第四十二話「ネフティスの闇」
暗い街の外れにあるコンビニで、ただ一人の男がタバコを吸っていた。長めの銀髪に雪のように白い肌、そして黒く光った目が目立つ。そこに灰色のレザーコートを羽織っている。
ポケットの中の携帯が震え、右手で取り出して応える。
「……私だ」
「す、すんませんホウジョウさん……サーシェスがやられました」
「……そうか。なら土の中に埋めておくといい。もうあの男に用はない」
「そ、そうすか……ならそうしておきます」
「あぁ、任せたよ」
通話が切れる音と共に電源を切り、再びタバコに口をつける。そして満天の星空を見上げる。
「黒神大蛇……。やはりお前のような男は危険だ。すぐにでも殺さなければならない……」
――あとは託すしかないのか……宿命に。
◇
緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依
また朝日が強制的に目覚めさせてくる。身体の重さを紛らわすために大きく背伸びをする。その時、誰かにいきなり両肩を掴まれた。
「わっ!」
「ふえっ!?」
「あっははは! 何その反応〜っ!!」
こんな朝から元気いっぱいに俺を驚かせたのは芽依だった。
「はぁ……、朝から気分悪くなるからやめてくれ」
「もぉ〜ごめんっておっ君〜!」
「その呼び名も正直気に食わないからやめろ」
「ひど〜い! せっかくボクがおっ君のために考えた名前なのに〜!!」
昨日の死闘終えてからすぐこれかよ。心身共に休まる日はもう来ないのだろうか。
朝からからかわれてもう疲れ気味になってる俺は再び長いため息を一つつく。
「ふっ、朝から随分とご機嫌だな」
「これのどこがご機嫌に見えるんだ」
「あ、ゆー君おはよっ!」
ゆー君……って、優羽汰の事か。一体いつからここまで馴れ合ってるのだろうか。
「どうやらご機嫌なのは芽依だけのようだな」
「からかわれてご機嫌になる奴などいない」
はぁ……全く朝からここまで疲れるとは。昨日寝た意味が無くなるではないか。
「まぁ、それはそれでいい。とりあえず今日は日没までに蒼乃先輩達がいるホテルに向かうから早く凪沙先輩を起こせ」
……そういえば、まだ凪沙先輩寝ていたのか。よく眠れるよな、こんな所で。
「凪沙ちゃ〜ん! 起きて〜!!」
「ふぐうっ!?」
何かと思えば、芽依が寝ている凪沙さんに抱きついたのだ。本当に破天荒というか、何というか……
「もお〜、重いよ芽依ちゃ〜ん……」
「おもっ!? ねぇ〜ひどいよ凪沙ちゃ〜ん!!」
重いと言われて少しショックだったのか、芽依がね両手で凪沙さんの頭をポコポコ叩く。
「凪沙さん、任務中に寝坊ですか」
「あとごふん〜……」
「早く行きますよ。黒神も退屈そうにしてますし」
「そうか〜……ならしょうがないね〜」
「はぁ……」
何か俺が付き添いに来てる子供のように思われてるようで更に気分を悪くした。
――あれから歩いて約30分が経ち、俺達は近くのカフェで休憩を取る事にした。昨日の戦闘もあってか、俺と凪沙さんはまだ疲れが取れてない。
「ホテル到着まであと5キロといったとこか……」
戦場と化したあの公園から4キロの道を歩き続け、流石の芽依も優羽汰も息が上がっていた。
「はぁ……こんな事なら高校の選択科目でフランス語取っておけば良かったな」
「もう、そんな今更何後悔してるの! 取ったものはしょうがないでしょ!?」
優羽汰と凪沙さんが何やら仲睦まじく話しているが、俺がついていけるような話では無いだろう。
……って、そういえばあの二人は同じネフティスメンバーに所属してるんだよな。なら……
『パンサーの正体は前に自殺した人魚四姉妹の内の誰かだ』
『二日前の夜、何も無いところ……転送装置がある所から爆発音が聞こえたという連絡が入った……』
――昨日優羽汰が言っていたあの話について何か分かるかもしれない。
「あの……お二人さん?」
「どうした黒神」
「何かあった〜?」
「少し気になった事がありまして……、ネフティスメンバーに所属する人全員を教えてくれませんか?」
「えっ――?」
凪沙さんと芽依が当然の反応をする。一方で優羽汰は少し笑みを浮かべながら俺の方を見てくる。
「良いだろう。後々お前らも知る事になるからな。
まず、ネフティスNo.1……現ネフティス総長
「あぁ」
口ではそう言ったが、優羽汰がNo.7だという事は初めて聞いた。
「さて、話すとしよう。まずはネフティスNo.5の
次はNo.9の
「? どうした」
不意に優羽汰の口が止まり、ふと顔を除いてみると少し震えているように見えた。恐らく気のせいだと思うが。
「その……次に紹介するネフティスNo.6なんだが……」
すると、優羽汰はいきなり俺の耳に手を当てこそこそと呟いた。
「今回のパンサー事件に大きく関わっていると俺は推測している人物でもある」
「なっ――」
優羽汰が俺の耳元から顔を離すと、二人が同じことをやりたがっているように見えたので見て見ぬふりをした。この罰ならいくらでも受けるから今は勘弁してくれ。
「で、そいつの名が
あぁ、なるほど。どうりでそいつをパンサー事件に絡んでると疑ってるのか。明確ではなく、単なる情報不足で疑われているのだろう。
「そこで、お前に一つ予言しておこう……」
また優羽汰に耳元に手を当てられた途端、衝撃的な言葉が耳から脳に行き届いた。
「あいつは近い将来、お前を殺しにくる。それもネフティス関係者を含めてな」
「は――??」
――意味が分からなかった。将来俺を殺す? 一体何の得があって俺を殺そうとする? そもそも姿も現さないのに俺を殺す理由は何なんだ。
「あくまで予言だ。確定では無い。だがその証拠としてお前の話を北条の前ですると殺すような目で睨んでくる。
一先ず、北条銀二と名乗る男には注意しておけ」
「お、おう……」
うん、これ完全に何かしら俺を恨んでるなと確信を抱きながら、俺は今届いたオレンジジュースを少しずつ口に流し込んだ。
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