第5話シスター服の少女
さて、冒険者ギルドで依頼を受けて街の外にやって来たわけだが、何故俺がわざわざ魔物の討伐依頼を受けたか分かるだろうか。
もちろん一番効率がいいというのもある。
だが、そんなものはただの副産物に過ぎない!
俺の作戦、その名も『たまたま外で強い魔物に出会しちゃって倒しちゃっても仕方ないよね!?』である。
本当に金がない俺にはゴブリンをちんたら屠殺してちまちまランクを上げていく時間などないのである。そんなことしていたら野垂れ死ぬ。
と、いうことでお手頃な街近辺ではなく、少し森の奥へと足を運んでいる。
鬱蒼と生い茂る緑のなかにはさまざまな危険が隠れている。
地中に姿を隠している凶悪なミミズの魔物であったり。
「おらっ」
「ぐぎゃ」
木に擬態している恐ろしい魔物だったり。
ドゴォォ!
「あぎゃっ」
空から油断や隙を窺う猛禽類の魔物だったり。
「おらっ」
「ぴぃ」
このようにたくさんの危険が潜んでいるのだ。
まあ、俺にとってはその辺のウサギみたいなものなので雷や氷の魔法で一掃する。
「よしっ、これくらい倒せばある程度金もらえるんじゃね……?」
十体くらい倒して満足げに死体を眺めたとき、ふと俺は気づいた。
「……こんなに持って帰らんないぞ、これ」
そう、そこそこサイズの魔物を丸ごと持って帰ることは不可能なのである。
おそらくプロ冒険者は希少な部位を剥ぎ取って持ち帰るのだろう。
だが俺にはどの魔物のどの部位に価値があるのかなど一切分からない。
一度ギルドに帰っていては日も暮れてしまうだろう。
「まっずい……」
「にゃにゃにゃにゃ〜《バカだにゃー》」
猫にも煽られた気がする。
絶望して俺は膝から崩れ落ちた。
「うぅ……またメシ抜き野宿なのか……? カンベンしてくれぇ」
俺の嘆きは虚しくも森に消えていく。
そんな時だった。
「ひ、ひぃ〜〜〜!」
女の子の悲鳴が森のさらに奥から聞こえる。
「だ、誰か助けてください〜〜! ホノンちゃぁぁぁぁん! ミリアちゃぁぁん! ーーーぁ」
その声の主は偶然俺の横を通過し、一瞬目が合った。
そして向こうは俺に気を取られて足元が疎かになり、横を通り過ぎた辺りで木の根に躓いてずっこけた。
「ふべぇぇ!!」
「おい、大丈夫か?」
「……」
頭から派手にこけた少女は暫く動かない。
「……ぅ、いったぁい……。あ、あの逃げましょう! 強いまもーーーひっ」
沈黙のあと跳ね起きた真っ白な髪が特徴的な、男受けしそうな体つきをしたシスター少女は逃げよう、と声を上げかけて顔を青くした。
「お、おとーーー」
「PYAAAAAAAAAA!!!!!」
辺りの木々を薙ぎ倒して眼前に現れ、少女の声を掻き消すように鳴いたのは、羽がナイフのように鋭いことが特徴の巨大な鳥だった。
「うるさっ、鼓膜破れるやろがい!」
耳をつんざくような鳴き声をまあまあ近い距離で浴びせられ、耳がキーンとなった俺は苛立った。
そんな俺にはお構いなく、鳥はその鋭い羽を俺と少女めがけて射出する。
「PYAAA!!」
十数本を一気に撃ち出す技は範囲攻撃かつ威力が高く、一般人ならば相当に危険な攻撃である。
そう、一般人ならば。
「よいしょっと」
地面から壁を作るように氷を展開すれば、精々人体に深く突き刺さるくらいの威力なら容易に防ぐことができる。
「PII!?」
この技で多くの獲物を屠ってきたであろう鳥は、あっけなく己の攻撃を防がれたことに狼狽する。
それを傍目に俺は背後の少女に問いかける。
「なあ、この鳥の中で一番価値の高い部位ってどこかわかるか?」
「ぇ……つ、つば……さ」
あまりにも呑気な問いかけに少女は目を丸くして、けれどなんとか言葉を捻り出した。
「翼ね、どうも」
これまでの魔物より少し強そうなので、たぶん綺麗に持って帰れば高く売れる。
そう信じて俺は丁寧に凍らすことにした。
「汚れ無き断罪よ、この声に応え願う。汝の力、氷結を持ってこの地のものに罪を。我は望む。汝の力による答えを。ーーー氷結」
一瞬で周辺の気温が急激に低下し、同時に鳥の周囲を濃霧が包み込む。
「さぶっ……。使い手の俺まで寒くなるからこの属性あんま好きじゃないんだよなぁ……」
そんなことを言いながら一分。
霧が晴れると、そこにはカチコチに凍ったトリアイスが完成していた。
「よし、翼を折って、と」
採取を完了した俺は背後でへたり込んでいた少女を見る。
「にゃーちゃん、なんでここにいるんですか?」
「にゃー」
どうやら俺が連れてきた猫と少女は知り合いのようで、よく分からないが話をしているみたいだ。
「その猫、あんたの知り合い?」
「! ぁ……」
少女は俺を見るなり縮こまるが、なんとか顔を縦に振る。
何やら俺のことが怖いらしい。
そんな人を怖がらせる見た目してないと思うんだけどなぁ……。
「……そっか。っていたぁ!?」
「にゃむ!」
怖がられたことに若干ショックを受けていると、少女の腕を飛び出した猫が俺の腕に噛み付いた。
「いでぇ! ご、ごめんごめんっ! 寒くして悪かったってぇ!」
「にゅ〜〜〜。ぺろっ」
謝れば許してくれる猫。
こいつ何者だよ。
それはさておき、俺はこの後どうするか頭を悩ませる。
この子は俺のことが怖いようで、一緒にいることはあまり望んではなさそうだ。しかし一人で街まで帰させるのも、何かあった時寝覚めが悪いのも確か。
「うーーーん………。俺今から街に帰るけど、着いてきたかったら着いてきな」
頭を捻りに捻って出した結論は、向こうに任せることだった。
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