第2話 割れる天井(その②)

 無論、その場の皆が悪いわけではない。


 僕の資質、というか持って生まれた性分の所為なのか、昔から学校や会社、その他どの組織や集団に属しても、いつもそこに染まりきれないのだった。いつの間にか心理的な距離を感じるようになり、必ず浮きあがってしまうのだった。


 何処にいても何をしても、そこを自分の居場所だと感じられない違和感。異物感。疎外感。


 帰属意識が希薄なのか。やはり、幼いころのあの〝癖〟が遠因なのか。


 誰からも話しかけられず、こちらから話しかけても会話は弾まない。実際に疎外されてるわけではないのだろうが、いや、そう思いたいのだが、僕の眼の前のグラスはさっきからずっと空っぽのままで誰もいでくれようとしないし、真向かいに座す、眼鏡をかけた三十過ぎぐらいの男性のグラスがからなのに気づいて注いであげようとしても無視されてしまうしで、気まずい思いを我慢しながら、ただただ、自分で自分にビールを注いではあおり、注いではあおりを繰り返して、手持ちぶさたを誤魔化すしかないのだった。



 ドンドコドンドコ、ドンドコ……。



 手持ちぶさたを誤魔化すのも限界がきてしまった。


 もう、帰りたくなっていた。


 だが、先に座を抜ける、適当な理由が思いつかなかった。


 ビールを急ピッチで飲んだためか、強い尿意を覚えていた。隣席の大学生風の青年に、小声でトイレへ行く旨を伝えて席を立つ。用を足しながら、上手い言いわけを考えよう。


「愉しんでますか?」


 洗った手をハンカチで拭きつつトイレから出てきた時、いきなり声をかけられた。結局、上手い言いわけが思いつかず、どうしたものかと頭を悩ましていたところだったので、ちょっと虚を突かれてしまった。


 声の主は――一人の若い女性だった。

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