第22話 山での暮らし1日目。

家族の日について順調に決まる。

エスカとミトレはひとまずサルバンでお世話になることが決まり、ヒノが物凄く嫌そうにしたがパテラとスカロに頭を下げられ「サルバンは差別をしない!」と言われた言葉で心を決めるとキチンと余所行きの顔でナハトの父母、ミチトの母とその夫としてもてなす事にした。

マロに関してはミチトの影響でおとなしいので全日程をサルバンの宿屋で過ごす事になる。



話を聞いたローサはロゼを称賛して「うふふ。素敵よ。何か欲しいものはある?」と言うので「ローサ婆ちゃん、3個頼める?」とロゼは聞く。


普段は謙遜や遠慮をして断ってくるロゼが、頼みごとを申し出た事が嬉しくなるローサは「あらあら、何かしら?」と聞く。


「パパ達が遠慮すると困るから王都で食材とか買っていい?」

これには「あら、勿論よ」と返したローサは「あと2個は?」と聞く。


「1個はマアルが泊まりが羨ましいって言うからローサ婆ちゃんの所に泊まらせてあげてよ」

「あら?素敵だけど大鍋亭は?」


「確かに今日はフユィとベリルが居ないけどお嬢様をウチに泊めるの?嫌なんじゃない?」

「じゃあそれはマアルさんに聞いて泊まりたい場所に合わせましょう。ウチでも構いませんけど大鍋亭がいいと言われたら大鍋亭にしてあげなさい」

方向性が見えたロゼは「うん。そうするよ」と答える。


「じゃあ後1個は何かしら?」

「山婆ちゃん達をサルバンだけじゃなくてダイモにも泊めさせてあげてよ。パパが今どんな所に住んでるかわかれば山婆ちゃんはメソメソ泣かなくなると思うんだよね。パパは山婆ちゃんが泣くのが嫌なんだって言ってたからさ」


この提案に「あら素敵。じゃあ順番は…」と話したところでローサはロゼの才能を見たくなり「ロゼちゃんの希望を教えて?」と言う。


「希望?んー…サルバンは今日と明日でダイモにそれから最後までかな。そうしたら俺達の誰かしらは山婆ちゃんにディヴァントが良いところだって教えられるし、出来たら最後のメロが終わっても、もう一晩居てもらったらパパと過ごせるからさ。パパも嫌だって言っても見てるとなんだかんだ山婆ちゃんに気を遣ってるし、だから今晩がアクィママとフユィとベリルらしいから、明日はそのままアクィママとラミィ、トゥモ、フユィにしてもらって明後日からはライブママ、お母さん、ママ、それでまた最後はアクィママで家族の日をしてきて欲しいんだ」


ローサはロゼの才能の片鱗に嬉しくなりながら「ミチトさんをそんなに山のお家に住まわせるの?」と確かめるように聞く。


「うん。きっと思い出もあるし、なんか皆の話をまとめてみるとまだ住みたかっただろうし、それで無くなったらつまらないだろうし、俺達も泊まってみたかったから無くなったら面白くないしさ」


やはりイブの良いところとミチトの良いところを受け継いだロゼの才能は確かなものだと感じたローサは「素敵よ。本当に素敵、心のままに生きなさい」と応援をする。


ローサと決めた順番の報告を含めてロゼは精力的に行動をする。


結局マアルはアルマと共にロウアンとローサ預かりとしながら大鍋亭でお世話になる事になる。

一応の気遣いとしてきょうだいのジェードがベリルのベッドで眠る形でジェードのベッドをアルマが使ったりする事になった。


ミチト達の家具は王都の別荘から持っていくと家の前でフユィとベリルが交互に質問をする。

「パパ、ここが昔パパが住んでたお家なの?」

「うん。そうだよ」


「パパのお部屋は何処?」

「ここ、今はナハトが使っていたみたいだね」


「パパ、ベリルと私とママで家族の日なの?」

「うん。ダメかな?」


この返しにフユィが「そんな事ないよ!」と跳んで喜ぶとベリルも「嬉しいよ!アクィママとできて嬉しい!」と喜ぶ。アクィは本当に嬉しそうに「ありがとうベリル。仲良く楽しみましょうね」と言って頭を撫でていた。



アクィ達はミチトにお願いをした。

ロゼが大量の食材をイブと買って山の家まで持ってきたが、その条件はミチトは緊急事態以外はスティエット村から離れない事。


「食べ物が足りなくならないようにしたから平気だけどお魚とかは全部山で手に入れてよね」

ロゼの提案に倉庫の方を見ながら「まあミトレさんの備蓄を使えば間に合うけど…。ズメサに買いに行くのは?」と聞くとイブが「それはOKです!」と言う。


「あ、じゃあソリード婆ちゃんにもパパが山の家に居るって言っておくよ」

ロゼの徹底振りにミチトが「マジかよ」と言うとアクィが「うふふ。ロゼは徹底しているわね。貴いわよ」と言って褒めた。


もう一つのお願いは結婚をして妻子を連れて村へと帰還を果たしたミチト・スティエットとしてこの数日を過ごす事を願われた。


「つまんないと思うけどいいの?」

「それを決めるのはイブ達です!」


「まあいいか…、大鍋亭とリナさんは心配だから見守るからね?」

ミチトが言うなり「いやいや、そこは私の出番だよミチト君」と真式の声が聞こえてくる。


「真式?」

「いいじゃない。生家で過ごすのは大事だよ。私やゴルディナにはもうそんな所はないからね。私達の分も楽しんでね」


ミチトからしてもこれには反論も何もなく「わかった、任せるけど傷ひとつ認めないから本気で見守ってくれよ?」と言うと「勿論、ミチト君とアクィさんの日だけだし、それ以外はアクィさんに頼むよ」と返ってきた。


ミチトからしたらほぼ同じ日々を過ごしたが、言い方は悪いがある日突然奪われた日常が帰ってきて困惑してしまうが悪くはなかった。


初日のミチトは「仕方ない。今日は少し掃除をしながらあれこれ見るか」と言って家を見ながら早い冬支度を始める。


後ろをついてきたベリルが「パパ?何してるの?」と聞くとミチトは「冬支度だよ。山の冬は早いからね、ミトレさんはそこら辺の仕事が丁寧で早いけど1週間も家から離れてナハトもいないから少しくらいならやってもいいかなっておもってさ」と言いながら倉庫を覗く。


「ベリルもお手伝いしたい!」

「え?やってくれるの?」

これを聞いていたフユィが「私もやる!」と言ってミチトに飛びつく。


「うん。ありがとう2人とも。アクィ、お茶の支度だけしておいて。ここは喉が乾きやすいんだ」

「ええ、行ってらっしゃい。2人とも頑張ってね」


アクィはお湯を沸かしている間にダイニングのテーブルで誰もいないスティエット家の空気感、外から少し聞こえるミチトと子供達の声に安らいだ気持ちになって嬉しさに目が潤む。


外ではミチトが麓の村から分けてもらった藁を束ねて結んで倉庫に戻していく。


「パパ?」

「雪が降ると寒いから、藁を家の周りに置くんだ。その為にこうして束ねるんだよ」


「藁で暖かいの?」

確かにトウテも冬は寒いがエーライと交わした洋服の契約で子供達は寒さをあまり感じないしミチトもディヴァント領の気候を少し変えて夏は涼しく冬は暖かくしてしまっている。


たしかにそこら辺を知らないのかもしれない。そう気づいたミチトは「ふふ」と笑ってから「少し寒くするからね」と言って小規模の氷結旋風を起こす。


「少し寒い?」

「うん」

「寒いよ」


「じゃあ」と言ったミチトは簡単に藁を並べて小屋状にすると「中に入ってみて」と言う。


2人は藁の中に入ると「暖かい!」「藁すごい!」と喜ぶ。


「だから藁を用意するんだ。後は屋根の確認かな」

「屋根は何をするの?」


「穴がないか、穴が空かないかとかだよ。冬は凍って屋根に登れなくなるからね」

「屋根!」

「登りたい!」


「屋根だよ?楽しくないと思うよ?」

「乗りたい!」

「登りたい!」


時間を忘れて山の暮らしを楽しむ3人の所に呆れたような顔でアクィが現れて「お茶が入ったわよ」と声をかける。


「おっと、行こうか」

「うん!」

「お茶!」


お茶の時間は全員にとっても新鮮でフユィが「静か」と耳を澄ませて、ベリルが「本当、ジェードが居ないから静かだね」と笑う。


「夜は何にしようか?ミトレさんの鹿はまだ食べられないから王都からイブが買ってきた鳥とか豚になるかな」

この会話にアクィが「ご馳走は嫌よ」と言う。


「アクィ?」

「スティエット村の人達が食べるメニューにしてね」


「まあいいか…。アクィは明日の仕込みを手伝ってもらってベリルとフユィにはパンとかを手伝って貰うかな」


夕飯はパンとチキンステーキとチキンステーキを焼いた時の油を使ったスープだった。


お嬢様のアクィ、大鍋亭の食事が当たり前のフユィ達は物足りなさを口にすると思ったが喜んで食べてくれる。


夜はミチトが使っていた部屋にベッドを並べて4人で眠る事になった。


4人で天井を見ているとアクィが「素敵な1日だわ」と言うと、そう思ってもらえる実感の無いミチトが「そう?」と聞き返してしまう。


「そうよねベリル、フユィ?」

「うん!パパとアクィママとフユィと家族楽しい!」

「このお家好き!」


ミチトはやはり何でそんなに喜んで貰えるのかがイマイチ分かっていなかった。

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