第5話
今日は冷え込む。
しかし、金曜日だ!
肉じゃがをカレーにしちゃおう!
私はそう意気込んで、中抜け休憩の間にカレーのルーを調達しに行った。
ついでに、野菜サラダを食べきってしまったからコールスロー、そして正月の煮つけ用に料理酒、みりんも買っておこう。
明日から三が日までは支給されるはずの昼食も、業者が休みだからない。
焼きそばでも食べるかな……、いや、卵はあるから、薄く焼いてオム焼きそばにしよう。
献立を考えることは嫌いではない。
むしろ、割と好きな方かもしれない。
そんな最中だ。
用事があったらしい父から電話がかかってくる。
恐らく、何か送ってほしい荷物があるかどうかの確認だ。
昨日は他愛のない話だけだったから。
故郷を離れ、もうすぐ一週間。
自分で選んだ道だとはいえ、やはり親が、故郷が恋しい。
数日、と言っても最大で5日くらいなら親元を離れたことは何度かある……。
その時は、やはり自分が観光だったり、勉強だったり、目的を楽しみにしていたからホームシックなどになったことがない。
……ちょっとばかり、寂しいな、と思ったことは何度かあったが。
前職で夜勤だと、両親とすれ違いばかりでまともに話せなかったこともあったが、それでも四日だ。
前職は交代制だった上に、4勤2日だった。だから、四日目の夜勤後は必ず親と顔を合わせてゆっくり話していた。
二ヶ月も顔を合わさないということは今までなかった。
『送る物は特にないんだな、分かった。じゃあ、頑張りなよ。二月の終わり、契約が終わって続けないなら帰ってきたって良いんだから。体調には気を付けてな。泣かないの! お前は頑張り屋だからできるって!』
ついつい涙声になる私に、父はそう言う。
カレーに仕込んでから、仕事に戻ろう。
そう思っていたが、他にも急にやることで立て込んでしまった。
その為、私は肉じゃがをカレーに仕込む前に仕事に戻った。
「お疲れ様です」
仕事は、一時間残業した。
就任してから、毎日一時間残業の日々である。
いざ帰ろう。
そう思った矢先である。
「あ、待って。これ持って行きな」
渡されたのは、煮魚だった。
「ありがとうございます! わぁ、私煮魚大好きなんですよ」
渡してくれた先輩が笑顔になる。
私は部屋に戻り、先に煮魚を冷蔵庫に入れて入浴を済ませる。
寮から少し歩かねばならないのが難点だ……。
それに、私は髪が長い。
洗うのも乾かすのも時間がかかるのは、密かに悩みでもあった。
次にこういった仕事に就くときは、ちゃんと部屋に風呂が付いている場所を探そう……。
私はひそかにそう思った。
部屋に戻って、肉じゃがをカレーにし、魚を温める。
久しぶりに食べた肉じゃがカレーは美味しかった。
魚も、母の味より少し薄味だったけれど、とても美味しい。
私は煮魚を半分食べて、冷蔵庫にしまう。
「残りは明日のお楽しみにしよう。……でも、お母さんの煮魚が食べたい」
私は母にレシピを聞いていなかったことを後悔した。
だが、それは実家に帰る時の楽しみにして、自分なりの煮魚を作ってみるのも悪くないか、そう思うことにした。
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