第2話 割れる天井(その①)

 あの日は、初めての飲み会の日だった。


 H・P・ラヴクラフトやC・A・スミス、A・ダーレスなどのクトゥルー神話、S・キングにディーン・R・クーンツらモダンホラー勢、そしてその他、幻想怪奇系の小説をメインにマンガや映画が好きな人たちの集まりで、SNSで知りあい、いろいろとやりとりをするうちに親しくなって、年末も押しせまったその日、忘年会も兼ねたオフ会に誘われたのだった。


 店は大手の居酒屋チェーン店で場所は新宿・歌舞伎町の一角、雑居ビルのなかにあり、店の奥の大きめな座敷に三つほど卓を並べて、熱々あつあつな鍋と冷えたビールを前に総勢十数名と大所帯だった。年齢層は十代から四十代と幅広かったが、七対三の割合で男性の方が多めだった。


「奉仕種族なら許せるけど、クトゥルーとかハスターとかの邪神が安易に退治されるのはどうかなぁ。だってそれだと、他の凡百の魔物や怪物のたぐいと変わらないじゃない」


「でも、それだと人類は永遠に負け続けってことでしょ? 展開もずっと同じになるし……」


「いやいや、クトゥルー神話の独自性はそもそも……」


 ――などとマニアックな会話が座敷のいたるところで交わされて、何とも愉しそうだった。


 僕も最初は、その雰囲気を愉しんでいた。


 愉しんでいたが――。


 いつしか、疎外されているような気分に変わっていた。


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