第35話 暴走する器用貧乏。
少し予定を変えて2日目には料理とスイーツ作りを覚え、3日目には旧冒険者チームファイヤーチャリオットの薬師で現在はスード・デコの妻、メイディ・デコが講師として指導をする。
ロリーは横に来ていたスードに「あら久しぶり、どうしたの?」と話しかけ「妻が貴族相手で緊張してるから着いてきた」と答える。
久しぶりで近況を伝えあっていない事もあって「あら、あなた結婚していたのね?」と驚くロリーにスードが「ああ、もう8年になるな」と答えた。
「この8年もミチトのおかげで安泰だから俺はガットゥーにも行かなかったし、妻がファイヤーチャリオットを引退したのは5年前だから言いにくくてな」
それは暗に冒険者の妻が命を落とす危険もあった事を示唆している。
「成る程、子供は?」
「妻は子供が産めない。だからこそ薬師になって自分のような人間を生み出さないと言っている」
「あ……ごめんなさい」
「いや、今じゃトウテの子供達は皆家族だし、オフクロも俺みたいのが結婚できただけで万々歳って言ってくれてるよ。懐いてくれている孤児もいて妻とは子供に迎え入れる話も出てる」
この間も授業は進んでいき、ミチトがとんでもない事を始めてしまっている。
「えーっと、とりあえず少しだけ頭痛が起きる薬を飲んでもらいます。それで薬師さんの教えで頭痛に効く薬を作って飲んでね。薬がちゃんとできていれば治るし、ダメだった時って頭痛の悪化となんでしたっけ?」
この言葉に薬師は「…本当にやるの?昏倒よ…?」と説明をする。
ミチトはニコニコと「だそうです!皆がんばってね!死にそうにならないように見てるから安心してね!」と声をかけると頭痛が起きる薬を自分の子供を含めて全員に配っていく。
引き気味に見て「…スティエットさん…」というロリーを見てスードは「アンタよく息子と娘を送り出したな」と言った。ロリーは「安全な場所での訓練だからまだ…ね」と言うのが精いっぱいで、他の親も口には出さないが子供達を案じていた。
ロリー・ガットゥーは気が気ではないが見守ると子供達は頭痛に悩みながらもなんとか薬を作って飲んでいく。
ミチトはノリノリで「メロはケーキの計量が出来るから丁寧だね!トゥモ?ヒールはさせないぞ!」と子供達にエールを送っていく。
心の弱いアタリー達は泣いて両親に助けを求めるがミチトが睨みをきかせて許さない。
「ダメだよ。君達は1人で生きていけるように皆辛いけど応援してるんだ!逃げちゃダメだ!」
この言葉にヒーヒー言いながらなんとか薬を作り上げていた。
その後は座学で毒草と薬草の違いを見分けたり確かめ方を教わっていく。
イイテーロ達はミチトが余裕をかますのが気に食わない顔をしたが「あ!その毒ってマンテローに飲まされた奴だ!そっか、薬草も根っこと葉っぱで薬作れば良かったのか…あの時は茎のせいで効果が甘くて苦しみながら山賊を倒したから大変でしたよ」と明るく話すミチトに何も言えなくなっていた。
そして終わり際、新たに作った孤児院からスードと薬師に懐いている女の子がミチトに連れられてくる。
スードは女の子を連れてきたミチトを見て「ミチト?アザァを連れてきてどうした?」と声をかける。スードの声にアザァは「スードさん、こんにちは」と挨拶をして慣れた手つきで薬師と手を繋ぐ。
ロリーは確かにその姿は親子にしか見えないと思っていた。
ミチトはスードを見て「えーっと、試すようで悪いんですけどスードさんはアザァのお父さんになってくれません?」と言い出した。
言葉の意味を理解できないスードが「は?」と聞き返すがスードは無視されて「薬師さんもママでいいですよね?」と言われる。
薬師が「え?」と聞き返してもミチトは無視をする。
この会話だけで周囲に起きるどよめきの声。
ミチトは今度は女の子に「アザァ?アザァもアザァ・トウテじゃなくてアザァ・デコにならない?」と声をかけて、アザァも「守護者様?」と聞き返すがミチトは無視してスード達に「いいですよね?」とか言っている。
話の読めない面々は目を丸くしてミチトを見ている中、リナが「ちょっとミチト?何を考えてるの?」と聞きにいく。
ミチトはようやく止まってリナを見て「メロを俺の娘にする為の術を作ったんですけど、メロだとまだ今のままだとちょっとうまく行かなくて、理論上は成功しているのでスードさん達とアザァを親子にしてみようと思ったんですよ」と説明をした。
「パパ?メロの事なの?」
「そうだよ。メロがいつまでもマロの事とか気にするからそこら辺を考えて術を作ったんだよね。でもこの前使ってみたけどメロはちょっと上手くいかなくてさ」
この説明に離れて見ていたローサが前に出てきて「あらあら、またとんでもない事を考えたのね?」と言う。
「ダメですかね?」
「まあ条件付きかしら?流石に問題が起きるわ。とりあえずスードとメイディさんの件は3人の許可が出れば領主の妻の権限で許しますよ」
ローサの言葉に「ありがとうございます」と言ったミチトはそのままスードと薬師に「とりあえず義理の親子じゃなくて親子になりません?」とまた話す。
「お前…そこら辺をなんとかできるのか?」
「ええ、メロの為に考えました!」
「でもメロさんは上手く行かなかったのよね?」
「ええ、メロには生みの両親が存命ですから今の一式だと失敗するんで改良型の二式を作ろうと思ってます。まあ話を戻すとアザァのご両親は事故死されているので問題ありません。本物の両親になりませんか?」
混乱するスードはなんとか踏ん張って「ミチト、順を追って聞くぞ?」と言う。
「お前はメロの為にメロと親子になる為の術を作った」
「はい。でも一式だとダメだったんですよねぇ」
「でもアザァのご両親は亡くなっているから上手く行く?」
「はい。理論上です。まだ誰にも使っていないんですよ」
「それをすると俺たちはどうなる?」
「バッチリ親子です。いやぁ、少し手がかかってるんですよ。まあ親子と言っても元のご両親の形も残って混ざるので少しだけしか変化しません。とりあえず良かったら騙されたと思って親子になりませんか?」
スードは妻であるメイディとアザァを呼んで「ミチトの話…どうする?」と聞く。
「私は…懐いてくれるアザァが娘になってくれるなら…嬉しいけど」
「アザァ?お前は孤児院で皆と暮らすのと俺達の子供になってサミアで暮らすのとどっちが良い?」
「私、スードさんをパパって呼んでいいの?メイディさんがママ?…いいのかな?私スードさんにもメイディさんにも似てないよ?」
アザァの言葉にスードは「いや、見た目なんてどうでもいいんだ、本気でなってくれるなら俺は歓迎だ、メイディは?」と聞くとメイディは「私だって子を成せない身体なのに娘が来てくれたら嬉しいしお義母さんにも喜んでもらえるし…」と言う。
横で聞いているミチトは作った術を使いたくて「じゃあなりましょう!」とせっつく。
それを見抜いたアクィが「ミチト、やめなさいよ」と止めてスードは「悪いことにはならないよな?」とミチトに聞く。
「はい!バッチリです」
この言葉でスードはアザァを娘に迎える事を決める。
「じゃあ手を繋いでくださいね」
スード達は3人で輪になるとミチトは「よーし!大仕事だから頑張るぞ!右手に青くした術を流してスードさん!左手は赤くして薬師さん!両方を走らせてアザァに入れる!」と言って力を使うと青と赤の光がアザァに集まって紫色になる。
「準備完了!造縁術!」
この言葉と共にアザァの身体が眩しい光を放つ。
光が晴れるとアザァの姿は変わっていた。
見た目が大きく変わるわけではなく髪色が赤毛からスードの焦茶色になり、目の色がグレイがかった朱色から薬師の青に近いグレイがかった青になっていた。
「出来ました!」
この言葉に見ていたリナ達は「…なんか…髪の色と目の色だけなのにアザァがスードとメイディさんに似てる気がする」と驚きを口にし、イブが「ミチトさん、また恐ろしい事を思いつきましたね」と言った。
ミチトは「イブは酷いなぁ」と言いながら「キチンと魂の概念を意識してスードさんと薬師さんの魂とアザァを繋げたから娘になれたよね。見た目は折角だから髪の色と目の色をお父さんとお母さんから貰えるようにしたんだよね」と説明をした。
これを聞いていたスードとメイディは「ミチト?じゃあ…アザァは本当に俺の娘になったのか?」「私の娘?」と確認をする。
ミチトから「はい!自分達でも似てるとか子供って感じが出ますよね!」と言われて目の前の小さな女の子を見ると確かに今まで感じていた他人の感覚が無くなっている。
スードとメイディが言葉を失っているのでミチトは「アザァもどう?」と確認をするとアザァは「…不思議です。スードさんって感じじゃなくてパパって感じがします。メイディさんもママって感じがする」と感想を言った。
「うん。良かった。成功です。ありがとうございます」と言ったミチトの声で集まっていたギャラリーからは歓声が湧き上がる。
正直メロの為にスイッチの入っているミチトからしたら後はどうでもいい。「さ、上手く行ったし二式作らなきゃ」と言ってニコニコしているとメロとローサが前に出てきて「二式は認めません」「パパ、大丈夫だよ。メロはパパの子だよ」と言う。
「え!?なんで!?」
「あの術は私からしたら完全な禁術よ。使わないでくださいね」
「…パパ、申し訳ないけど使っちゃダメな術だよ」
困惑するミチトにアクィが「あなたね、確かにメイディさんみたいに子を成せない人には素敵な術でもダメよ。でもそれなら身体を治して子を授かれるようになる術を考えなさい」と言う。
周囲からのダメ出しが理解できないミチトは「なんで!?」と言って狼狽える。
狼狽えるミチトを見て「だめだ、完璧にメロのことしか考えられてない」とリナが言うとイブが前に出て「ミチトさん、命がぼやけるからだよ?ミチトさんは違うって思っても受肉術と反魂術と確定術に近いイメージになってて、嫌な話だけど有能な跡取りが欲しい人が普通の才能の子供を殺して造縁術で有能な子供を跡取りにしちゃうかもしれないよ?」と説明をした。
ここでイメージができて唖然とするミチトにローサが「だから認められません。まあ孤児院の子を子を産めない人にという点ではいいけど出来たら使わないで欲しいわね。実際にアザァさんを見たら完璧に2人の子供になってたわ、だからダメよ」と言う。
肩を落としたミチトはスードに「もう造縁術使っちゃダメって言われた」と告げ口をすると「俺達は助かったよミチト。感謝してる。ありがとな」と明るく返されて何も言えなくなっていた。
ちなみにライブから「メロは両親が居るから出来なかったの?」と純粋に疑問を聞かれたミチトは「うん。後は手を繋がないでもやれるようにこっそり驚かしたかったのと、俺とリナさんとアクィとイブとライブの娘にしようとしたら髪色だけでも沢山あるからか上手く行かなかったんだよね」と答えた。
ライブの脳内には自分に似た緑色とイブのピンクとアクィの赤が合わさったメロをイメージして「…それはメロが可哀想だよ」と意見をしておいた。
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