極夜をしのぐ

月井 忠

第1話

 僕には秘密の友達がいる。


 名前はイクオ。


 小学校からの親友だ。

 でも、中学生になってからは違う。


 イクオはいじめにあっていて、僕はそれを無視している。


 家に帰れば、趣味の話でメッセージを送りあっているけど、学校では目も合わせない。


 僕はイクオをいじめてる奴らに目をつけられたくない。


 だから、あいつらに声をかけられたときにはびっくりした。


「お前、イクオと仲が良かったんだろ?」

 僕はゆっくり、うなずく。


 とっさのことで嘘をつくことができなかった。


「これからイクオを痛めつけるんだ。お前、その間にイクオのカバンを隠せ」

「えっ」

 思わず声が出る。


 気が進まない。

 でも、目をつけられるよりはマシだ。


 それに、これは試験なのかもしれない。

 やらないと言ったら……。


 僕はうなずいた。




 イクオのカバンを持って校内をうろつく。


 ゴミ箱だとありきたり。

 他人のロッカーには、物があって入らない。


 向かいの北校舎を見た。

 今いる南校舎とは渡り廊下でつながっている。


 窓の外には小さなひさしがあった。

 あそこに置けないかな?


 見つけられない所に隠すなら、持ち帰って捨てるのと変わらない。

 隠すということは、探し回って最終的に見つけてもらうということだと思う。


 それなら、南校舎から見える北校舎のひさしの上というのは絶好の隠し場所に思えた。


 渡り廊下を渡る。


 授業以外ではあまり使われない三階の理科室に入った。


 窓を開け、身体を乗り出す。


 すぐ下にはひさしがあって、その先には中庭の花壇が見える。

 ツツジが咲いていた。


 狭いひさしにカバンを置こうと手を伸ばす。


 カバンはギリギリひさしに届かない。

 腕を伸ばしてもバッグは宙に浮いたまま。


 しょうがないのでゆっくり手を離す。

 すとんと落ちて、バッグはひさしの上に乗った。


 身体を起こして、窓を閉める。


 よく考えたら、あのカバンを取るのは大変かもしれない。

 イクオは僕より身長が低い。


 僕でさえカバンを落とさなければ届かなかった。

 イクオが身を乗り出しても届くわけがない。


「まあ、いいか」

 僕は理科室を後にする。


 教室にもどる途中、指導室の前を通った。


 中から声がする。

 イクオの声だった。


 指導室には僕らのクラスの担任がいる。

 用事もないのに、ここを占拠してると噂になっていた。


 相手はたぶん先生だ。

 会話の内容はわからない。


 でも、イクオがカバンがなくなったことを先生に話したのだと思う。


 先生なら、ひさしの上のカバンは簡単にとれそうだった。

 これじゃ、せっかくあの場所に置いたのに意味がない。


 少しふてくされて僕は教室に戻る。


 自分のカバンを持って家に帰った。

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