第1話 目覚めれば、そこは……
「ヤス!」
タツは大声を出し、目を覚ます。
そして、目に映る光景に自分がどこにいるのかと考える。
「俺は確か……アニキに嵌められヤスに刺されて死んだハズ……なら、ここは?」
仰向けに寝かされた状態だと言うのは分かる。少しだけ質のいい掛け布団に見たこともない天井に壁の方を見れば格子窓が目に入る。
明かりは窓から入る陽光だけで天井には照明らしきものは見当たらない。
「病院にしちゃ、ちょっと豪華な気もするな。でも、病院特有の臭いもしない」
タツは痛む体を起こそうとして、自分の体の異変に気付く。
「ん? これは俺の手か?」
身長百八十センチメートルを超え、手足もそれに合わせるように大きかったはずの自分の手が、どうみても子供の手の大きさにしか見えない。
それに脇腹を刺されたハズなのに今は頭がズキズキと痛い。
「どうなってんだ?」
なんとか体を起こし、足も確認してみるが足はちゃんと着いている。でも、その足も小さい。
しばらく不思議な物でも見るように小さくなった自分の手足を眺めていると、「失礼します」と言われ部屋の扉が開かれる。
「坊ちゃん……お気付きになられたんですね」
「え? 坊ちゃん?」
「ええ、坊ちゃん。私のことが分かりますか?」
「え?」
クラシカルなメイド服に背もそれほど高くはないし見た目の年齢は十五,六の栗色の髪をした女性がタツに話しかける。
「どうしました? 覚えていないのですか?」
「ちょ、ちょっと待って……がぁ!」
「坊ちゃま!」
女性が覚えていないのかと言った瞬間に誰かの記憶がタツの頭の中に強制的に流れ込んでくる。
「坊ちゃま! 坊ちゃま!」
「だ、大丈夫だから……しばらくそっとしておいてくれ。ターニャ」
「お、覚えててくれたのですね!」
「あ、ああ。覚えているよ……よく、つまみ食いをして怒られていたターニャだろ」
「そこは忘れて下さい! 覚えてなくていいです!」
やがて、頭の痛みが治まると自分の頭には包帯らしき物が巻かれていること。自分の名がタツではなく、『ドラン・フォン・ディストニア』十歳であることを思い出す。
そして、同時にどうして自分が頭に包帯を巻いて、このベッドの上に寝かされていたかも思い出す。
「私、旦那様達に報告して来ます!」
「あ、その前に鏡ある?」
「鏡ですか? そんなの見なくても十分に格好いいですよ」
「そうなの。でも、ほら! 馬から落ちたんだしさ。一応、念の為にね」
「妙なことをいいますね。では、これを」
ターニャは壁に掛かっていた鏡を外すとタツ……ドランが見えるように、その鏡を持つ。
「どうです? 何か変わったところはありますか?」
「変わった……何もかも……」
「え?」
「いや、いい。ありがとう」
「いえ」
ドランはターニャに礼を言うと、ターニャは鏡を元に戻し、旦那様に報告して来ますと部屋を出る。
「どういうことだ?」
鏡に映ったのはタツの姿ではなく金髪、碧眼の男の子だった。
「まさか、これはヤスが言っていた『異世界転生』ってやつか」
タツ自身はラノベどころか、小説を読んだことはない。愛読書はマンガで、カテゴリーはヤンキー漫画か任侠物だった。
だが、ヤスが『いつか異世界転生して好き放題に生きるんだ!』と熱く語るのを聞かされていたので、なんとなく今の状態を理解する。
「確か、自分で能力を見られるんだよな『ステータス』だったかな。うわ!」
ドランが『ステータス』を唱えるとドランの目の前にはいろんな単語が並んでいた。
「名前はやっぱり『タツ』じゃないな」
名前:ドラン・フォン・ディストニア
年齢:十歳
職業:なし
特殊スキル:カリスマ lv.1 信望者 0人
スキル:なし
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