第10話

今日は午後から出勤だ。

私は午前中早めに起きた。


いくつか買い物をして起きたいものがあったから。

明日は休みだから、牛すじを煮込みたいと思う。


「久しぶりに食べたいな、牛すじのコーンシチュー!」

と言っても、肉は基本的にそんなに好きじゃないのだが……。

コーンシチューは小さい頃からの好物である。

冬になると、母にねだって作ってもらっては、玉ねぎが多いと大喜びしていた。

自分が作る時も、玉ねぎは他の具材より多い。

シチューのトロっとした汁に、玉ねぎがよく合う、と私は思う。


そして、朝ごはんにも何となく魚が食べたい。

ということで、鮭の切り身を買った。

父方の祖母の家では、毎朝のように鮭の切り身、ご飯、お味噌汁がセットだった。

それに、ミディアムレアのような焼き加減、そして、鮭の身もトロンとしていて、私自身祖母の焼いた鮭は大好物だった。


その祖母に、コツを聞いておけばよかった……。

とはいえども、祖母に聞くことはもう叶わない。

『受け継ぐ着物』の通り、祖母はもう鬼籍に入っている。


父に聞いてみたことはあったのだが……。

残念ながら、父はコツを知らなかった。

というのも、父は料理をほとんどしない。

いつも刺身を切るか、魚を捌くのみなのである。

父曰く、『我が家の男兄弟は基本的に台所に立たないが、俺は魚なら自分が釣り好きだから捌ける』らしい。

実は私が魚を捌くことの師匠は父である。

私も釣り好きだったり、アウトドアが好きなのは父の影響もある。

私は刺身用の柵を切ったり、魚の頭を取ったり、内臓を取ったりするのは得意な方だし、手は後できれいに洗えば良いから、と素手でも平気で捌こうとするのだが、残念ながら未だに三枚おろしも苦手だ。

真ん中がどうしても分厚くなりがちなうえ、皮引きが特に苦手なのである。


あとは、母に習った簡単料理の材料を買う。

牛肉と玉ねぎ、ピーマンをすき焼きのたれで炒めるのである。

これがまた、ご飯が進む味である。

実家にいる時は、私はしょっちゅう玉ねぎとピーマンだけをもそもそ食べていた。

母がその様子にはいつも笑っていた。

キレイに肉を避けて食べるから、面白かったようである。

「ちょっとはお肉も食べたらいいのに」

「野菜が良いもん」

いつの間にか、皿の上には肉だけ残っているということも少なくなかった。

そして、その肉は大抵父の弁当になる。

そんな日々が少し懐かしい。


パンは職場でもらったものが複数あり、冷凍している。

そろそろそのパンの方を消費しないと、冷凍庫がいっぱいで使えなくなる。

野菜や肉、魚も複数入れているのである。

玉ねぎのみじん切りに、もやしを二袋、ミンチをトレー半分、鶏肉の小さいひとパックを半分に分けたもの、ぶりの切り身に下処理をした物など……。


「明日は卵と玉ねぎの買い足し程度ね……」

私は買い忘れたものを見て苦笑いした。

そして、今夜こそは豆腐ハンバーグを作らねば。

そう思いつつ、食材を片付けて、支給された昼食の弁当を食べに向かった。



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