第30話 空の上で。

ミチトはとりあえずセルースとナハトを軽々と持ち上げて「えい」と言いながら地上に向けてポイ捨てをする。


慌ててバタバタとするセルースにミチトが「下は海ですよ〜」と声をかけるとセルースは「バカヤロウ!海でもなんでも関係ねえよ!助けてくれよ!ナハト!何笑ってんだよ!」と横に居るナハトに声をかけるとナハトは「あはは、セルースさん美人局ってなんですかぁ〜?」と言っている。


「早く降りないとナハト達死んじゃうんで行きますよー」


この声で皆が続々と飛び降りて行く。

ジェードとベリルとフユィとコードは頑張ってナハトとセルースを確保するとセルースは「お前達!来てくれたか!マジ天使だ!」と喜び、ナハトは「あー!ジェード君は後で訓練してよ!コード君は一緒にパンって音のパンチの訓練ね!ベリルちゃんとフユィちゃんはナノカと4人でお散歩行かない?」と酔っ払っている。


エスカはシアと仲良く降りていて「お婆ちゃん、楽しい?」と聞くと「ええ!ありがとうシアちゃん」と答えている。


「これからも来てくれる?」

「いいの?」


「うん!お父さんに獣の解体を教わったけど下手っぴで獣に悪くて、練習したいから教えてくれる?」

「ええ、任せてね」



そのやりとりを見てヤキモチを妬くのはラミィだがそこはローサが「ふふ。次はラミィちゃんの番よ」と教える。


「ローサお婆様?」

「ラミィちゃんはどうしてもサルバン嬢に似て美人が目立つからエスカさんも緊張しちゃうのよ。リナさんとミチトさんにバランス良く似たシアさんが先に仲良くなると効果的なのよ」


「…それは仕方ありませんわね。ラミィはパパの力とママの美貌を受け継ぎましたの」

「うふふ。素敵よ。その貴い心が誰よりもサルバン嬢に似ていますよ」

ローサはラミィがヤキモチを妬かないように言葉を選ぶとラミィは「本当ですか!?嬉しいです!」と素直に喜んだ。



イイヒートは飛んですぐに「アメジストさん!どうぞ定位置へ!」と両手を広げてアメジストを呼ぶ。


「照れて気絶しない?」

「アメジストさんを御守りする事を第一にしているのでしません!」


イイヒートの笑顔を見てアメジストは「じゃあ行く」と言ってイイヒートの胸の中に入る。

アメジストはここ最近のスキンシップでイイヒート限定だが少しずつ男性恐怖症が治まっていた。


イイヒートの胸に顔をつけたアメジストは「イイヒートが気絶したら私死んじゃうね」と話しかけるとイイヒートは「しません!」と言い返す。


「本当?」

「本当です!」


嬉しそうにふふふと笑ったアメジストは「じゃあ頑張ってね」と言う。

「はい?」と言い返すイイヒートにアメジストは囁くように「イイヒート、大好き」と言った。


「ふぁっ!?」

「おお、気絶しない」


「あ…アメジストさん?試されたのですか?」

「好きなのは本当だもん」


この言葉にイイヒートは「ありがとうございます!」と言って目に涙を浮かべた。

そのまま少し落下した後でアメジストが「私さ…」と言った。


「なんでしょうか!?」

「少し変なの」


「変!?スティエットさんにご相談は!?王都で最高のお医者様を手配します!」

慌てるイイヒートは有名な医師達を指折り数えて、第三騎士団のイイヒートとして呼ぶか、ドデモ家のイイヒートとして呼ぶかを思案している。


「ふふ。違うよ。男の人が怖いのにイイヒートだけは平気なの。勿論マスターや結婚してる人とかは平気だよ?」

「ありがとうございます!ここで満足する事なくこのイイヒートは努力を続けます!」


イイヒートの言葉を本当に嬉しそうに聞くアメジストはイイヒートに「それでね……へんなの」と言った。


「はい?」

「まだ震えるのにね…イイヒートにくっ付くと胸が熱くなってもっと居たくなる」


アメジストは「アメジストさん!?」と言って驚くイイヒートを力一杯抱きしめて「胸が熱い…。これ気持ちいい」と言い、イイヒートは「俺は一年中アメジストさんの物です!ご自由にいらしてください!」と返す。


「あ、気絶しないね」

「ここでは出来ません!御守りします!」


「なら…」

アメジストはそう言ってイイヒートの頬を持つと唇にキスをした。


「これが一番胸が熱くて気持ちいいの。気絶しちゃダメだよイイヒート」

処理限界はとっくに超えているのだがイイヒートは必死に足をつねって耐える。


「おお、耐えた。嬉しいよ。もっとしようイイヒート」

「はい!」

この後も絶景を無視してイイヒートに何回もキスをするアメジスト。


その上では、見る気はなくてものんびりと落下をして少しでもこの景色をマアルに見せようとしたロゼだったが、ロゼとマアルの眼下で始まるディープキスに顔を真っ赤にしてしまう。


「えぇ!?」

「まぁ…」


「ごめんマアル…、ゆっくり落ちようと思ったのにこんな事になった」

「いえ、平気です」


そうは言っても意識してしまって会話に困る。

年頃の男の子のロゼの「あー…」と言う声と女の子のマアルの「うぅ…」という会話。


「えっと……よく考えたら女の子を抱っことかごめん」

「いえ!私は嬉しいです!」


マアルの言葉にロゼは「嬉しい?」と聞き返した後で「あ!そっか!」と言った。


「ロゼくん?」

「ほら、サンクタ様って厳しいし、アルマもお兄ちゃんって感じじゃないし滅多にないもんね」


「ロゼくん?」

「俺もさ、ベリルは妹だけどそんなに離れてないから抱っことかしないんだよね。ベリルはいつもメロやラミィとかタシアの所に行くしね。だから頼ってもらえてる感じが嬉しいしマアルも俺が年下だけど抱っこは珍しいから嬉しいんだね」


マアルは瞬時に最適解を導くと「はい!なのでジェード君やトゥモ君、タシア君ではなくロゼくんが良いんです!」とハッキリと言う。


「そっか、良かった。じゃあサンクタ様に怒られないくらいにお兄ちゃんするよ。マアルも甘えてきていいからね」

マアルは現状に満足そうにロゼの胸で「甘えさせてください」と言っていた。



シヤは嬉しそうに「見えるか?シーナ!ヨンゴ!シロー!ヨンシー!空だ!下には海だ!」と声をかける。

シーナとヨンゴは嬉しそうにはしゃぎ、シローとヨンシーは生まれたばかりで何もわからない。だが先日シーナとヨンゴを見てきて今も2人が見ているかもしれないと思ったシヤは様々な経験をさせたいとシーシーに言った。


シーシーはシヤと向かい合わせで抱き合いながら、間にいる子供達が危なくないように抱き上げて「ヨンシー?空だよ。シローは高い所が平気かな?お兄ちゃんとお姉ちゃんは楽しそうだよ」と話しかける。


海面が見えてきた時、シヤは「シーシー、海の中は水が襲いかかってくるらしい、無理そうな時は頼む」と言うとヨンゴが「お父さん!俺もやる!」と言い、シーナが「私も!」と続ける。


シヤは「ああ、家族で力を合わせような」と言うとシーシーも「うん。皆でやろうね!」と言った。



海中移動はそう問題は無かった。

唯一あったと言えばミチトが急に嫌がらせを思いついてセルースが着水する時だけ海を割ってセルースの覚悟を台無しにしてみた。


セルースは息を飲んで待ち構えたのにいつになっても着水しない自分に驚くと「バカヤロウ!海!割れ!?割れて…落ちる!ミチトぉぉぉっ!」と叫ぶ。


ニコニコ笑顔のミチトは「サプライズです!」と言うがセルースには「嫌がらせだっての!」と言い返されていた。トゥモは海とミチトと自身の手を見て「あれ真似できない。練習しなきゃ」と言った。


海底都市に着くと挨拶代わりに小麦粉を渡すミチト。

恭しく現れる朱色と朱色の両親にナハト達を紹介するとトウテへと帰った。

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