第11話
今日は休みだから、少し楽しみにしていた場所へ行こう。
そう決めていたが、昼には弁当を支給される。
断るのを忘れていた自分の失態ではあるが、私は午後から長距離散歩に向かうことになった。
私は、「ファーマーズマーケット」と聞いて農協、つまり旬の野菜が安く買えると考えていた。
実際に地元ではそうだからである。
旬の野菜が手頃な値段で入手でき、かつ美味しく食べられる。
これは私にとっても幸いな話だ。
そう思っていた。
しかし、距離には戸惑いを隠せない。
徒歩で片道1時間半である。
自転車を借りようと思ったが、事務所に言いに行くのも面倒だと私は歩くことにした。
最近運動不足は否めない。
買い過ぎなければいいのだ、買い過ぎなければ。
自分にそう言い聞かせる。
こうして、片道6kmの旅が始まった。
ただただひたすら、田舎道を歩いていくだけだ。
特段、道中にはコンビニ一つさえなかった。
だが、自然豊かだと感心する時間はあった。
ノミやダニのアレルギーがあるので触れないが、野良ネコがいたことを発見した程度である。
「九州の母の実家……よりかは民家がある程度じゃん」
母の実家は何度か訪れている。
九州のある山奥であるが、家自体は取り壊され、今や竹藪の中だ。
竹藪があり、民家はかなりぽつぽつと点在する程度。
隣人のおばあさんがおり、母は姉ちゃんと慕っている人がいた。
その人は犬や猫を手懐けてしまっているので、来客が来たら動物たちが教えてくれるようだ。
少なくとも、ここが田舎と言うのなら、実家など都会だと言いたくなるレベルの場所である。
ただただ、ひたすら歩く道が続く。
こんな時だから、音楽プレーヤーを持ってきて正解だった。
好きな音楽が疲労を軽減させてくれる気がする。
「本当に一時間半かかったな……」
私は苦笑いしながら、目的地を見る。
ファーマーズマーケット、とは言うが宿泊もできるらしい。
私は思い切って中に入り、動物ふれあいコーナーに足を運ぶ。
一体何がいるのか……?
そう思っての行動だが、いたのは馬、山羊、うさぎだった。
思っていた以上に小規模だ。
岐阜に帰りたい、岐阜にももっといい場所があるから。
そう思いざるを得なかった。
行ってみなきゃわからない。
だから後悔はない。
私はネクタイを買って帰ることにした。
ネクタイは仕事で使うのである。
帰りは面白いことがあった。
まさかのモテ期到来の日だった。
……犬に。
最初はトイプー二匹に熱烈な歓迎を受け、撫でないと怒られた。
犬の扱いは心得があるから、二匹のトイプーは少し物足りなかったようだが、大方満足してくれたようだ。
寮の近くでは、フレンチブルが寄ってくる。
喉元を撫でてやると、嬉しそうにしてくれる。
何故だか犬にモテる日は、嬉しい。
可愛いな、と癒される反面、自分で良いのかな?と思ったりもするのだ。
いわゆる、複雑な気持ちという奴である。
だが、たまにはこんな大規模な散歩をするのも悪くないな。
私はそう思った。
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