第23話 山での暮らし2日目前半。

1日目が終わると2日目の朝にベリルがひとつだけワガママを言った。


「ベリル?」

「帰るのはいいの!でもアクィママの作ってたお肉食べたい!」


確かに昨日の話ではベリルの口には入らない。

それを今日フユィが食べるのはヤキモチを妬いてしまうだろう。


ミチトはニコニコと笑った後で「ああ、アクィ、もう一度仕込める?」と聞くとアクィも母の顔で「ええ、やるわ。ミチトはベリルに焼いてあげて」と言った。

串焼き肉用に仕込んでいた肉を食べたいと言ったベリルの為に焼いて渡すとベリルは喜んで食べた後で「パパ、ママとの日もこのお肉食べたい」と言い出す。


「マジか、じゃあ全部の日に出すかなぁ」

「それがいいのかも知れないわね。でもお店で食べるのと味が違うわね」


「ウチのはウチ用に味付けを変えてあるからね。お爺さんとお婆さんのどっちの好みか知らないけど甘辛いよね」

「ふふ、ベリルもフユィもミチトの子だから喜んでいるわ」


結局、フユィも我慢が出来ずに肉を食べて美味しさに飛び上がる。


ミチトはベリルを送る前に肉を仕込もうとしたが倉庫を見てきて「んー…仕込み前に来たか…」と言う。


「ミチト?」

「漬け込みダレの予備があると思ったら予備の瓶が乾燥中でこのペースで食べると無くなるから悪いなと思ったんだよ」


「じゃあ王都で漬け込むタレを買うしかないかしら?」

「それはやだな…。多分ベリルの話を聞いたジェードも怒るしイブもライブも怒る…仕方ない」


ミチトはサルバンに居るミトレに「食材を置いて帰りますからあの鹿くれませんか?本当なら今日解体しようと思ったんですけどちょっと必要になりました」と聞くと、ミトレは「こんなもてなしを受けたら食材なんて悪くて貰えないよ。鹿は好きにしてくれ」と言われる。


ミチトはそのままベリルに「帰る前にソリードさん所に行くよ」と声をかけると、アクィを連れた4人で収納術を使わずに鹿を抱えて山道を降りてズメサを目指す。


「ミチト?重くない?」

「まあ術も使わないから普通の重さだよ」

「パパ?」

「凄いね」


「いや、術使いになる前はこうだったし、ズメサじゃないけど麓の村までジェードくらいの頃から運ばされたよ」

この説明にアクィが「…ごめんなさい」と謝るのでミチトは不思議そうに「なんで謝るの?」と聞く。


「え…、嫌な過去」

「これは仕方ないよ」

ミチトは笑いながら言うとズメサには3時間ほどで着く。


「ほら、こっちがソリードさんの家だよ」

ミチトは鹿を抱えてソリードの所に顔を出すとソリードは驚いたが既にロゼから事情を聞いていたので「いらっしゃい」と言う。


「それで?ミチト君のお願いは?」

「この鹿と人参、ニンニク、酒なんかの調味料と交換したいんで頼めますか?」


流石は北の生まれ。

ソリードはすぐに「あらあら、漬けダレでも作るの?」と聞いてくる。説明が不要でありがたいミチトは「はい。子供達に好評だったんですが備蓄が終わってて、仕込まないと次が間に合いません」と言う。


「ふふ。真面目ね。領主様にツケちゃえばいいのよ?」

「ダメですよ」


「まあその鹿だけだと漬けダレには少し足りなくない?」

「…ですよね。小ぶりなんですよね。解体の時間があれば解体しましたけど1匹と交換になると調味料がキツいんです」


2人で顔を見合わせるとソリードは「ふふ。まあそこはズルをしましょう?」と言って最初に野菜の農家に顔を出すと鹿と野菜を交換してしまう。


野菜はかなりの量でアクィは目を丸くしたが、ソリードは「瓶二つくらいだとギリギリよ?」と教える。


ズメサの人間はミチトを闘神、隠れ領主のクラシの師匠と知っているので料金は貰えないと言ったがミチトはそれを認めない。


だが酒や調味料は必要なので悩むとソリードが「さっき言ったとおりズルをしましょう」と言う。

ミチトは何を言われたかわからなかったが、「奥さん、畑と獣はどっちが嬉しい?」と聞かれて何のことか聞いたら畑を耕す作業をミチトが代わりにやるか、イノシシなんかの畑を荒らす獣をミチトが代わりに捕まえるか好きな方を選べる代わりに調味料をミチトに渡す話になった。


結局畑は野生のイノシシに荒らされていたのでどちらもと言う話になり、ミチトは単純に土の術で耕しながら猪を見つけると眠りの魔術で眠らせて農家の前に差し出した。


あっという間の出来事に馴染みのある農家は「ミチト!あんた凄くなったね!偉いよ!フォルもあの世で喜んでるよ!」と言ってミチトを誉めながら調味料を分けてくれる。


「いえいえ、俺なんてまだ師匠の足元にも及びません。1番大事な心もまだまだでいつもソリードさんに教えてもらってます」

「かぁ〜、よく言うよ。まあフォルもいつだって強くなる途中、終わらないって言ってたからね。それがいいね」


ミチトはフォルの言葉が実父ファルが名付けに使った言葉に近くて驚くと同時に嬉しくなった。

農家は調味料を出しながら「そんでさぁ、もう少し頼まれてくれないか?」と頼み込んでくる。


「は?何か困ってるんですか?」

「大困りだよ。今年は雨が多くて川に泥だの石だの木だのが入ってきて汚いやら溢れるやらで困ってるから何とかしてくれよ」


「んー…物々交換なんで酢漬けのリンゴも貰えます?」

「やってくれるなら用意するよ!」

ミチトは簡単に川まで行くと流れてきて川を塞ぎ始めていたゴミ達を術で取り出して川の横に山積みにしてから川の流れを加速させて綺麗にしてしまう。


「このゴミ、いります?」

「いらねぇよ」


「じゃあ燃やしますね」

さっさと灰に変えて終わらせるとリンゴと漬け込んだ酢も分けて貰い「アクィ、アップルパイを作ったら残りは漬けダレに使うからね」と説明をする。


アクィはリンゴを見て「あら、イブ達が喜ぶわね」と喜んでいるとソリードが「ミチト君、そろそろ帰りなさい。このまま居ると大変よ?」と言う。


ソリードに言われたミチトは周りに気を張ると皆がミチトにお願いをしようとしていたので逃げるようにトウテに帰ってラミィとトゥモを呼ぶとベリルには「ベリル、また明日ね」と言う。


「うん!パパありがとう!お肉もアップルパイも楽しみにしてるね!」

この言葉にイブとライブが目の色を変えたので、またまたミチトは逃げるようにスティエット村へと向かった。

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