最終話 咆哮(その③)

 スマホに出た途端、慇懃無礼な声が聞こえてきた。衆目を避けようと、TV前にごったがえす人の群れをかきわけ、無人の階段の踊り場に移ると怒鳴りつけた。


「蟇田! お前がやったのか!」


「あなたが言ったンじゃないですか。クトゥルーでしたっけ? それに出てくる邪神を現実に出したら、ボクの〝力〟を信じるって」


 スマホの向こうで、奴は何食わぬ調子で答えた。


 思いだした。昨晩の勤務の休憩時間中、またも自分の〝力〟を誇示しだした蟇田にうんざりして、だったらこれを現実に出してみろと、暇つぶしに読もうとコンビニで買ってあった本を投げつけたのだった。


 それは、クトゥルー神話に登場する邪神などの解説が載ったガイドブックだった。


「今度こそ、信じてもらえますかねぇ?」


 絶句したままの俺に、奴は平然と答えた。信じられなかった。やることが気違いじみていた。


「な……何てことを!」


「心外だなぁ。ボクはただ、あなたが〝望んだこと〟を叶えてあげただけですよ」


「望んでない!」


「……じゃぁ、あなたの本当の〝願いごと〟、今から叶えてあげますよ」


 不穏な声音で奴がそう言った途端、急激な、眩暈めいたものが襲ってきた。



 


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