第二十話「『裁き』其の五 〜一つの決着、開戦の狼煙〜」

『生きとし生けるもの全ては罪を犯す時、相応の裁きが下る』――


 緊急任務:『海の魔女』アースラの討伐、マリエルの救出


 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、マリエル、カルマ、エイジ、トリトン、人魚4姉妹


 犠牲者:???




 白線が海の魔女諸共空を穿つ。それは一筋の流星の如く、或いは隕石か。次第に光は細くなっては空に消える。


「はぁ、はぁ……」


 気づけば身体が宙に浮いていた。いや、浮力で海面に浮いているのか。どうりで背面が冷たいわけだ。


「やったの……かな」


 周囲を見渡してもアースラの姿はない。あの一撃で倒せたんだ。




 ――そう安堵していた時だった。



「――!!?」


 刹那、世界は赤く燃えた。ほんの一瞬の事だったが、その凄まじさは海をも激しく揺らぐ程だった。


「きゃっ……!?」


 海が後ろに激しく波打つと同時にエレイナも爆風で吹き飛ばされる。


「今度は一体何なの……!?」


 水星リヴァイスにおける人間の世界で何が起きているのか理解がつかないまま、女神の少女は荒れ狂う波に飲まれて――




 同時刻、この現象はたちまち大蛇達も目にする――


「おーい、黒坊! もうそろ切り上げようぜ! そろそろ疲れたぜ……」

「お前……40匹は狩りすぎだろ」

「生き延びるに越したことはねぇだろ?」

「それはそうだが……お前の分だけで1ヶ月は生きれるぞ」

「どーせ黒坊んとこの任務? ってやつも長丁場になるんだろ? だったら今のうちに集めときゃまず餓死はしねぇよ」

「そいつら腐ったらどうする気だ……一応生物だからな」


 でもこれで当分困らない量の食料を入手したところでエレイナのいる場所へと戻ろうとした、その時――



 盛大な爆発音と共に爆風が俺達の背中を勢いよく突き飛ばした。


「っ……!!?」

「うぉっ……!」


 あまりにも唐突すぎた余り、二人揃って体制を崩したまま正面に吹き飛んでは地面に転がる。


「ってぇな……って、これはっ……!?」


 歯を食いしばりながら立ち上がった先の光景に、正義は驚きを隠せなかった。


「――!!」 


 俺も思わず息を呑んでしまった。レイブン城が爆発音をたてながら燃え上がり、形に沿って燃え上がる姿が視界に映っていたのだ。


「あのジジイ……やりやがったな」


 正義が怒りと共に右手を強く握りしめ、地面を殴りつけた。


「……黒坊、今すぐあの城に行くぞ」

「おい、海の魔女はどうする気だ」

「んなの知るか! 魔女なんかよりまずあれを何とかするぞ! あれじゃ王国ごと滅ぶぞ!!」

「おい、待て正義っ……!」


 居ても立ってもいられず、正義は全速力でレイブン城の方へ走り抜けた。それについていくように俺も正義の背中を追う。


「ちっ……段々事態が深刻になってきてるな」


 海の魔女を放置するという、本来の任務とは真反対な行動故に様々な不安を抱えながら、俺はそれでも前へ走る。


「めんどくせぇ……早く本部に――!?」


 その時、俺の記憶がフラッシュバックを起こした。そこから溢れてきた記憶は、今と同じような景色であった。ありとあらゆる場所で鋼が衝突し合う音と爆発音、戦士達の雄叫びが飛び交う。


 そしてその中には、返り血を浴びながら迫りくる敵を斬り伏せる俺の姿が――


「過去に……同じ事がっ……!?」


 更に驚くのはここだけでない。戦いの終盤では――王様の心臓に剣を突き刺そうとした俺を殺そうと若い聖騎士が剣を突いたが、貫いたのは俺ではなく、赤髪が特徴の人魚で……


(あり得ない……今とほぼ全く同じだ。変わってるとしたらマリエルがエレイナに変化した事くらいか)


 もしこの予知が正夢なら、マリエルが……エレイナが死ぬ。


『――ごめん、ね。約束……してたのにねっ……』


『せめて大蛇君だけは……生き延びて…………』





 ――嫌な記憶が流れ込んだ。きっと、これはこれから待ち受ける未来なのだろう。一方通行のレールを突き進んだ果てに目にする光景なのだろう。確信も根拠も無い。ただ直感がそうだと叫んでいる。



「……やっぱりあの城に行くのが先か。あの記憶を実現させないためには俺が己の力で捻じ曲げるしかねぇのか」


 この直感がただの夢物語でありますように……そうでなければ、意地でも捻じ曲げる。そう覚悟を決め、俺はレイブン城へと向かうのであった。



 全てはマリエルの死を止めるために。レイブンの民を守るために。そして何より約束を果たすために――黒神大蛇と名乗る青年は、水星リヴァイス史上最大の戦乱に足を踏み出す――

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