第8話 白

 わたしの高校ではサッカーが盛んだ。ソフトボール部の無い高校にしようとしたからだ。

 

 中学生の時、親友はキャッチャー、わたしはピッチャーである。事故で急死した親友のキャッチャーの控えが居なかった。地区大会決勝戦で辞退を推奨した監督に対してわたしがキャッチャーをして試合に望んだ。


 勿論、ひどい試合になった。


 決勝戦なのでコールドルールが無く。得点は大差がついた。


 それから二年が過ぎようとしていた。


「撫子さん、ソフトボール部を作りたいの……」

「あ、パス、運動苦手なんだ」

「そう?」


 クラスメイトが声をかけてくるが、何故、何も言っていないのにソフトボールの誘いがあるのだ?


「撫子ちゃん、ナデナデして欲しいな」


 わたしが小首を傾げていると、つぐみが寄ってくる。あー面倒臭い、確かナデナデは一日一回と決めたはずだ。


「ダメです。朝一でナデナデはしたでしょう」

「ダメ?」


 つぐみが上目づかいで話かけてくる。あああ、ここで断らないと一日に何度もナデナデすることになる。


『楽しそうね、わたしの事をもう忘れたの?』


 それは風であった。教室の空いた窓からの風に乗って聞こえた。

亡き親友の声であった。


「撫子ちゃん、顔が真っ青だよ」

「あぁ、ちょっと保健室に行くわ」


 わたしは怖くなり、その場から離れることにした。


 保健室に着くと。真っ白い、ベッドの上に座る。


「少し疲れ気味ね、ゆっくりと休むと良いわ」


 その言葉を聞くとわたしはベッドに横になる。やはり、白い天井が印象的であった。薄れゆく意識の中で白い霧に包まれる。


 そう、全てが白であった。


 あれ?中学生時代の親友の名前は何だっけ?


 わたしは腕を頭の上に乗せて考える。


 それから、気がつくとつぐみが横に座っていた。この白の世界からつぐみの手を握る。


「撫子ちゃん、起きた?」

「あぁ、寝起きは悪くない。でも、親友の名前が思い出せないのだ」


 わたしはスマホの電話帳を見てみる。親友の名前は無いか……。確か消したはずだ。


 手がかりはなし。


 あーもどかしい、でも、今のわたしに必要なのか?わたしの目覚めたのは昼休みであった。


 教室に戻るとまた来客である。


「生徒会の者ですが、撫子さんに役職に付いて欲しいのです」

「は?まさに謎であった」

「わたしの名前は工藤正美、生徒会長です。頼みたい役職は広報部長ですが、わたしの補佐をしてもらいます」

「良いのか、わたしはバカだぞ」

「返事は後日でいいです。決して後悔はさせません」


 正美とは強引にスマホの電話番号を交換してしまった。


「これで友達です」


 上機嫌の正美に対してボー立ちのつぐみは不機嫌そうにしている。困ったな、二人同時に友達としてこなすのは不可能だ。


「違うだよ、これは正美が強引に交換したのだよ」

「へー正美っていうの」


 いかん、わたしは正美を教室から出すとつぐみを見る。


「プンプンだよ」


 あー怒らせてしまった。オロオロとしている。わたしはお昼ご飯がまだであることに気がついた。


「つぐみもまだ食べてないのだろう?一緒に食べよう」

「分かったのだよ。今日もわたしの手作りのお弁当を食べよう」


 よかった、つぐみの機嫌が治った。


「今日はアスパラのベーコン巻だよ」


 こんな日に限って手間がかかっている。


 どれ、一口……。

 

 普通に美味い。


 その瞬間、カタン、何か視点が斜めに落ちていく。わたしは倒れたのだな、白い世界に消えゆく意識の中でつぐみの顔が印象的であった。

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