第4話冒険者
「……んあ?」
割と路上生活者がいるような場所でうとうとして夜を明かし、いつの間にか深い眠りに落ちていた。
そして目を覚ましたとき、何故か俺の前面に温かみを感じる。
「なんだ? ……猫か」
しょぼつく目を擦り腹部を見ると、そこには茶色の野良猫が丸まって暖をとっていた。
まあ、困難なときには助け合いと言うし、俺も暖かいから文句はない。
夜遅くまでしっかりとした眠りにつかなかったからか、今はもう陽も高い。
猫には悪いが、退いてもらって冒険者ギルドに行くことにする。
「ほら、起きろ。悪いけどこれから用事があるんだ」
そう言って頭を撫でてやると、猫は大きなあくびをする。
「んみゃ〜ん」
そしてこっちを凝視するも、逃げる様子はない。
「人懐っこい猫だなぁ。飼い猫かー?」
「んみゃう」
「……首を横に振った?」
「みゃー」
「気のせいか」
「みゃう」
俺の問いかけに返事したように感じたが、俺の声に反応しているだけみたいだ。
「俺であったまってるところ悪いけど、そろそろ冒険者ギルドで金稼がなきゃいけないんだわ。他の人のとこ行ってきな?」
俺は膝の上の猫を横に下ろし、ギルドへと向かう。
「みゃ〜〜〜」
う……俺を呼ぶ鳴き声が後ろ髪を引く。
慣れない街で一人路上生活したこともあり、少し寂しかったのも事実。
「……付いてくるか?」
「みゃ!」
後ろからついてきていた猫が俺の肩に飛び乗り、連れが一匹増えることになった。
確かにこんな感じの相棒を狙われたら怒るじゃ済まないかもな……。
そして冒険者ギルドに着くと、受付嬢と冒険者の一人が揉めていた。
「ワイバーンの討伐依頼は受けたんだから、そいつが死んだとしても何か補償はあるよなぁ!」
「依頼自体が失効したことになりますので、そう言った対応はしておりません」
「おかしいだろ! 隣の街までわざわざ行ってやったのに働き損かよ!」
どうやら俺が焼肉にしたワイバーンの討伐依頼が隣街に出ていたらしい。誰が出したのかは定かではないが。
それを俺が倒したせいで、損したとちょっと不潔な冒険者が不満を漏らしているようだ。
ああいうのには関わらないことが一番だ。
無視して別の受付嬢の前に行く。
「すみません、冒険者登録したいんですけど」
「はい、これに記入してください」
「分かりました」
受付嬢の指示に従って紙に色々書いていると。
「……うるさい。文句あるなら冒険者やめな」
ハスキーな声がいちゃもんを付ける冒険者を制止した。
「なんだぁ? お嬢ちゃん、ママのおっぱいでも吸ってな?」
冒険者は胡乱げな瞳を少女に向ける。
「その言葉、そっくり返す」
「てめぇ……」
適当にあしらおうとした少女に噛みつかれ、冒険者は額に青筋を浮かべる。
そして、拳を固めて振り上げた。
「生意気なガキには社会の理不尽さってやつを教えてやんなきゃなぁっ!」
「ーー爆」
「ぐ、おぉ!?」
炸裂音と同時に吹き飛ばされた冒険者が、紙に必要事項を書いている俺へと飛んでくる。
それを俺はチラリと見た。
「ーーは? なんだおっさんか」
美少女だったら受け止めていたが、汚いおっさんは触りたくもない。
氷の壁で地面に叩きつけた。
「ほげぇ!?」
勢いを殺すことなく地面に衝突したおっさんは悲鳴を上げたのちに意識を失った。
無関係の俺を巻き込んだ当人は青い瞳を少し見開くが、表情の変化を読み取れたのはそれだけ。
ふん、と鼻を鳴らしてギルドを去ろうとする。
「なんだあれ。感じ悪っ」
「にゃっ」
「いて」
思わずついた悪態を背中に隠れていた猫に咎められた。
「……まぁいいか。はい、書けました」
「え……あ、はい。こちらが冒険者カードになります。再発行には別途料金が掛かりますので、紛失にはお気をつけください」
「わかりました」
受付嬢から冒険者カードを受け取る。
もちろんランクは最底辺のFからの出発だ。
「うぐぐ……くそが、あのアマ覚えてろよ……。大人にちょっかいかけたこと後悔させてやる」
目新しい素材に気を取られていると、気絶していたおっさん冒険者が目を覚まし、何やら不穏なことを呟いてギルドを立ち去って行った。
ま、俺には関係ないか。
「お姉さん。自分のランクより高い依頼って受けれんの?」
「自分の実力を見誤るビギナーが多いので、Dランクまでは受けられません」
「そっか。ならこのゴブリン10体討伐の依頼受けるわ」
そうして俺は金を稼ぐために一番割りの良さそうなこの依頼を受けることにしたのだった。
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