第四十一話「希望、そして真実」

 緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還


 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依



 ……今夜もパンサーは宮殿から宝を盗んだのだろう。俺達ネフティスが桐雨芽依きりさめめいによる思わぬパニックに陥っている間、いとも簡単に盗み去っている事だろう。

 亜玲澄達とはぐれてから今日で4日が経とうとしている。流石のパンサーも盗みに退屈さを感じているのだろうな。


「黒神、起きてるか」


 小声で俺を呼ぶ声が聞こえ、隣でくっつきながら寝てる凪沙さんと芽依を起こさぬよう、ゆっくりと身体を起こす。


「あぁ、この通りだ……」

「そうか」


 少し伸びをしながら隣に立つ青年に話しかけた。正直言って全く眠くない。何たって布団も無いままただ焚き火で暖を取ってそのまま転がって寝てるので、当然ながら非常に寝心地が悪い。

 

 一人夜空を眺める俺に、青年は独り言のように話した。


「お前に言わなければならない事がある」


 ――俺に言わなければならない……か。


「どんな話だ」

「いい知らせが一つ、悪い知らせが二つあるが、お前は先にどっちから聞きたいか言え」

「ふざけてるのかっ……」


 何かからかわれてる気がした。良い方も悪い方も言わなくてはならないならまとめて言ってほしいところだ。


「はぁ……じゃあ先に良い知らせから聞かせろ」


 少し不機嫌そうに言った。このままどうせろくでもない事言うんだろうなと思いながら青年の話に耳を傾ける。


「良い知らせ……それは、白神亜玲澄達の居場所を把握した事だ」

「なっ――!?」

「場所はシンデレラ宮殿近くのホテルだ。この4日間、緊急任務のお陰で無償で泊まる事が出来ているらしい」

「そうか。少なくとも全員無事なのか」


 ……おい、疑ってた俺が馬鹿みたいではないか。ふざけてた割にはかなりまともな事を言うではないか。

 にしてもこの情報は大きい。嘘だとも疑いそうになったが、彼のはっきりした言い方的に少なくとも嘘ではない事が読み取れた。

 完全に安心しきった俺に、彼は深刻そうな表情を浮かべながら悪い知らせを伝える。


「悪い知らせ……まず1つ目はパンサーについてだが……」

「……何だ、正体が分かったのか」

「勘が鋭い男だな……ってまぁ、完全には掴めていないがな」


 この任務最大の謎……パンサーの正体が分かった事が何故悪い知らせなのだ。むしろ意味良い知らせでは無いだろうか。いや待てよ……それでも例外が1つある。


 俺はその例外を予測し、背筋を凍らせた。


「まさか、芽依が……」

「いや、それは無いから安心しろ。もしあいつがパンサーならこんな時間にここで敵と添い寝などしない」


 俺が考えた例外は一瞬にして崩れ去った。


 うん、納得だ。あれでパンサーなのがおかしい。……ということは、芽依が言っていた事は事実と言う事になる。パンサーの存在を知らないというのも、赤の他人を振り回して困らせる自称怪盗というのも、全て嘘偽りの無い事実になった。

 これでもう、芽依を疑う理由も意味も無くなった。


「そうか……」


 少しだけ安心した。思わず頬が緩んでしまうが、すぐに戻す。ここであの二人が起きてたらからかわれるに違いないと判断したからだ。


「安心するのはまだ早い、悪い知らせってのはここからでな……」


 思わずつばを飲む。さっきよりも青年の顔が青ざめているように見えた。そこまでなると本当に悪い知らせなのかもしれない……と覚悟した時、彼の口から衝撃的な言葉が発せられた。


「パンサーの正体は……」



 ――


「なっ――――!?」


 予想外。あまりにも予想外だ。想像の上を超えてしまっていた。いや、俺が知らないだけだろうか。


 ――嘘だろ、まだ特定されてないとはいえまさかあの自殺がここに繋がるとは……


「おい、何故自殺した四姉妹の一人だと分かったんだ」

「二日前の夜、何も無いところ……転送装置がある所から爆発音が聞こえたという連絡が入った……」


 二日前……その日は丁度病院で暗黒神が俺の脳内に喋りかけてた時か。

 

「問題はそこじゃない。物や車の破片、銃弾や爆発物も何一つ見つからなかったそうだ。この時点でそこの転送装置は魔法によって壊された。それも転送装置を狙ってな」

「……」


 おいおい……そこまでくれば人魚四姉妹に限らず、ネフティス関係者も関わってくるではないか。


「おいおい……良い知らせのはずが一転、ネフティスに裏切り者か」

「あくまで俺の予測だが、今回は当たる可能性が高い。さっき言った話が何よりの証拠だからな」

「……今回『は』とは何だ。今まで外しているような言い方だが」

「ちょっ……うるせぇな! いいから2つ目の悪い知らせ行くぞ」


 少し恥ずかしそうにしながら青年が怒った。凪沙さんと芽依が見てたらすぐにからかっていただろう。


「とりあえずその話から離れろ! はぁ……気を取り直して、2つ目の悪い知らせだ。この公園の修復費なんだが……」

「おい待て、まさか全額負担とか言わねぇよな……」

「残念だが、そのまさかだ」


 …………終わった。このスラムと化したこの公園を元通りにするとか正気か。遊具ももう原形をとどめていないというのにどうやって修復すると言うんだ。

 

「安心しろ、ここは新たな公園になる。我々ネフティスが責任をとって全額負担する事になった。だからこの任務の報酬は四分の一以下になる事は言っておく」

「おいおいおい……」


 出来ればこの話は聞きたくなかったんだがな。というかパンサーが人魚四姉妹……及びにネフティス内にいると分かった中で何故こんな事で頭を悩まさなければならないんだ。


「その話はパンサーを捕まえてからにしてくれ。もう頭がいっぱいだ」

「……正直俺も同じだ。話すか迷ったが、これを放置したまま日本に帰るわけにはいかないからな」


 二人は同時にため息を吐く。あまりのシンクロに二人は向き合ってほんの少し微笑んだ。


 ――芽依と凪沙さんのように、俺とこの男も似たようなものなのか……?


「そういえば水星リヴァイスで共に戦っておいて聞き忘れていたんだが……名前何て言うんだ?」

「……お前らには言ってなかったか。俺は桐谷優羽汰きりたにゆうた。その名の通り正嗣総長の長男だ」

「正嗣総長に子供いたのか……」


 これもまた予想外だ。まさか正嗣総長に子供がいただけでなく、同じネフティスのメンバーとして任務を遂行しているとは思わなかった。


「……な、何だその顔は」

「お前総長の子供の割には似てないな」

「べ、別にいいだろ! 母親似なんだよ俺は!」


 やはりこの男は少し俺に似てるかもしれない。まるで兄弟かのように――


 俺はしばらく亜玲澄達に会ってない寂しさを紛らわすために、寝落ちするまで優羽汰と他愛もない話で盛り上がった。

 

 しばらくして公園が静かになると、優しく吹いた風が焚き火を消し炭に変えたのだった。

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