第32話 巻き添え達。
翌日からミチトは良く言えば燃え上がり、悪く言えば暴走をした。
闘神の権限を総動員して子供達のために王都へと出向き、城に堂々と入るや否やエーライの前に立ち「どうも、闘神として来ました。第三騎師団のシヤとシーシー、イイヒートの身柄は当分俺が預かります。後はナハトも少し預かります」と言う。
その顔はとても危険な奴でモバテ達は慌てたが、メロから子供達に特訓をするという話が伝心術で聞こえてきた事で「ミチト君、メロさんから聞いたが何をするんだ?」と確認をする。
ミチトは人差し指を天に向けてクルクルとさせながら「とりあえずうちの子供だけの予定だったんですけどローサさんとマアルにお願いされたからめぼしい子供を連れてトウテに引きこもって…」と言った所で「ああ、足りない分はカラーガとかジャックスから貰うのも手だな」と言い出した。
「何を言ってる?」
「とりあえず最初は子供達に獣の解体を教えて美味しく食べさせます」
もう意味が分からない。
「何?」
「それでその後がアクィのケーキの訓練でリナさんと俺の料理をその後で教えます。
薬学は元ファイヤーチャリオットの薬師さんに頼みました。後は戦闘訓練ですね。一応イイヒートはその為に連れて行きます。俺の子供達はとりあえずパテラさんに勝てるくらいまで鍛えて、マアル達はまあついて来られるなら第一騎士団を壊滅できるくらいまでなら鍛えてあげてもいいかなって思ってます」
いよいよ何を言い出したかわからなくなったエーライがキチンと順を追って経緯を聞くとシアの話からエスカに言われたやり切る話に繋がる。
「では友はその為に人を動員するのか?」
「ええ、とりあえずロードも連れて帰ってシーナとヨンゴも仕込んであげて、あ!ガットゥーからイイテーロとロワも連れてこようかな」
話すたびに巻き添えが増えていく状況に流石にアプラクサスが「ミチト君、やり過ぎては…」と言うがミチトは「いや、俺は満足するまでやり切らないと後悔が残るタイプだと母に言われました!なので俺が安心して子離れできるようになるまで鍛えてあげます!」と言い切った。
こうなるとミチトは止まらない。
止めるべきなのだが前向きなミチトは放置したほうがいい結果を起こす事を理解しているのでどうするべきか悩む。そこでエーライが「友よ、とりあえずそれは少しだけ困る」と語りかける。
「困る?何にですか?」
「期限付きにしてくれ。満足するまでがいつまでかわからない。今のまま何年も親元に帰れない子供なんかが起きるとトラブルの種になる。それにそれだけの訓練を受けさせたいと言う親も出てくるだろう。全員を相手にはできまい?」
言われてみてようやく「確かに」と言ったミチトはエーライ達の許可を貰い最長1ヶ月の約束で各地から子供を半強制で攫った。あの熱量に勝てる人間はそう居ない。
一応アルマとマアルは一瞬帰郷して父母に事情を説明する。
アルマはいち早く領民と話をしたいと言っていたがローサから「まだダメよ。人の善悪を推し量れる目が養われて居ませんから騙されて善良な領民が困ってしまうわ」と言われて納得をしていた。そしてシアに「これがシアの感じた空回りだね。ありがとう。助かったよ」とお礼を言ってミチトの殺意を浴びて背筋が凍っていた。
とりあえずこの約1週間に何があったかを聞いたサンクタとナイワは訓練や様々な出会いに感謝をした。
「父上、僕は産婆さんのお手伝いで出産に立ち合わせてもらいました!僕は領民の顔を見れる領主になりたいです!」
この言葉に喜んだのはサンクタよりもナイワで、何事も武力で片付けるカラーガに吹いた新しい風に感涙する。
サンクタは正直面白くない。自分の手元から1ヶ月以上も子供達が離れるなんて思っても見なかった。そもそも王都からカラーガまでも距離はあるが、ミチトが送り迎えをすれば時間も距離も関係なくなる。サンクタもそれに慣れてしまってどこか感覚が狂っていた。
不機嫌さを滲ませながら「それで明日からの闘神の訓練で最長1ヶ月の外泊を認めろと?」と言うとミチトはマアルを見ながら「ええ、マアルさんも受けたいと言ってますし」と言う。
今度はナイワが「何をされるのですか?」と聞くとミチトは天に人差し指を向けて「まずは獣の解体、その後がスイーツ作りや料理、後はローサさんのマナーや薬学で最後が戦闘訓練ですね。簡単に言えば1人でも生きていけるようにする訓練です」と説明をした。
正直聞いているサンクタからすれば貴族には不要なものばかりだがそこはナイワが黙っていない。
「そんな素敵な事を教えてもらえるのですか?」
「はい。俺も今までは俺には当たり前だったしトウテでは教える必要もないものだったので教えなかったらシアから獣の解体を教わりたいって言われて、その流れで料理も戦いも教える事になったんですよ」
ナイワはミチトの前に出て「是非お願いします!」と言う。
嬉しそうに頷いたミチトは「ただエーライさんが期限を設けたから1ヶ月しかないんですよねぇ」と不満を漏らす。
「闘神様!1ヶ月で足りない時は是非カラーガでアルマとマアルだけでも延長をお願いできませんか!?」
「うちの子達とアルマとマアルですか?でも教える人とか居るから大人数ですよ?」
「構いません!是非よろしくお願いします!」
「じゃあ終わりのキリが悪くて2人が延長を求めたらですね。あ、後一個お願いがありました」
「なんでしょう?」
「解体に使いたい獣を持って帰りたいので畑を荒らす獣を数匹捕まえさせてください」
「いいのですか?」
「ええ、1人1匹だとちょっと足りないんですよね。トウテで獲りすぎても良くないんで分けてください」
願ったり叶ったりでナイワは感謝を告げる中、サンクタは戦闘訓練はありがたいが後はどうでもいいのに1ヶ月も子供達が戻って来ないことが面白くない。
だがそれは次の瞬間にはガラリと変わる。
ミチトは横のマアルを見て「んー…、ロゼじゃないから悪いんだけどさ。マアル、俺と組んでよ」と言う。
闘神からの申し出にマアルは嬉しそうに「はい!何をしますか!?」と聞くとミチトは「俺が目になるから矢を鹿に当てるんだ。後アルマも鏃に火の術を流して」と言った。
サンクタ達を連れてミチトは畑に行くと領民から獣害について聞き、言われるままに山に潜む鹿を狙い撃ちする事にする。
ミチトが見せた鹿の姿にマアルが「闘神様、私の風の術だとこの距離は…」と不安を口にするがミチトは「俺の力を貸すから使うといい、制御はマアル、術量は俺だ」と言い「アルマ、鏃にフォイヤーインパクト」と指示を出す。
準備が整うとミチトはマアルに「あ、そうだ。マアル、一つ頼まれて」と言った。
「はい?」
「ロゼにはまだ出来ない事をやってあげるからトウテに帰ったらロゼにその説明をしてあげてね」
マアルはまたロゼと訓練が出来るとわかり「はい!」と喜んだ。
ミチトがマアルにやった事はマアルには想定外だった。
矢の周りが気になった時には自分が矢になったような目線になり、鹿との距離が気になった時には俯瞰で鹿と矢が見える。そして鹿を気にすると鹿の姿が見える。
驚くマアルに「ロゼに伝えてあげてね。山全体に術を撒く、そしてマアルの見たいものを俺が読み取ってそれをマアルに見せるんだ」と説明をする。
そして芸が細かいのはそれをアルマとサンクタ達にも見せていてマアルの術も肩代わりをしている事だった。
「マアル、俺の力を好きに使っていい、全速の超加速で苦しませずに鹿を倒すんだ」
「はい!」
マアルの力で加速した矢は鹿を貫通する。
鹿は射抜かれた事すら気付かずに絶命するとマアルは「出来ました!」と言いサンクタは「見事だ!」と喜んだ。
この後、獲りすぎは良くないという事でミチトはジャックスに顔を出して畑を荒らす獣を分けてくれと頼む。
普段と違いアルマとマアルがいた事で何があったかを聞くと、フレアは孫のフィップ・ジャックスも頼めないかと言いだしてミチトは「別に構いませんけど1ヶ月くらいですよ?帰りたくても帰しませんよ?しかも全部やらせますからアレは嫌とか言わせません」と言う。
フレア・ジャックスはそれでもと頼むと大急ぎでフィップに闘神のトウテで訓練を受けられるから行くように言い、フィップも是非行きたいと言い獣を狩りながらトウテへと帰って行った。
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