異世界で任侠道を通します!
@momo_gabu
序章
第0話 目覚めた先は……
「ヤス、本当にこんなところで
「はい。なんでも他の組の者には聞かせられない話とかで……」
「なんか、嘘くせぇなぁ。まあ、いい。例え気に入らなくてもアニキの言うことだからな。でも、なんで俺に直接じゃなくヤスに言うかなぁ。なあ、ヤス」
「はい。それは俺にも分かりません」
「ふ~ん、そうか」
ある弱小組織の構成員であるタツ。そして、そのタツの舎弟のヤスが車に乗って、やってきたのはある港の倉庫だ。現在の時刻は午前一時を回っている。
「それにしても遅いな。本当にここか?」
「はい。でも、確かにここだと聞きました」
車の後部座席からは運転席に座るヤスの様子がよく分かる。
さっきから、落ち着きがないし妙に震えているような気もする。
そんなヤスの様子にタツは悪い予感がよぎるが、まさかな、考えすぎだろうと、その予感をなかったことにし煙草に火を着ける。
「アニキ、来ました! 若頭の車に間違いありません!」
「やっと、来たか。なんでこんな芝居じみたことをするかな」
吸っていた煙草を灰皿に押し付け、車のドアを開けると外に出る。
若頭の乗った車がタツの方に近付いてくる。
だが、タツはここでふと異変を感じる。若頭は他の者に聞かせたくはないということだったが、どうみても運転手役の構成員だけではない。
若頭の乗っている車の後ろには五台の車がタツにヘッドライトを向けて止まっている。
タツは若頭が乗っている方の窓ガラスを『コンコン』と軽く叩くと、窓が少しだけ下げられる。やっと若頭の顔が認識出来る程度だ。
「なんだタツ?」
「なんだじゃないでしょ。アニキが話があるからってこんな場所まで出張って来たってのに……なんだよ、後の連中は?」
「ああ、あれなら気にするな」
「気にするなって、気になるだろ。他のに聞かせたくないって言いながら」
「まあまあ、その内気にならなくなるから」
「なるわけないだろ! だいたい、アニ……グフッ……な?」
「な、その痛みに比べたら気にならないだろ? ヤス! タツが苦しんでいるぞ! 舎弟なら、苦しくないように仕留めてやれよ!」
「ひぃ……す、すみません。アニキ、ごめんよ!」
ヤスが『グッ』と力を入れてタツの脇腹を抉っているドスをタツの体の奥へと差し込む。
タツは若頭の車に体重を預けながらもヤスの体をなんとか掴む。
「ヤス、どうしてだ?」
「ヒッ……す、すみません。でも、こうしないと
「バカが……アニキの口車に乗せられやがって……」
「おいおい、タツよ。口車はひでぇな。俺は組の為を思って動いているんだぜ」
「な、何が組の為だ! 親父はカタギの人を泣かすような真似はするなと……」
「あ~ごめんな。それだと食っていけないんだよ。任侠ごっこはお前と親父だけでやってくれな。ヤス、早いとこ楽にしてやれよ」
「で、ですが……」
「あ~もう、かったり~な。ほら、こうやってグリグリって抉ればいいだろ? な?」
若頭は車から降りて、ヤスの手に上から自分の手を添えると、そのままタツの内部を抉る。
「グフッ……」
「まだ、生きてるか。しぶといな……おい!」
「「「はい!」」」
若頭の言葉に三,四人の構成員が身に潜ませていたドスを抜くとタツの体に突き立て離れる。
「アニキ! ごめん。ごめんよぉ~」
「ヤス、バカだバカだと思っていたけど……ホント、バカだな~」
「アニキ~」
「これで放っといてもくたばるだろ。おい!」
「「「はい!」」」
仰向けになって倒れたタツの体に寄り添うヤスに若頭は構成員に指図する。すると構成員は刃を上にして腰だめに構えるとヤス目掛けて刃を突き立てる。
『ドスッ』という鈍い音と共にヤスの体に呑み込まれる。
「若頭……なんで?」
「なんでって、タツはお前のアニキだろ? 一人で逝かせるのも寂しいじゃないか。なあ」
「そ、そんな……」
「ヤス……バカだな……」
次の日の新聞には『深夜に暴力団の男性二人が仲違いで乱闘した結果、相討ちしたと思われる』と小さく載っていた。
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