第二十一話「『裁き』其の六 〜歪まれた王都〜」

『生きとし生けるもの全ては罪を犯す時、相応の裁きが下る』――


 緊急任務:『海の魔女』アースラの討伐、マリエルの救出


 遂行者:黒神大蛇、白神亜玲澄、武刀正義、マリエル、カルマ、エイジ、トリトン、人魚4姉妹、ディアンナ


 犠牲者:???



 王都レイブン レイブン城――



 王子であるカルマが学友のエイジと共に城を出て旅をしてから、もうどれだけ経っただろうか。実際はそれ程月日が経っていないのかもしれない。でも歳が歳だからか、時の流れが速く感じる。故に離れている時が長く感じてしまう。


「……国王様」

「今は私に話しかけるな。一人にさせてくれ……」


 不安と恐怖が襲い掛かってくる日々。旅の途中で何か事故や事件に巻き込まれていないか、心配で心配でたまらない。豪華な食事すら喉を通らないくらいには。


「……承知致しました。 他のメイド達にも、国王様を一人にさせるよう伝えておきます」

「……すまんな」


 ゆっくりと扉の閉まる音が聞こえ、足音が小さく刻みながら消え去っていく。今この王室に在るのは金と紅の生地で作られた玉座と、そこに座ってうつむく国王の姿だけであった。


「……どれだけ生意気で、親の言う事なんて聞く耳すら持たない馬鹿餓鬼ばかがきでも、長く顔を見なければ心配になるものなのだな。これが子を持つ親のさがというものか」


 ここずっと、手紙すら送ってくれない。元気にしてる、ただその一言さえ返ってきてくれればそれでいいのに。それだけで不安なんて吹っ飛ぶのに。


「カルマ……っ」


 今のあいつには学友もついているとはいえ、両者共に若い。故に世の恐ろしさを、凄まじさを知らない。


「……妻の二の舞には、なってくれるなよ」


 そうだ……私の妻も、外出中に暗殺された。頭と左足、そして心臓の3発に弾丸の穴を開けられ、帰ってきた時にはもう私の精神はぐちゃぐちゃにされた。


 そして今度はその矛先は我が子へ。もう勘弁してくれ、神様。もう私はあの時から誰も死なせないと決めたのだ。だからカルマ達が旅に出るのを止めようとした。たとえそれが本人の意思でも、そんな私の決意が築き上げたプライドがそれを拒んでいた。


 ――でも。それでも。私はカルマを旅に行く事を許可した。我が子の意思を、覚悟を尊重した。レイブン国王以前に、実の父として、そんなカルマの意思を……夢を壊してまで自分勝手なプライドを貫き通したくは無かった。


「……だから、必ず帰ってこい。手紙も、土産話もいらない。お前が帰ってきてくれるだけで、私は――」


 無事に帰ってくる事を願う国王。そしてその背後には、悪魔のような笑みを浮かべる魔女の姿が――――




「家族を想うその気持ち……私にはよく分かるよぉ、国王スーリヤ」

「――!!」

「さぁ、そんな貴方に最高のご褒美をプレゼントしてあげよう――」



 再会という名の、夢のような一時夢に見せた地獄をね。




――――――。




 そしてこの後、レイブン城は獄炎に包まれた。

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