第四十三話「再会の後の誤解」
緊急任務:パンサーと名乗る怪盗を逮捕、シンデレラ宮殿の象徴「スタニッシュリング」を奪還
遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、エレイナ、錦野蒼乃、涼宮凪沙、桐谷正嗣、桐谷優羽汰、桐雨芽依
休憩が終わり、ホテルまでの5キロを俺達はひたすら歩き始めた。
「ねぇ〜、疲れたよお〜っ!」
「凪沙先輩、子供みたいに駄々をこねないでください」
「だってえ〜っ、二人共歩くスピード速いんだも〜ん!」
「ボクも疲れたあ〜っ! ねぇ休もうよ〜っ!!」
……つい10分前に休んだばかりだろ。まぁ男女の違いってやつはあると思うが、俺より多くの任務をこなす凪沙さんに関しては話が別だ。これほどしか歩いてないのにもう息が上がっているのは意味不明だ。
「ネフティスNo.3がこんな所で息を上げるんですか? No.7でさえもまだ余裕ですよ」
「――!!!」
突然優羽汰が凪沙さんを煽り、凪沙さんが脳に閃光が
「あーもう馬鹿にしないでよおお!! そうだよ、私君より強いしこれくらい歩くの余裕だもーん!!!」
「あ、ちょっと凪沙ちゃん待ってよー!!」
馬鹿にされて頬を膨らませながら凪沙さんは俺達を置いて走り去った。
「……ふっ、そう来なくてはな。俺達も行くぞ」
「優羽汰、大丈夫なのか?」
「気にするな、凪沙先輩は扱いやすいからな」
いや、先輩をそんな風に扱っていいのかよ。しかもトップ3の人をだぞ。まぁ、一番フレンドリーで気軽に話しかけやすいのだろうけど。
「って、二人共早くしないと凪沙ちゃんがー!!」
「っと、危ない危ない。黒神、早く行くぞ。煽られるのは嫌だからな」
「はいはい、分かりましたよ……」
ごま粒のような大きさにまで遠くなってしまった凪沙さんを、俺達は死ぬ気で追いかけた。
フランス パリ シンデレラ宮殿付近のホテル――
「はぁ、はぁ……着いた……」
「はぁ〜っ、ボクもう疲れたよぉ〜!」
あれから急いで5キロの道を歩き……いや、走り、ようやく目的のホテルに辿り着いた。
「……ここに亜玲澄達がいるのか」
「蒼乃ちゃんに会える〜っ!」
「……凪沙先輩、随分元気ですね」
「え〜? これくらいで疲れちゃったの〜? まだまだ甘いね〜♪」
「はぁ……そうですよ、俺はまだまだ未熟者ですよ」
……優羽汰も凪沙さんも、どっちもどっちではないか。
「おい、何て顔しながらこっち見てるんだ。早く入るぞ」
「ちょ、おい優羽汰引っ張るな!」
「むふふ〜っ、やっぱ男の子は可愛いな〜♪」
照れ隠しに俺を引っ張ってホテルへと向かった。しかし、その照れ隠しは凪沙さんに通用するはずが無かった。
時刻はまだ午後3時を過ぎたばかりだった――
ホテル7階 703号室――
「おいおいおーい!! 黒坊まだ来ねぇのかよ〜! おい白坊! 酒持って来い!!」
「正義、酔っ払ってるフリをするな。お前が飲んでるのは甘酒だぞ」
「うるせぇ! 名前に酒ってついてんなら酒なんだよ!! 相変わらず細けぇ奴だな!!」
ここに泊まり始めてから今日で5日目。今日もいつも通り騒がしいが、これでも大蛇との合流する日を待っている。少なくとも、パンサー確保に5日も出遅れている。一刻も早く捕まえなければ。
「はぁ〜、パンサーに黒坊かっさられては凪沙パイセンも致命傷だし、おまけに変なヤンキー共がうじゃうじゃ出てくるし……ああああああっ!!! 今回の任務は特段にイライラするぜ、クソッタレが!!」
「正義君、一旦落ち着きましょう。イライラしてもただ他の客の迷惑になるだけです。あの人達なら必ず帰ってきます」
甘酒の缶をテーブルに投げつけようとした正義の右手を蒼乃さんが掴んだ。そして両手で正義の右手を優しく包み込む。
「蒼乃……パイセン」
「ふふっ、本当に貴方は扱いやすいですね」
「へへっ……俺なんかでよければいくらでも扱ってブゴホオオ!!!」
蒼乃さんの笑った顔を見てデレデレになった正義の顔面を何者かが殴り、正義は壁に激突した。
「――!!」
「正義君、大丈夫!?」
「心配無用だぜ嬢ちゃん。……しかし痛ってぇなぁ……、ここホテルなんだからもっと手加減しやがれって、あれ……?」
思い切りぶつけた頭を擦りながら正義は正面を見た。その目の前には、5日前まで見てなかった黒服の青年の姿があった。
「はぁ……、やっぱり5日程度では変わらないか」
「黒坊……」
「大蛇……!」
「大蛇君っ……!!」
亜玲澄、正義、エレイナ……芽依に攫われて以来5日ぶりの合流を果たし、俺は心から安堵した。
「お前ら……無事で良かった」
「そっちも無事で何よりだ。パンサーに
……そうか、あいつら芽依を知らないのか。未だあれをパンサーが俺を攫ったとしか思っていないのだろう。
その矢先に、俺が想定していた事が正義の口から放たれた。
「……おい黒坊、何でパンサーがここにいるんだよ」
「――!!」
亜玲澄とエレイナ、そして蒼乃さんが芽依を見て驚いた。
「……大蛇君、これはどういうつもりですか」
「おい待て、こいつはパンサーじゃない。怪盗だがパンサーの存在を芽依は知らない」
「あぅ……えっと……、ぼ、ボクは桐雨芽依。怪盗だけど、パンサーなんかじゃないからねっ!!」
俺と芽依が慌てて四人を説得するも、まだ信用していない。
「怪盗ったらパンサーしかいねぇだろ!」
「大蛇を
「ちょっと待ってよ! 大蛇君を
……全員が一斉に黙り込む。実際パンサーと遭遇して戦っている凪沙さんだからこそ説得力があるってものか。
「凪沙さん……そうですか、貴方が言うなら間違いでは無さそうですね」
今ので蒼乃さんを説得し、凪沙さんと芽依がほっと息を吐いた。しかし、まだこの戦いは終わってなかった。
「それはそうと、黒坊の件については完全にこいつのせいだ!! 謝罪だけじゃ済まされねぇぞゴラァァァァ!!!」
「勝手に相棒を
亜玲澄と正義が互いに神器を構え、芽依に襲ってくる。
「ご……ごごごごめんなさああああい!!!」
「おいおい待てお前ら! 俺はこうして無事だ。芽依から攻撃もされていない。だからこの件は見逃してってうおっ!?」
何とか説得しようとも、がむしゃらに剣を振るう亜玲澄と正義は止められない。
「万死に値するううう!!!」
「終わりだパンサー! その息の根を止めてやる!!」
「ギャアアアアアアア!!!!」
「お前ら落ち着けっ!」
俺も神器を召喚し、亜玲澄と正義を止める。ホテル内で3つの剣が交わり、火花を散らした。
「はぁ……」
ふかふかのベッドに座りながら、エレイナは男3人に対して長いため息をついた。
「皆……仲良くしようよ……」
エレイナがぼそっと吐いた独り言で部屋が一斉に凍りついた。
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