第24話 山での暮らし2日目後半と3日目。
ラミィとトゥモに先輩の顔でスティエット家の説明をするフユィに笑いながらミチトは漬け込むタレの仕込みを始める。
これでもかと野菜を擦りおろす姿にラミィ達もやりたいと言い、家族5人で1日を使って瓶二つの漬けダレを作るとラミィやトゥモは「凄く楽しいですわ!」「これ、いつになったら食べられるの?」と聞いてくる。
「馴染むだけで良ければ1週間。深みを持たせるなら3ヶ月だよ」と言うミチトに子供達は「えぇ?食べられないの?」「食べたいわ!」「うん。食べてみたい」と言う。
落とし所としてアクィが「それはラミィ達がお義母様にお願いして食べにくればいいのよ」と言うと子供達も「あ、そうだね」「それですわ」「そうする!」と納得をする。
片付けを済ませると夕飯になる。
子供達は漬け込んでおいた肉を美味しいと喜ぶ。
デザートにアクィのアップルパイを食べるとトゥモが「この家欲しい」と言い出した。
何を言われたのかわからなかったミチトは「は?」と聞き返す。
「だって家族でいられて周りは静かでトウテとも違うし!」
ここに続くのはフユィで「うん!冬支度とか漬けダレとか楽しいよ!」と言う。
昨日に引き続き意味がわからないミチトは「マジか」と言ってしまうとラミィが「パパ、マジですわよ」と貴い者の顔で言う。
「そうね。私も同じ気持ちよ。明日のライブに渡したくないわ」
「そうですわ!お婆様達にはサルバンに土地を差し上げてここも別荘にしましょう!」
ラミィの恐ろしい考えには返事をせずに「まあ喜んでもらえたのなら考えるよ」とだけ言った。
この日は子供達がミチトの部屋で3人で眠り、ミチトとアクィは祖父母の部屋、今はエスカとミトレの部屋で眠った。
天井を見ながら「なんか、変な感じ」と言うミチトにアクィが「ふふ。本来はこうして代替わりをするのよ」と言う。
「マジか。アクィ、落ち着かないからこっち来てよ」
「ええ、行くわ。楽しかった。メロとの日が楽しみすぎるわ」
この返しにミチトは「うん。よろしく頼むよ」と言ってアクィを抱き寄せた。
翌日、3日目にあたるライブの日にはアクィがサルバンに寄ってエスカとミトレをダイモへと連れて行く。
「ミチトさんのトウテは隣の街ですがミチトさんが不在なのでダイモにご滞在してください。後でシア達が来ますので散策を楽しんでくださいね」
「ありがとうアクィさん、お兄様達にもお世話になりました」
「本当、ごめんなさいね」
義父母の言葉にアクィは「いえ、私たちこそあのお家をお貸しくださってありがとうございます。初めて穏やかな時間を過ごせました。冬支度も漬けダレの仕込みも初めてでとても楽しかったです」と言って本当に楽しい時間を過ごせたと礼を言う。
「冬支度…いつもミチト君が率先して…」
「皆にやらされていたから自分のタイミングでやるようになっていたのよね。あの漬けダレだって大変なのに一人で…」
「それは今度お礼を言ってあげてください。ミチト…主人はお礼を言われ慣れていないから、まずはそこから治してあげたいんです」
アクィがそんな事を話している間にミチトはライブ達を連れて村に戻る。
村に着くなりライブが「ミチト!冬支度をやろうよ!」と言った。
「ライブ?」
「ベリルが楽しかったって!」
「えぇ?楽しいの?でも屋根くらいしかないから後は狩りとか山菜採りとかだよ?」
「俺それやりたい!」
「ベリルも!」
ミチトは村と倉庫を見てから「んー…、まあ教えてみるか。ダメなら一人でやればいいし」と言って1人で納得をする。
「ミチト?」
「さあ、倉庫から籠とか用意して行くよ」
ミチトはベリルの手を引いて山道をスイスイ進んでいくと木の実を見つけてベリルに取らせると籠に入れる。
そして鹿と猪を見つけると「罠とか用意してないから…」と言いながら術で倒してしまう。
そしてそれを持って川に向かうと魚を捕まえて籠にどんどん入れてしまう。
「ミチト?」
「どうしたのライブ?」
「凄くない?なんかどんどん採ってるよね?」
「冬支度は一気にやらないと帰ってからが大変だからね。まあでもベリルが居るからお昼は焼き魚と魚のスープにしてあげるかな、だとするともう少し魚欲しいな」
相変わらずミチトはキチンと質問には答えない。
だがここでミチトが言ったダメならの意味をジェード達は理解をした。
ミチトは昼食後にジェードとベリルに鹿と猪の解体を教えようとしたが怖がられてしまった。
鹿を持ちながら「やっぱりか、トウテでは教えなかったから仕方ないな…」と言うミチトにジェードが「パパ、怖くないの?」と聞く。
「怖くないよ。やらなきゃ生きていけないし、鹿も猪も畑を荒らすから食べないといけないんだ。俺は殺して終わりにはしたくないからね」
このミチトの顔を見た時にジェードは「…今日はまだ無理だけど覚えたいから教えてくれる?」と聞くと横でベリルが「ベリルも…」と言う。
ミチトは「うん。じゃあ横で見ているといいよ」と言うと流れるように鹿と猪に刃を入れる。解体を進めながら「干し肉にする分と、後は俺達には硬かったり臭くて食べられない所を分けて…と、こっちはウルクン達にあげたいな…、やってみるかな」と言い、遠視術でウルクン達を見つけて術で話しかけると3匹ともミチトに反応して喜ぶ。
「今から俺が解体した鹿と猪の俺達には食べられない所を渡すから良かったら食べてよ」
この言葉と共に食べられない箇所を送りつけるとウルクン達は喜んでそれを食べていた。
口が真っ赤になるウルクン達を見て「あー、騒ぎになると困るから…アクィ、今解体した獣の肉をウルクン達に送ったから皆に言っておいてよ」と指示を出すとアクィが皆に説明をしていた。
ミチトはそのまま干し魚、干し肉と仕込んでドライフルーツも作ると結構な時間になっている。
「ライブの分は昨日アクィが作ってたけど明日のリナさんから先はアクィが朝作るって言ってたよ」と言って地下室からアップルパイを取り出して夕飯になる。
夕飯は「本当は寝かせたほうが美味しいんだけどね」と言いながら解体したばかりの鹿と猪で煮込みシチューを作り、漬け込んだ肉でベリルが「この前のお肉!」と喜ぶ。
ライブも「うわ…おいし…」と喜んでいて「ありがとう。ラミィ達がタレの仕込みを手伝ってくれたから1ヶ月後くらいに食べにくるかもしれないからライブも来るといいよ」と言う。
ライブは興味深そうに「ミチトの味?」と聞く。
ミチトは「そうだね」と返せばライブは「ミチトは行かないの?」と再度聞く。
「俺はいいや。味は知っているし皆の食べる姿は遠視術で見る。肉は用意するし、今日の鹿と猪があるから迷惑にはならないよ」
この言い方と顔にライブは「なんかやだ」と言った。
「ライブ?」
「帰ったら真式に頼んで遠視術の邪魔をさせる」
「なんで?」
「ミチトも来ればいいんだよ」
ミチトは「えぇ?やだよ」と言うのだがこうなるとライブは強い。「ダメ」と言った後で子供達に「そうだよね?ベリル、ジェード?」と確認を取ると「そうだよ!」「一緒がいいって」と言われてしまう。
タジタジのミチトは唯一「ええ?まあその時の気分で…ね?」とだけ言う事が出来た。
夜はベリルの要望で、ベリルとジェードがミチトの部屋、ライブとミチトが祖父母の部屋となる。
ミチトは天井ではなくライブを見て「どう?」と聞く。
ライブはミチトの目を見ながら「最高。別荘は楽しいんだけど、どこか分不相応な貴族の暮らしみたいな感じがするけどこっちは本当に4人家族って感じがして幸せ」と答える。
その顔と声に安心したミチトは「良かったよ」と言う。
「でもミチトも辛いよね?」
「んー…少し、一人でこの家なら辛かったけど皆が居てくれる。だから平気だよ」
「本当?」
「うん。でも昨日のアクィにも言ったんだけどさ…」
「どうしたの?」
「こっち来て一緒に寝てくれないかな?なんか自分の使っていた部屋ならまだ落ち着くんだけど祖父母の部屋は使ったことが無かったから落ち着かないんだ」
ライブは嬉しそうに「うん。行くよ」と言ってミチトのベッドに入ると「でもコレって別の可能性みたいでいいよね」と言った。
「ライブ?」
「北部生まれのミチトと私、フォームの街かどこかで偶然出会って恋に落ちて結ばれて、この家を受け継いでここでジェードとベリルを授かる。
働き者のミチトは冬支度でもなんでもやってくれて、私は頑張ってそれを支える。
ミチトを見ているからジェードも働き者で、ベリルも家族を支える。
夜は静かで山の空気が綺麗だから星が綺麗で窓から差し込む光が素敵。そんな中、子供達が眠るとこうして2人きり」
ひとしきり喋ったライブは「…でもミチトはやっぱりリナさんとがいいかな?」とちょっと寂しそうに言う。
ミチトは「ありがとう」と言いながらライブの頭に手を回して撫でながら「リナさんと居られるのは幸せだけど…」と続ける。
「だけど?」
「リナさんは大鍋亭、サミアやトウテが似合っているからいまのライブの話を聞いても少し違和感があるかな…。だからライブが話した可能性はライブとするのが良いのかもね」
「本当?」
「うん。だからもっと近くに来てよ。朝までここに居て」
この言葉にライブは「うん!」と言って本当にくっついてしまうくらい抱き着く。
「ミチト?イブやアクィとは?」
「アクィはやっぱりサルバンに行けないと辛いだろうし、剣も何も捨ててここでは生きられないよ。今でこそ俺が真式でアクィが模真式だからどこででも居られるけどあのシキョウで出会った17と16の俺たちじゃ無理さ」
「そっか…イブは?」
「イブはライブと同じくらいだけど俺はきっとイブとならここよりズメサを選ぶかな?ズメサの人達とイブとソリードさんと俺。なんとなくだけどクラシ君とシンジュのような姿がイメージ出来たよ」
一瞬の沈黙、ライブは聞きながらアクィとミチト、イブとミチトをイメージする。
確かにミチトの言う通りだったがイメージできたその姿はお似合いすぎだった。
「むぅ。それはそれでヤキモチだよ」
「あはは、言うと思ったよ。言い換えればイブがアイリスだったとしても今ならここの暮らしもやれるけどお互い術人間でなければ…、ライブが言うように北部の男女として出会っていればズメサなんだよ。でもライブとは術人間でなくてもここでやれる。そう思えたって話」
この言葉にライブは「うぅ…」と言う。
「どうしたの?」
「嬉しいし照れる」
嬉しそうに布団に隠れるライブを見て微笑んだミチトは「ほら、もっとくっつこうよ」と言ってもう一度ライブを抱き寄せて眠りについた。
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