息子の場合

「少しはメッセージの内容、疑えよ!」

 べっとり血がついた石を川に投げる。


 父の顔は血にまみれていた。


「まったく! 息子のフィアンセに手を出すなんて、とんだ父親だぜ」

 死体を蹴飛ばしながら移動させる。


 川岸まで来ると、おもいっきり蹴る。

 死体は、どぼんと川に落ちた。


 彼女から借りていたスマホも川に投げ込む。


 どうせ、もういらないものだ。




 家に帰り着いたのは朝だった。


 リビングでくつろぐ。


 今日は大変な一日だった。

 大きなため息が出る。


 ピンポーンとチャイムが鳴った。


 ドアスコープから覗くと目の前には男たちがいる。

 母を逮捕する時に来た刑事と同じ顔だった。


 何か予感がした。


 ドアチェーンをしてからドアを薄く開ける。


「すいません。今よろしいですか」

「はあ」

 上から下まで、じろじろと刑事を見る。


 やはり嫌な予感がする。


 ドア閉めて、鍵をかけた。


 どうやら、向こうも気づいたようでドアをどんどんと叩く。


「おい、開けろ!」


 開けろと言われて、開けるバカはいない。


 こうなることを予期していなかったのか。


 案外、警察も愚かだ。




 それにしても、どうして父を殺したのがバレたのか。


 リビングに戻りながら考える。

 ふと、母の鏡台に目が行った。


 そういえば、母は探偵を雇っていた。

 リビングで堂々と父の浮気を調べてくれと言っていたので、丸聞こえだった。


 探偵が父を尾行していたのなら、彼女の家で張り込みをしていた可能性がある。

 彼女の家に出入りする姿を見られたかもしれない。


 警察は父の件ではなく、彼女の件で来たのか。


 どうやら、母の浮気調査に足をすくわれたようだ。


 母には車で轢かれるてもいる。

 さんざんな目に遭わされた。


 しかし、母は彼女と出会うきっかけをくれた人でもあった。


 あまりにうるさいので大検を取るということになった。

 家庭教師として来たのが彼女だった。


 お互いに一目惚れだった。


 できれば彼女の部屋で、彼女の顔を見ながら一緒に眠りたかった。


 ただ、あまり彼女を待たせるのも悪い。

 向こうで、ふくれているに違いない。


 場所はここでもいいか。


 仏壇の前に座る。


「僕たち家族はどこで間違ったんだろうな」

 八年前に病気で亡くなった妹に語りかける。


 妹の写真は今も若いままだ。


 手を合わせる。

「いってきます……ってのは少し違うか?」




 了

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いつかは、おかえり 月井 忠 @TKTDS

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