第33話 フィップ・ジャックス。

後にフィップ・ジャックスは「天国と地獄の4週間を過ごした」と言った。


トウテに集められた貴族の子供達。

中には初見のモブロン家の子供達まで居た。

マエーノ・モブロンとアタリー・モブロンの2人はイトコ同士のイイテーロ・ガットゥーとロワ・ガットゥーと和気藹々といった感じではなくどこかよそよそしい空気を出していた。

後になってフィップは知る事になるが元当主代行のロシーが完璧主義者で妹の子であるイイテーロとロワを助けて導いてやれと言われていた事を曲解していただけだった。


ギスギスした雰囲気のマエーノとアタリーは早速闘神に怒られていた。


「ダメだよ!誰一人脱落させる事なくやり遂げるからね!助け合いだよ!」

そう言った闘神は開始の合図として天高く浮かぶ天空島に子供達を連れて行くと容赦なく天空島から放り投げた。


事前にある程度のペアが決められていてフィップは闘神の長男タシア・スティエットと末弟コード・スティエットと落とされる。

今回の参加者の中では一番年上という事で泣き言は言えないと歯を食いしばったが何分落ちても地表の見えて来ない現実に即時陥落をした。


マエーノとアタリーは泣き言を言っていて気絶しないように落下経験のあるイイテーロとロワが手を尽くしていて落下する頃には多少仲良くなっていた。



最初の獣の解体訓練では平民で初老の女が指導をしてくれたが、そこで尊大な態度をとったマエーノはジェード・スティエットに「お前俺の婆ちゃんに敬意とかないの?死ぬか?」と言われて「とりあえず泳いでこい」と言われて湖まで風の術で飛ばされていた。


それを見ていたフィップはタシアとコードに「…あの人、君たちのお婆様なの?」と質問をする。

タシアも普通に「ええ、そうですよ」と言うとコードが「フィップさんって見た目で決める人?」と聞いてくる。


フィップは混乱しながらも「いや、そんな事はしないよ。スティエットって言ったら今じゃ陛下の次に偉いってお爺様から聞いていたから…」と言うとタシアが笑いながら「お父さんは別に偉くないって言うよ」と言った。



こうして始まった解体訓練だったが慣れない子供達は必死になって覚えていく。

フィップは祖父フレアから教わっていた経験で問題なく終わってドヤ顔をしたが数秒後にドヤ顔は消える。


食べられない箇所を見た闘神が「あ、それうちの子達が食べるから持って行こうか?」とフィップを誘う。


フィップが「うちの子?」と思っていると現れたのは狼が2匹と熊。


「狼!?熊!?」

「うん。俺の家族だよ。この子がグレイでこの子がウルクン、こっちはクマキチね」


闘神は狼達に「この子はフィップ君、フィップ君が解体したお肉なんだけど食べてくれるかな?」と言うと3匹は嬉しそうに人間が食べない肉を食べてフィップに頬ずりをした。


とても怖い経験だったとフィップは記している。



次に現れたのは闘神の妻、リナ・スティエットで串を渡してきて今解体した肉を刺すとその場で焼いて食べさせてくれる。


これに関しては雑だったイイテーロ・ガットゥーが解体に失敗していて肉に臭みが移ってしまって食べられないと言ったが闘神から「ダメだよ。食べるんだ」と圧を放ちながら言われて目を白黒させながら食べていた。



闘神は「んー…。母さん、来週もよろしくお願いします」と言うと闘神の母は「ええ、勿論よ。皆初めてなのに上手だったけど、ミチト?来週はウサギから始めましょうね」と言った。


闘神が「あー、確かに。ロードなんて猪に四苦八苦してましたもんね」と言って王都に住むロード・ディヴァントを見るとリナ・スティエットが「まあローサ様やマテからもビシバシやっていいって言われたから良いんじゃない?」と言っていた。


「山婆ちゃん!ありがとう!また教えてね!」

「ええ、ジェード君も上手だったわよ。また来週ね」

闘神の母はそう言うと別の闘神の妻ライブ・スティエットに連れられて帰って行く。

お土産は自分で解体していた鹿だった。



この後は自由時間だったがここでマエーノは更なる地獄を見ていた。

ジェード・スティエットが「湖に落としても気が晴れない。許さん」と言い、また別の闘神の妻アクィ・スティエットに頼みモブロン家まで行くと当主のフツーノ・モブロンと妻のロシー・モブロンを連れてくる。

話を聞いたフツーノはマエーノの行為に心の底から落胆し、ロシーは怒髪天だった。


泣かないように必死になりながら「お…お母様」と言うマエーノだったがロシーは首を横に振ると「私は言いましたよ。モブロンとして王都でチャズ様達のお仕事を教わっているウシローノ氏のように立派になれと、それを何ですか!?ロリーの所のイイテーロやロワを無駄に敵視し更に講師の方への不遜な態度。お父様に恥を書かせて何がしたいの?」と言ってマエーノを責め立てた。


「ち…違う…僕…僕はモブロン…」

「何が違うと言うの!?ハッキリと言いなさい!」


正直見ていられない。

フィップがそう思っていると「あーあー、ダメよダメ」と言ってまた別の初老の女がやってくる。見た感じ平民なのにロシー・モブロンに「ダメだって」と話しかけていてロシーは「ティナさん…何がですか?」と言っている。


「全部よ全部。そんな風に押さえつけてばかりだと歪に育つし見えない所で悪さするわよ。それにこの私の孫が悪い訳ないじゃない」


この発言にフィップが孫?と思っているとティナは横で半べそのマエーノの頭を一発小突いて「おバカ」と言う。


貴族として「な…何をする!!僕はマエーノ・モブロンだぞ!」と言って不快を示すマエーノにティナは臆する事なく「だから何?」と言ってマエーノに詰め寄る。


「貴族様が偉いんじゃない!偉いことをする人が偉いのよ!アンタはなんか偉いことしたの?生きてるだけで偉いって言うなら私もここの皆も偉いわよ!それに私達の孫なんだから舐めた口聞かずにキチンとしなさい!」

余りの勢いに「えぇ…僕は孫じゃ…」としか言えないマエーノは「孫よ!」と言われて何も言えなくなる。


「いい?ミチト君の力で産まれてきた子はこのディヴァントの湖の水で身体を洗って皆でお祝いをしたの!皆で抱いたんだからアンタもアタリーもそこのイイテーロ達も私の孫よ!そうよねマアル!!」


これにはマアル・カラーガが「はい!お婆様!」と返事をする。

マアルの返事に「よし!」と言ってドヤ顔のティナと困惑のマエーノ。


ここで見かねたトゥモ・スティエットが「俺たちの婆ちゃんに勝てる訳ないだろ?婆ちゃん間違ってないし」と仲裁に入ると「いいところに来たわトゥモ!」とティナが言う。


顔色の変わったトゥモが「え…?婆ちゃん?」と聞くとティナは「天才のトゥモに仕事を頼むわ!」と言った。


「えぇ?」

「は?返事は?」


「はい。頑張ります」

「よろしい。あのミチト君が昔やったみたいなのやれる?アンタが真ん中に立ってロシーさんの考えを読み取ってマエーノに送りつける奴よ」


トゥモは「んー…読心伝心術?」と言いながら闘神に確認を取るとそうだというので「やれるけど何を読んで送るの?」とティナに聞くと「簡単よ。ロシーさんが口下手でマエーノに伝わっていないからそこら辺のことよ。やって」と言われる。


トゥモが手を出すとすぐにマエーノは「わかった…、お母様が「モブロンとして貴族として恥じないように」って言っていた意味がわかった」と口にする。


「わかった?じゃあ言ってご覧、この私を平民ってバカにしたのは?」

「お母様のモブロンとして周りから一段上の立場として接して決してバカにされないようにしろって言葉に従ってました」


「で?ロシーさんが言いたい事は?」

「モブロンとして周りに甘えずにどんな時も周りを助けてあげながら周りを甘やかさない事」


このやり取りにロシーが目を丸くしていてティナが「教え下手よね。ロシーのご両親はそんな感じだったの?アンタよく根性ひん曲がらなかったわ」と呆れ笑顔で話しかけながら…「ん?アンタの妹ってロリー?…ああ、アンタの弟はひん曲がっていたわね。あのまま厳しく育てていたら弟みたいになってたわよ」と言う。


真っ青な顔のロシーを見てティナは「ふむ」と言うと「ミチト君、後よろしく」と言ってベリルのところに行くと「あらあら!ベリルの鹿は美味しそうね。食べたいわ!リナ!」とやり始める。


闘神は「ふむ。やってみるか」と言うとその場から消えて少しすると遠い地に居るはずのロリー・ガットゥー、イイーンダ・ガットゥー、サンクタ・カラーガ、ナイワ・カラーガ、ロキ・ディヴァント、マテ・ディヴァント、そして祖父フレア・ジャックスが居た。


ロリー・ガットゥーは「あら、お姉さん」と声をかけるとロシーは「ロリー…」と言って泣きそうな顔をしている。


「やだ、何へこんでるの?」

「私…、育て方を間違えててマエーノが…マンテローみたいに…ティナさんに教えて貰えて…」


ここでジェードが言い付けるように「マエーノは来てすぐにイイテーロ達を敵視するわ、うちの山婆ちゃんを馬鹿にして俺に湖まで吹き飛ばされるわだったから俺がアクィママに頼んでロシーさん呼んだんだよ」と説明をする。


「ごめんなさい?それだとなんでお姉さんが落ち込んでいる理由がわからないのだけど?」

「ティナ婆ちゃんが色々教えてくれて、厳しい言葉で怒るだけだとダメだってさ」


「成る程」と言ったロリーはロシーに「良かったじゃない。今ならまだやり直しはきくわよ」と笑いかけた後でマエーノに「久しぶりね」と言った。

ロリーはマエーノの顔つきで全てを察して「あらやだ、お姉さんから「私は姉でその子供のマエーノとアタリーは妹の子のイイテーロとロワに負けるわけにはいかないのよ」とか言われた顔ね」と話しかけると図星だったのかマエーノは目を丸くした。


「バカね。お姉さんが言いたいのは甘ったれずにキチンとスティエットさんの教えについて行ってウチのイイテーロ達が困っていたら助けてあげなさいって事よ」


この言葉に愕然としたマエーノは「…え?ウソ…」とだけ言うと双子のアタリー・モブロンを見て「アタリー?」と確認をする。「私はそう思っていたけどマエーノが「お母様の為にもイイテーロ達には負けられない」って言ってたから付き合っただけだよ」と言った。


呆れたロリーはロシーに「お姉さん、スティエットさんに感謝よ」と言うとロシーとフツーノは闘神に深々と頭を下げて感謝を告げる。


「いえいえ、良いんですよ。ジェードが呼ばなかったら鉄拳制裁でしたけどしないで済みましたし」

この言葉にビクつくマエーノにジェードが「お前、殴られてたら王都まで吹っ飛んでたからな」と意地悪く言う。


「それで?私たちは何のために呼ばれたのでしょうか?」

そう言ったのはナイワ・カラーガで、闘神は人差し指を天に向けてクルクルと回しながら「親として皆さんにも経験してもらおうと思いました!」と語るのだがその顔は怖い。


妻のアクィが「出たわね、正義の悪魔」と言っていた。


それは確かに悪魔の所業だった。

子供達が解体した肉を親達は振る舞われて残さず食べるように言われる。


ナイワ・カラーガが「か…硬いです」と言うと闘神は「それはアルマの猪ですね。ギリギリを狙って失敗していました」と説明をして「これは美味い」と喜ぶサンクタ・カラーガには「それはマアルですね。マアルの鹿は見事に捌けてます」と言う。


ロリー・ガットゥーが「す…スティエットさん、臭い…」と言い、闘神が「イイテーロって普段から細かい動作とかさせてませんよね?気をつけられなくて臭みが移ってしまったんですよ。食べてくださいね」と言い、横で「…肉が小さいですね」と言うイイーンダ・ガットゥーには「ロワは思い切りが良いですよね!」と言う。


こうして回っていくとロキ・ディヴァントは「ミチト君、骨が…」と言い、マテ・ディヴァントも「ミチトさん、これ…」と続ける。

闘神は笑顔で「はい。ロードの猪です。最初はよかったのに大きくて疲れて最後は手元が狂って骨を切ってましたよ」と言っている。


そんな中、祖父フレアは「まだまだ甘いが悪くない」と食べてくれてフィップは鼻高々だった。


だがフィップの初日はまだ終わらなかった。

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