよ……」


 青髪女はともかく、白パンさんに俺がバレると犯罪者などと騒がれそうで怖いので、さりげなく二人のいるテーブルから背を向ける。

 しかし会話は聞こえてくる。


「こんばんは」


「あ、ナギ。どこに行ってたの?」


「ちょっと森の方に行ってました」


 ん?


「ナギ、君はヒーラーなんだから一人で森に行っちゃダメだよ」


「えへへ、ごめんなさい」


 この声な感じ、ナギと呼ばれた女の子はシスター少女じゃん!


「もう……。で、私は少しでも早く大成してお金を稼ぐために王都に行きたいんだけど、どう思う?」


「ダメだよ! ナギも無理だと言ってくれ」


「……私は、行く選択肢もありじゃないかと思います」


「ナギ!」


「ミリアの言うことは分かります。私たちを想ってそう言ってくれているのは痛いくらい感じます。ですけど、私たちだってミリアを助けたいんです」


 ナギは青髪女、ミリアを諭すように言葉を紡ぐ。


「ですが、私たちの今の実力では王都では生き残れないと思います。ですから、新しいメンバーなり実力を伸ばすならなんらかのーーー」


「お待たせしました」


「! はい」


 受付嬢が戻ってきて声をかけたことにより、意識がそちらへと向かう。


「鑑定の結果、金貨10枚ということになります。Cランクの魔物なのですごく高値で売れると言うわけではないのですが、傷などがほとんどなく、更に氷で鮮度が維持されていて素晴らしい状態ですので、金貨10枚という値段になりました」


「おぉ、ありがとうございます」


 よくわからないが、高値で引き取ってもらえたようで何よりである。

 俺は早速お金を受け取り、冒険者ギルドを後にした。


「ねこ、今日はご馳走だっ!」


「にゃー!」




ーーーー


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