最終話 咆哮(その②)
「イ……イタクァ……?」
茫然とつぶやく俺を尻目に画面は切りかわり、今度は男性レポーターが映った。
「ここは新宿です! 私は今、信じられない〝もの〟を見ています! 西新宿の高層ビル街のなか、いきなり現れたあの球体の群れ! あれはいったい何なのでしょうか⁉」
高層ビル街のなかを浮遊する、巨大な球体の集積物が映った。太陽のように眩しく、虹色に光り輝いていた。無数の球体は何度も泡立っては分離・集合を繰り返し、定まるということがなかった。一にして全、全にして一。それも何であるか、俺にはわかっていた。
他に居合わせた客や店員たちも、何事かとTV前に群がりだした。人だかりが、たちまちできていった。
画面は次々に切りかわり、蹄のある脚を持った太い幹のような〝もの〟や、粘液質の不定形なアメーバじみた〝もの〟などが、都内各地に出現しているさまを映しだしていた。
「な、何だよ、これ……」
「……怪獣?」
クトゥルー神話だ……。
皆が口々に喋りだすなか、俺は内心つぶやいていた。
クトゥルー神話――クトゥルフ神話、まれにク・リトル・リトル神話などともいうが――米の怪奇作家H.P.ラヴクラフトが創始し、オーガスト・ダーレスや他の後続作家たちが連綿と書きついできた、架空の神話体系のことだ。人類誕生以前にこの地球を支配していた邪神たちが、再びその座を奪還すべく今も策動しているという骨子の、小説群のことだった。
それに登場する邪神や神話生物、奉仕種族たちが、この現実世界に現れだしたのだった。
ポケットのスマートフォンが振動した。
「これで……信じていただけましたかねぇ?」
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