第25話 山での暮らし4日目。

ミチトはライブ達とは朝ごはんを食べてからトウテまで送る。

次はリナ達の番で皆待ち遠しい顔をしている。


申し訳なさから「…なんもない山の中だよ?」と言うミチト。


「そんな事ないよ」

「本当、お父さんってそこら辺わかってないんだよ」

「そうだよライブお母さんとジェードとベリルを見てよ?」

「あんなに楽しそうだよ」


確かに今も楽しかったと3人で話している。

それでもミチトはコメントに困りながらアルマとマアルに「俺達は留守で何にもおもてなし出来ないけど楽しんでね」と声をかける。


マアルはロゼとの事で会う回数が増えた事もあってミチトを怖がることなく「はい!昨日はイブお母様とアクィお母様にも手伝ってもらってディヴァント様のお屋敷からトウテまで長距離射撃を試しました!でもまだどうしてもトウテだと風の術が届かなくてその前から風の力で押し出して誤魔化してしまいました」と報告をしてくる。

ミチトは優しく微笑んで「そんなに急には無理だよ。とりあえず今日はここからティナさん達の所まで蝶を飛ばしてご覧」と訓練の指示を出す。


アルマの方はジェード不在の中、ロゼが面倒を見ていて進捗を報告してくる。

「パパ、アルマはまたママの訓練をしたけど前よりついていけたよ」

「うん。アルマは身体強化の腕輪をしてるよね?今日はそれを外してご覧。後はコレを貸してあげる。イブ、午前は腕輪なしで午後はコレを使って」


ミチトが渡した剣を受け取ったイブは「はい!軽神鉄の剣ですね。ミチトさんはイブのやりたい事をお見通ししてくれるから助かります!」と言ってニコニコとしている。

そんなイブを見てミチトは「まあ後はライブが軌道修正してくれるからライブに任せるかな」と言うとライブは「ふふん。任せてよね」と言ってアルマに「今日もやるよ」と声をかけていた。




スティエット村に着くとリナが「ミチト?アルマ君の訓練は何をするの?」と聞いてくる。


「イブは効率的な反撃と反射を仕込んでいます。この後は手数を増やすために片手で一度に振れる剣の回数を増やします。ただそれは未だ俺のあげた腕輪があるからできているだけなので腕輪なしで一度追い込みます」


リナも素人ではあるが長年ミチト達と居るので会話にはついてこられる。


「それで午後は軽神鉄で剣を振る回数を増やすことだけに特化するんだ」

「はい。でも家に帰って軽神鉄をやめたらまた剣の重みに苦しみますからいい訓練になります」


話し込むミチトとリナを前にシアが頬を膨れさせて「お父さん、冬支度!」と言う。

ミチトは冬支度と言われたが大がかりなものは殆ど終わっているので「ええぇぇぇ…、もうやっちゃったよ」と言う。


「えぇ?何があったの?」

「藁の仕込み、屋根の確認、食材の用意」


ここまで話した所で一つ気になって「あ、シア達って猪の解体とかやってみる?」と聞くとシアは嬉しそうに「うん!やるわ!」と答えた。


「ジェードとベリルは怖がってたけど…」

「平気よ!後は?」


「後は草刈りとドアの建て付けの確認とかしかないよ?」

「それやりたい!トウテはあんまり雪降らないし降っても積もらないんだもん!」


シアの言葉にリナが含み笑いをして「シア、昔はお母さんの住んでたサミアも雪が積もったんだよ」と言う。当然シアは「え?じゃあなんで今は積もらないの?」と聞き返す。


「犯人はミチトだよ。ミチトは雪が積もるとオンマ達が可哀想だしシア達が風邪を引いちゃうって言うんだよ。本当は夏涼しく冬暖かくなるように術を使うなんて言ってたのを我慢させて今みたいに雪は降っても積もらなくさせたんだよ。人々が冬支度を忘れちゃうと困るしね」

神の奇跡のような話にシアは「わぁ…、お父さんありがとう」と言ってミチトを見る。


「いや、シアが喜んでくれて何よりだよ」

「でもそれなら冬支度は覚えたいから教えてね」


ミチトは「一本取られた」と言ってシアの為に全部やるかと嫌々ながらマロの家の藁葺きを用意してタシア達に教えながら手伝わせる。

だがやはり手持ち無沙汰になりミチトは「んー…仕方ない、瓶をもう一杯仕込むか」と言った。


「ミチト?」

「リナさんは辛くなったら教えてくださいね。タシア達、麓に降りてソリードさんの所で食材を分けてもらおう」

ミチトはさっさと下山をするとソリードに「瓶一つ追加になりました」と照れ笑いをしながら言い、子供達に冬支度や解体を仕込まなかった話をする。


「あらあら、まあトウテでは全部揃うから仕方ないわよね。でも皆やる気で偉いわ」

ソリードはシア達を褒めるとミチトを連れて先日とは別の農家の所に行って「ミチト君が来てくれたわよ。畑と獣はどっちがいいかしら?」と聞くと、木の剪定を頼まれたので簡単にウインドカッターで切り落としてしまう。

こうして渡された野菜を持って調味料を貰いに行くと鹿が悪さをするので捕まえて欲しいと言うのでとりあえずそれらしいのを2匹捕まえて術で眠らせて農家に渡す。


感謝の眼差しの中、ソリードは呆れるように「あらあら、まったく…。そんなに簡単にやるから頼まれちゃうのよ?」と言うとミチトは「えぇ?結構大変なんですよ?」と言うが当然誰も信じない。


「まあこのままいると帰れなくなるから早く帰りなさい」

「はい。ありがとうございます」


ミチトは家に戻ると漬けダレの仕込みをリナ達に説明して仕込みをしてもらう。

狩りは今度教えるとしてその間に猪と鹿を捕まえる。

漬けダレは4人で仕込むのですぐに終わり、リナを含めた全員で猪と鹿の解体に参加をする。


末息子のコードが一瞬恐怖を口にしたがシアから「食べて料理もやれるのに解体出来ないなんてダメだよコード」とリナに似た顔なのにミチトのような顔で言うとコードは「お父さん、見てて」と言って解体に参加をした。


タシアは黙々と作業をしていてミチトは「タシア?」と声をかけると「大丈夫。僕はお兄さんだからやれるよ」と言って処理をする。

また食べられない部分はウルクン達に差し入れてしまう。


途中で昼休憩を挟んだミチト達は夕方までに冬に向けた草刈りも終わらせて、子供達が風呂に入る間にミチトはリナと夕飯を作る。


「アクィの言った通りサイコーだよ」

「そうですか?」


「ミチトは嫌?」

「嫌とかではなく落ち着きません」


「そっか…。でも私達はミチトとここにいられて楽しいし幸せだよ」

「…それは良かったです。俺は何もないこの家は退屈なんじゃないかと思ってしまいます」


夕飯にはまだ早いが子供達と解体した肉を焼き、今朝から漬け込んであった肉も焼く。

香ばしい匂いの肉にかぶりついたタシアが「お父さん、なんか生きるって気がするよ」と言った。


「タシア?」

「殺してしまった鹿や猪には悪いけど、殺さないと僕達は生きていけない。でもトウテは皆がそれをやってくれてたから僕達は何も知らなくて…、このお家のお陰でその事が知れたよ」


「そう?そうかもね。俺はここで15まで生きてきたから当たり前でもタシア達には大事な事だったんだね」

ミチトは改めて子供達とリナにありがとうを告げた後で「少し外に出ようか?」と誘って外に出る。


「トウテとまた違う空だね」

「はい。まあ星空を見るなら天空島なんでしょうけどここからも綺麗です」


子供達も楽しそうに星を眺めて「ここ静かでいいね」「セルースおじさん達の笑い声がしないよね」「静かすぎて怖くない?」と言っている。


「今日はどうやって寝る?」

そのミチトの言葉にリナが「アクィから聞いていたから決めてあるよ」と言う。


「リナさん?」

「ミチトはミチトが昔使っていた部屋で私と、タシア達はお爺さん達のお部屋で3人でだよ」


この決定にミチトは「ありがとうリナさん」と言ってベッドを出して用意するとタシア達は「お父さん、この家は壊さないでこの家ごとズメサに持って行ってよ」と言う。


「タシア?」

「焼いたら勿体無いしまた来たいよ」

「それがいいよお父さん!」

「そうしようよ」


子供達に次々に頼まれたミチトを助けるようにリナが「バカね。それをやるのはミチトなのよ?勝手にアレコレ決めないの」と注意をする。


子供達は「そっか…大変だよね」と言って反省するのだが、ミチトは「いや、それくらい簡単なんだけど」と言い、その横でリナは「簡単なんだ」と呆れ顔で言った。


ミチトは家を見て「ただトゥモ達にもこの家が欲しいと頼まれていたから驚きました」と言う。


「トゥモ達はミトレさん達にサルバンで家をプレゼントしてこの家を貰おうって言ってましたけど…。ミトレさん達に聞いてみてからですね。それに持って行ってもこの家も古いから壊れるかも知れませんし」

子供達はそれでもいいからと言い、リナも「うん。私はこの家を気に入ったよ」と言う。


この後のミチトは困り顔で「んー…」と言い、何かを考え続けながら眠った。

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