第27話 山での暮らし6日目。

家族の日も最終日。

ミチトはメロとアクィを迎えにいく。

メロは照れつつも申し訳なさそうにミチトを見るが、ミチトは素知らぬ顔で「さあ!メロだよ!」と言ってメロの手を取ってアクィと共にスティエット村へと向かう。


それは家の前に直接転移を行うのではなくかつてメロをスティエット村に帰そうとした時と同じ、村の入り口から少し手前へと転移していた。


「パパ?」

「あの日とは違うけどメロは俺の娘になってくれたから、ここから入ろう」


「あら、ミチトにしてはいい事言うわね」

「シキョウでアクィが教えてくれたからだよ。さあ、アクィ、メロと手を繋いで、3人で入ろう」

メロが「うん!」と言うとアクィもメロの横に立って3人で手を繋いで村に入ると満開の花が出迎える。


村の見た目ががらりと変わっている事にアクィが「花?」と驚きを口にすると「昨日イブとロゼがやってくれたんだよ」と言った。



のんびりと3人で村の中を歩くとメロはマロの家、自身の生家を見て一瞬困った顔をする。


察したミチトはメロに「中に入る?」と聞く。


「え?」

「別に俺が冬支度をしたから入れるよ」


ミチトの提案に「…うん」と返事をするメロだが声は暗い。


「メロ?何が気になるの?」

「中に入って何かを思い出して……、記憶を無くす前のメロが嫌な人だったらパパ達に嫌われちゃうって思うと怖いの」

メロは、無くした記憶とそれを取り戻した時の事を考えて悩んでいると、ミチトはニコニコと微笑んで「じゃあやめて平気だよ」と言った。


ミチトは笑顔のままでメロの目を見つめて「メロのお父さんの名前は?」と聞く。

メロは困惑の顔で「え?知ら…」と知らないと言いかけるとミチトは「俺だよ!俺!」と言って一歩前に出ておでこがぶつかる距離でもう一度微笑む。


「パパ?」

「ほら言ってよ!」

この言葉で目の前のミチトを見ながらメロが「パパの名前はミチト」と言った。


「そうだよ!大好きなお母さんは?」

「アクィ…」


ミチトは目を丸くして「え!?リナさんじゃないの!?」と言うと後ろからアクィの「ミチト!冗談でも怒るわよ!」という声が聞こえてくる。


「仕方ない。メロ、大好きなママの名前は?」

「アクィ・スティエット」


ミチトは嬉しそうにメロの手を取って頷くと「そうだよ。間違えちゃダメだよ」と言うとアクィもミチトとメロの手を取って「本当だわ。キチンとミチトと私の子供って言いなさいね」と言った。


メロが「うん。ありがとうパパ、ありがとうママ」と言うとミチトは「じゃあ早く家に入ろう!」とせっつく。


「ミチト?」

「パパ?」

ミチトは2人の疑問には返事をせずにいそいそと手を引くと既にご馳走が用意されていた。


「どうしたのこれ?」

「村で食べるご飯を思いつく限り用意したんだよ。メロに食べてほしくてさ、イブにも食べさせてあげてキチンとメロの分も用意したんだよ。煮込みとか時間のかかるメニューは夜ね」


「パパ。ありがとう。寝てないの?」

「俺は器用貧乏だから平気だよ。まだお腹空いてない?」


「もう少し後でも平気かも」

「じゃあ今日の寝るところを決めようか?」


ミチトはメロの手を引いて「昔俺の使っていた部屋とお爺さん達の部屋、どっちがいい?」と聞く。


アクィが質問の意味を聞くとミチトは「3人で寝る部屋だよ」と言うが流石にメロは18歳でアクィから「子離れしなさい」と言われてしまう。


この言葉でムキになったミチトは「じゃあアクィもメロと寝るなよな」と言うとアクィは「私は女同士だからおかしくないわよ」と返す。

ミチトも負けていない。

胸を張って「じゃあ俺はマスターだからおかしくない」と言うがアクィから「おかしいわよ」と言い返されてしまう。


メロは照れて困りながら「パパ?どうしたの?」と聞くとミチトは「メロが初めて俺の娘になってくれた日の再現じゃないけどしたかったから真ん中をメロにして俺が腕枕をしてってやろうと思ったのにアクィが邪魔をするんだよ」と言いつけるように話す。


「ミチト?あなたどれだけの事を考えていたのよ?」

「ご馳走と山登りと寝ることだけだよ」


ミチトの熱意と想いを受けたメロは「うぅ…、恥ずかしいから夜はダメだけど今なら少しだけ3人で横になるよ!」と言うとミチトは本当に嬉しそうに「メロ!ありがとう!」と言っていそいそとベッドを出す。

そこに3人で横になるとニコニコとメロを見て「メロ、焦らずにゆっくり大人になるんだよ?メロが娘になってくれて俺は嬉しいよ」と言う。


「パパ、嬉しいけど照れるよぉ〜」

「照れることないよ。アクィだってそう思うだろ?」

「ええ。メロ、何歳になっても私とミチトはメロのパパとママでメロは娘なのよ?」


メロは照れながらも落とし所を身決めていて真っ赤になりながら「パパ、ママ、大好きだよ。メロをギュッとして」と初めて3人で眠った日の再現をする。


アクィとミチトは感極まりながらメロを抱きしめて「俺もメロが大好きだよ」「私もメロが大好きよ」と言う。




だがこれで終わらなかった。

ミチトはメロを離さずに、アクィもメロから離れない。


「パパ!?ママ!?」

「どうしたの?」

「何かあった?」


「くっつきすぎだよ!」

「久しぶりだし」

「ミチトと3人は久しぶりよ?」


「恥ずかしいよぉ」

「じゃあもう少しだけ」

「そうね。後2時間くらいね」


こうなると馬が合うミチトとアクィ。

本当にずっとこのまま過ごすかも知れない。


「長いよ!」


メロは注意をして真っ赤になりながらも気がつけばゴロゴロと猫のようにアクィに懐いてミチトに微笑みかける。


暫くしてミチトが「ごめんねメロ」と話しかけてきた。

「パパ?」

「メロはお姉さんで偉い子だからタシア達が生まれてきてからは我慢し通しだったよね?」

「本当、いつもこうしていたかったのよ」


「そんな事ないよ?パパもママもお母さん達もメロを娘にしてくれてたよ?」

「じゃあ俺たちが足りないんだ。メロ、もっと甘えておいで」

「そうね。まだ足りないわ」


この言葉でメロが初めて娘になった日のように甘えてくるようになる。


「パパ、時間が勿体無いから次だよ!山登りは何をするの?」

「次はご飯にしようか?山登りはこの村は特に見どころもないから皆大きくなると山を登るんだ」


この言葉でアイリスから見せてもらったミチトの過去にも山登りがあった事をアクィ達は思い出す。

だがそれは楽しい記憶ではなくただの荷物持ちでしかなかった。


だが表情を暗くする事なくアクィは「行きましょうミチト」と誘い、メロも「行こう!」と元気よく振る舞う。


登山自体は1時間で済む。

術人間として登ればのんびりしても15分足らずだが、あえて常人よりかなり速いが普通のペースで1時間かけて山頂を目指す。


フォームと違いここの山頂には休めるポイントが無かったがそれでも目の前にはかつてとは違うオオキーニの景色が広がった。


「わぁ、オオキーニが緑豊かになってる」

「ミチト?どれだけの力を流したの?」

「俺にも分かんないけどこれで俺の生きている間は食料問題は起きないね」


反対側を向くとマ・イードが広く見える。

途中になだらかな山もあるので全てを見渡せないがそれでもよく見える。


メロはミチトの顔を見て「パパはこの景色が好き?」と聞く。

ミチトは自嘲気味に「昔は嫌だったよ。俺を捨てた父さんはきっとこの何処かで好き勝手幸せに生きていて、母さんもそれなりにやっていると思ってしまってただの景色を顔に出さずに睨んでいた」と言う。

アクィが心配そうに「…ミチト」と呟いた時、ミチトは「でも今は知り合いも増えたしこうして見るのも悪くないって思えるよ」と言った。


メロの「本当?」という問いにミチトは優しく微笑んで「本当だよ。メロ、左下に村が見えるよね?アレがズメサだよ。ソリードさんの家とかわかるかな?」と聞く。


メロは「え?あの茶色の家かな?」と言って楽しそうにソリードの家を探す。

アクィは「え?あの赤い屋根じゃないの?」と聞くとミチトは「アクィが正解。前から見ると茶色に見えるけど屋根は赤なんだよね」と答える。


ここでメロが「パパ」と言ってミチトを呼でび、ミチトは「何メロ?」と微笑んでメロを見る。


「これからも色々一緒に行ってくれる?」

「うん。王都は嫌だけど行くよ」


「一緒に色々なものを見てくれる?」

「うん。見るよ」


「パパの娘って言っていいの?」

「言わないとヤダよ!」


「ありがとうパパ」

メロはもう一度ミチトに抱きついて泣いた。


メロが落ち着いてから家に戻り食事を食べるとメロはまた泣く。

泣いた理由は本人にもわからないけど美味しいご飯のおかげだと思うと言っていた。


午後になってソワソワするメロに「メロ、この村でそんなにソワソワしてると疲れちゃうよ」とミチトが言って笑うとメロは「う〜、トウテにいる時もテレアと遊んだり訓練したりで何かしらしてたからこういう時間が苦手だよぉ」と言う。


横に座るアクィが「ミチトは平気なの?」と聞くとミチトは「平気と言うか、俺はやらされていたから時間が足りないタイプでさっさとやっていたけど休める時は休むよ」と言ってからアクィに「アクィ、お茶を淹れてよ」と言う。

アクィはメロを誘ってお茶の用意をするとクッキーを取り出して3人で花を眺めながらお茶を楽しむ。


いつの間にかメロは子供の頃のようにミチトの膝枕でゴロゴロとしながらのんびりと花を見て「こんなに休んだの久しぶりかも」と言った。


夕飯も3人で用意をして3人で片付けをする。

星を眺めてお茶を飲み眠くなったら眠る。


昼間あれだけ照れていたメロも3人で眠ると言い、ただアクィから年齢の話を出されて真ん中がアクィになりミチトは不満タラタラだった。



その夜、ミチトは夢を見た。

夢ではあったが死の淵で夢の相手は祖父だった。


「あれ?お爺さんだ」と驚くミチトに祖父は穏やかな顔で「久しぶりだな」と言った。


祖父はエスカとマロ、村人達の事をミチトに詫びた後でメロの事について感謝を口にする。


「恐ろしい事を考えているな」

「そうですか?でもメロは俺の子供ですから間違って居ませんよ」


祖父は「まあそれは好きにしてくれ」と言った後でミチトに一つの事を頼む。


「エスカの分は好きにしてくれ」

「わかりました。俺から一つ聞かせてください。父さんの事です」


「トゥーザーの事?恐らくお前が言いたいのはオオキーニの人間をどう思ったかだろう。私は生まれも何も気にしていない。ただエスカには思う所はあった。無用のトラブルを避ける為に結婚相手や村に招く人に関しては厳しく選んで居たのにそれを理解せずに村に迎え入れた事は許せなかった」

ミチトはこの回答に安堵して「良かった。お爺さんは思った通りの人でした。ありがとうございます」と言った。


「いや、だが繰り返しになるが済まなかった」

「いえ、俺こそ最低限守ってもらえていたと知れて良かったです」


ミチトは最後に祖父と握手をして別れると朝になっていてアクィが「起こしても起きないなんて珍しいわね」と言って顔を覗き込んできていた。


アクィと目が合ったミチトは「夢を見たんだ。ちょっと着いてきてよ」と言って

は起きてすぐなのに地下室に行くと隅の方の石を崩す。


「ここ、石の中にスペースがあるなんて知らなかったよ」

ミチトは中から木箱を出すと湿気対策がされた手紙を取り出す。手紙はミチトとエスカに宛てられたものだった。


「それ…」

「おじいさんからの手紙。夢に出てきてくれて教えてくれたんだ」


手紙の中身は夢で話した内容と変わらずミチトへの謝罪と父ファル・トゥーザーがオオキーニ人であった事とその為に母が逃げ出した事について祖父目線で説明されていた。

アクィはもう一部の手紙を見て「もう一部はどうするの?」と聞くとミチトは「俺は見ないで渡すよ。それで後は任せる」と言ってしまってしまった。

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