第2話

 夜、台風が来た。


 強い風が吹いて窓をどんっと叩く。

 雨が吹き付けてガラスにぽつぽつと当たる。


 お母さんが夕食前に、僕の部屋に来た。


「あなたの友達のイクオ君、まだ帰ってないらしいけど知らない?」

「知らないよ」

 まさか、まだバッグを探してるってことはないよね?


「そう……お母さんたち、探すのを手伝ってくるから。留守番できる?」

「子供じゃないんだから」


「何言ってるの、子供じゃない。ご飯はできてるから一人で食べてね」

「わかったよ」


「外に出ちゃダメよ?」

「わかったよ」


 僕はイクオのことが心配になった。


 カーテンを開け、窓の外を見ると、雨が横殴りになっている。


 向こうの方に見える川も増水しているみたいだ。


 川に落ちたら助からない。

 ふとイクオが川を流れていく姿を思い浮かべた。


 頭を振るって、リビングに行く。




 目が覚めて、布団から出る。


 リビングにはお父さんもお母さんもいた。


「イクオ見つかったの?」

「それがね……まだ帰ってないんだって」

 お母さんの声は沈んでいる。


「お前も気をつけろよ」

 お父さんはそう言うけど、何に気をつければいいのだろう。




 登校して教室に向かう。


 僕は席についてぎょっとした。


 斜め前にはイクオの席がある。


 机の横には、昨日隠したはずのバッグがかかっていた。


 イクオはバッグを見つけたということ?

 バッグがあるということは帰らなかったの?

 それとも、バッグを置いて帰ったの?


 疑問は色々浮かんでくるけど、一つも答えがでない。


 先生が教室に入ってきた。


「お前らも聞いてると思うが、イクオが行方不明だ。何か知ってるヤツはオレのところまで来い」

 ぶっきらぼうに言って、教室を出ていく。


 僕はいじめていたあいつらを見る。

 気にした様子はなく、ゲラゲラ笑っていた。


 僕は笑う気になれなかった。




 三時間目が終わった後、急に廊下が騒がしくなる。


 行ってみると、みんなが窓に集まっていた。


「あれ見ろよ。やっぱりそうだ」

 誰かが言った。


 僕も窓の方に行く。


 南校舎と北校舎の間には中庭がある。

 

 そこには花壇があって、いっぱい花が咲いている。

 大人の人もいっぱいいた。


 ブルーシートが運ばれて、目隠しをされる。


「オイ、お前ら教室にもどれ」

 先生が怒鳴った。


 仕方なく教室に戻る。


 先生は中庭で何があったのか教えてくれなかった。




 次の日、ツツジの花壇のそばでイクオが死んでいたと聞かされた。


 僕は怖くなった。


 イクオはいじめられていた。

 そのいじめに僕も参加していた。


 だから、イクオは死んだの?

 でも、それならバックはどうして机にかかっていたの?

 僕が隠したはずなのに。


 その答えが知りたくて、僕は考えた。


 いっぱい考えて、答えを出した。


 でも、その答えが正しいなら、どうしてあの人はあんなことをしたの?


 僕はどうしても聞きたくなった。

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