第34話 アルマとフィップの転機。
ミチトは肉を食べている親達に「どうします?最初の週だけ居ます?」と話しているとローサがイブと来る。
「ミチトさん、是非滞在して貰いなさい」
「ええ、明日はリナさんと俺と料理ですし、出来たものを残さず食べて貰いたいですし、明後日はアクィとケーキ作りです」
そんな話をしているとフィップからすれば老婆が金髪の女性と共に現れて「かーっ、また貴族様が集まってら」と言いながらロシーとロリー、ナイワに「元気そうで何よりだな」と話しかけると3人とも恭しく頭を下げて夫達も頭を下げる。
そのままマエーノ達を見て「よし、元気そうじゃないかい!良かったな!」と言う。
イイテーロが「誰ですか?」と聞くと「お前達を母ちゃんの腹から引っ張り出してやった産婆さんだよ!お前達が帰ってくるってサンちゃんに聞いたから顔見に来たんだよ」と言う。
そのままアルマを見て「アルマ!これから1人産まれるから着いてきな!」と声をかけるとアルマは「はい!」と立ち上がる。
そしてフィップを見て「この子はどこの子だい?」と聞く。
フィップはこの場では誰が偉いかわからないので最大限注意をしてキチンと姿勢を正して「私はフィップ・ジャックスです!」と挨拶をした。
老婆…産婆の産バアはローサを見て「大奥様、貴族さんですか?」と聞く。
ローサはニコニコと「ええ、サルバンの隣のジャックスさんの所の未来の領主様ですよ」と言うと産バアはフィップを射貫くように見て「なら着いてきな!領主になるなら数で領民を見るんじゃないよ!生まれてくる子供の顔と生まれる大変さを見て良い領主になりな!」と言った。
「え!?」
「ガタガタ抜かしてる間に頭出てきちまうから急ぐんだよ!サンちゃん!弟子追加!よろしく頼むよ!」
ノリノリの産婆の前に出るナイワは涙ながらに深々と頭を下げて「アルマが領民を思える子供になりました。ありがとうございます」とお礼を言う。
この姿に心打たれたフレア・ジャックスも産婆に頭を下げて「愚孫をよろしくお願いします」と言うとロシーとロリーも是非うちの子もと頭を下げる。
気をよくした産婆は「かぁー!仕方ねえ!あんまり大人数で行くと赤ん坊が驚いて引っ込んじまう!お前達は1ヶ月は居るんだろう?いつ呼ばれてもいいように覚悟しておきな!」と言うとミチトの前に行って「守護者様よぉ、ものは相談だがよぉ、アルマに与えた火の術と、後はヒールを全員に仕込めって!な?」と言い始める。
「え!?」
「んだよ、やれんだろ?それとも何か?出し惜しみして妊婦や赤ちゃん殺す気か?」
フィップからすればあの闘神が慄く姿に目を丸くした。
ミチトは「ええぇぇぇ…やれますけど、フィップ君にいきなり火の術は無理ですよ?アルマには前もって仕込んでおいたからお湯を作れましたけど…」と説明をする。
「ならヒールはやれんだな?」
「まあかすり傷を治すくらいのヒールなら今すぐ教えられますけど…」
「ならすぐだよ!そんで時間食っちまったからダイモまで連れて行きな!」
「はい…」
肩を落としたミチトはそのままフィップに術知識を与えてダイモまで連れて行く。
アルマとフィップが戻ったのは夜ご飯になる直前で「…あれが産みの苦しみ…」「あんな経験を領民にさせてはダメだ」と言って頷き合う。
ミチトは共に帰ったサンフラワーを呼び止めて何があったかを聞くと「結構危ない妊婦さんで赤ちゃんも調子が悪くて死にそうだったの。お母さんは血が止まらなくて危ない所で私は再生促進術で血を作ってあげてアルマくんが赤ちゃんにヒールをしてくれてフィップ君がお母さんにヒールをしたの」と説明をする。
「え?フィップ君のヒールって教えたばかりだからかすり傷程度にしか効かないよ?」
「…産バア先生が「気合い入れな!何やってんだい!お母ちゃんが死んだらこの子がどれだけ悲しむかわからないのかい!若いんだから命振り絞りな!」って…」
目にものが浮かぶ。
ヒートアップした産婆に言われたフィップは限界を許されずに産婦が助かるまでヒールを使わされる。
弱音は吐けない。
倒れたいが倒れられない。
それは年下のアルマが頑張っているのに自分が倒れられないという意地と未来の領主として平民を見捨てられないという意志から来ていた。
ミチトはサンフラワーの話を聞くとぐったりしているフィップの手を取って「えらいね。頑張ってきたんだね。サンフラワーが教えてくれたよ」と褒めるとフレア達からはどよめきが起きる。
フレアはぐったりした孫を見て「フィップよ…何をしてきた?」と声をかけるとフィップは「死に瀕した母を救えるのは私達だけだと知り、倒れられないと思い歯を食いしばりやり切りました。そして助かった母とその夫が涙ながらに私に感謝を伝えてくれた時の顔が忘れられません。アルマ・カラーガと手を取り合って喜びあった時、サンフラワー様と産婆様の褒めてくれる言葉で私は男だからとこれまで産まれる命に関わらなかったことを恥じました」と説明をする。
フレアに話しながら泣いてしまうフィップをサンフラワーが「本当にありがとう。私だけだとお母さんは助けられても赤ちゃんは無理だったりしていつもならイブさんやシアちゃん達に来てもらうけど今日はフィップ君達が横にいてくれて助かったよ」と言いながらフィップの涙を拭う。
そしてサンフラワーは涙を拭いながらフィップの横でフラフラしているアルマを見て「マスター、アルマ君も1人で赤ちゃんが産声を上げるまでヒールをしてくれたよ」と報告をする。
「うん。良かったよ。アルマ君もお手伝いありがとう。2回目でこんなにやれるなんて立派だよ」
「ありがとうございます!僕もサンフラワーさんに褒めてもらって自信がつきました!」
そのやり切った顔にナイワはその場で声を上げて喜び泣く。
フィップはフレアに「お祖父様、ジャックスは温泉に恵まれていても湯治は母親や赤ん坊には刺激が強いとサンフラワー様が教えてくれました。ですが大きな湯で体を休める事は必要らしいので温泉以外の浴場を作りましょう!」と言い、フレアも「勿論だ。帰ったら土地選びから始めよう」と言う。
だがそこはブレないミチトが「いや、フィップ君はまだ帰しませんからね?」と口を挟んだ。
夕飯はそのまま火の術の訓練として解体した獣をまた食べる事になった。
ロリーとイイーンダは青い顔でミチトに懇願すると「イイテーロ?君の不始末でロリーさんとイイーンダさんが苦しんでるよ?どうするの?」と詰め寄る。
イイテーロは半ベソをかきながらも「ミチトおじさん。ごめんなさい。来週はもっと頑張りますからお父様達に美味しいお肉を食べて貰いたいです」と言う。
この謝罪一つでもロリーは喜んで口元をおさえて泣いてしまう。
ミチトはどんだけダメなんだよ貴族と思いながらも何とかしようとした時、席を外していたロゼがミトレとエスカを連れて戻ってくる。
「解体したお肉なら山爺ちゃんと山婆ちゃんが居てもいいよね?」
「えぇ?わざわざ母さん達を呼んだの?」
ロリー達は立ち上がってエスカの手を取って感謝を伝えるとエスカも照れて真っ赤になりながら「私も皆さんにご指導できて良かったです」と言う。
結局、ロードの肉とアルマの肉はエスカが手を貸す事で食べられる状態になり、イイテーロの肉に関してはミチトが直し方を考えていて水の術で臭みを洗い流してしまった。
夕飯は火の術の訓練で串に通された生肉を術で焼き上げて食べる。
ここでタチが悪いのはフィップは疲れているが待ったなしの助け無し。
ロード・ディヴァントは1人で父母と叔父、祖父母の肉を焼かなければならない事だった。
フィップはヘトヘト顔で「…お…お祖父様、頑張ります」と言うとフレアも遠慮なく「期待しているぞ」としか言わない。
ロード・ディヴァントの所も母のマテが「ロード、お母さんお腹すいちゃったかな?」と言うと父のロキが「そうですね。私はいいので先にマテに渡してくださいね」と言う。
ロードは目を白黒させながら「えぇ……頑張ります」とだけ言って串に集中をした。
そしてスティエット家も容赦はない。
「はいトゥモ、右手の串と左手の串でちゃんと焼き加減変えてね。こっちの串は焼きすぎると肉が硬くなるからね」
「ライブママ!酷いよ!なんで俺だけ1人で6本も串を持つの!?」
「ジェードもやっているわ」
「ロゼちゃんもやってますよ!」
ロゼもジェードも黙々と串を渡されると肉を焼いてエスカやミトレ、ナハトやナノカに渡していく。
末弟のコードだけは要領よく「お母さん焼き加減見て」と言って肉を焼く仕事から逃げている。
ミチトは自分の家の横で肉を焼くシヤを見て「それにしてもシヤは凄いね。シーナとヨンゴにキチンと教えてるね」と声をかける。
シヤは「うん。シーナもヨンゴも術の才能があったから教えているんだ。あの日からうちのお風呂は2人が温めてくれている」と報告をする横でヨンゴとシーナは「マスター!焼けたよ!」「シーナのお肉食べて!」と言ってミチトに肉を持ってくる。
ミチトは「良いのかい?」と言って食べると「美味しいね」と喜ぶ。
こうして訓練生活は始まった。
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