第19話 イタズラの先。

昼はさっさと帰りたかったのだがジェードが「パパ、ナイワ様にお昼ご飯をお願いしておいたよ」と言い出した。


「ジェード?なんで?」

「アルマの訓練だよ」


ジェードの耳打ちにミチトは楽しそうに笑うと「ジェードはよく考えるなぁ」と言って頭を撫でる。


昼ごはんに出てきたステーキはサンクタとナイワ以外は生焼けで困惑するアルマとマアルにジェードが「フォークに火の術を流して自分で好みの所まで焼くんだ」と説明をする。


ジェードはマアルとアルマを見てロゼに「ロゼ、マアルの方を見てやりなよ」と指示を出す。


「うん」と返事をしたロゼがマアルを見ると、午前中の訓練が生きていたマアルは丁寧に切り分けたステーキ肉にフォークを刺して焼き上げて行く。


アルマはどうしても微調整が苦手で焼きすぎか生焼けになりかけて、ジェードから「焼き過ぎの時の力で人差し指にだけ術をこめてみなよ」と指南を受けて上手に焼き上げる事が出来た。


今回の問題はアクィで、まず一切れを即座に炭へと変えた。

この結果が嬉しいミチトは「ほら。苦手だ」と言ってニヤっと笑いながら自分の分を好みの焼き加減に焼いて口に運ぶ。


アクィは「美味い」と言うミチトを見て自分のフォークに刺さる焦げた肉を見て忌々しそうに「くっ…なんで!?」と言っている。


見かねたロゼが「アクィママ、アクィママなら人差し指の爪の先だけに術を流してみなよ」と指示を出すとアクィは「ロゼ?」と聞き返しながら言われたように術を流すとキチンと焼けていき「あ!焼けたわ!ありがとう!」と言うと、「ロゼ、もうバラすの?面白くないなぁ」と言ってガッカリ顔のミチトにアクィが「コノヤロウ」と返す。


メロはニコニコとイブと肉を焼いていて徐々に焼けていく焼き色にキャイキャイ言っている。


子供達は十分な訓練をした事と自分で焼き仕上げるステーキが楽しくておかわりまでするとマアルが席を立ちサンクタとナイワの前に行き「父上、母上も良かったら私の焼いたステーキを食べてくれませんか?」と申し出て、サンクタは目の前で焼きあがるひと口の肉に「何という旨さだ!」と喜んでいた。

この顔にピンときたロゼはメイドに頼んで紙とペンを貰うとマアルと何かを書く、食事の場でマナー違反だと顔をしかめるサンクタだったがそれを蝶の形にしてマアルとロゼでサンクタとナイワの所まで術で飛ばすとしかめ面は手違いとばかりに感涙していた。

ちなみに中身は「ロゼくんのおかげでこんなこともできるようになりました!」と喜ぶマアルと「今度はマアル嬢との超長距離の狙撃を練習させてください」と進捗を書くロゼのコメントだった。


遅い午後、ミチトはカラーガに昼のお礼を言うとメロの頼みで王都へと顔を出す。

メロが「アプラクサス様からパパに相談があるんだって」と言うと即座に顔を暗くして「…パスしたい」と言うミチト。


「ダメだよぉ、アプラクサス様はガットゥーにいた時にタシア達に良いお部屋を用意してくれたよ?」

「…仕方ない、行くか…」


ミチトが顔を出すとアプラクサスは「よく来てくれました」とミチトを迎える。ちなみにその後ろではイイダーロが必死にアプラクサスの仕事をやっている。

ミチトは意地悪く「アプラクサスさん、折角なんでモバテさんの所にも行きませんか?シックさんも見るかなぁ」と言ってシックを呼んでモバテの所に顔を出すとモバテは「珍しいな、来てくれるとは嬉しいぞ」とミチトを出迎える。

その後ろではウシローノとイシホが仕事をしながらミチト達に頭を下げている。


「いえいえ、なんかメロからアプラクサスさんの所に顔を出すように言われたんで着たんですけど、折角なのでモバテさんとシックさんにも見せようかと思ったんですよ」

「見せる?」

「何をだい?」


「いやぁ、今日の俺はアクィとメロと第三騎士団の訓練場で暴れようと思ったんですけどね、ただその前にイブ達がメロを連れてカラーガまで行っていたからカラーガで暴れたんですよ」


これにメロが「凄かったんですよ!パパが沢山訓練に付き合ってくれました!」とキラキラ笑顔で報告をすると目を細めて「よかったね」と喜ぶシック。

だが王都で暴れられては実は困るのにメロに頼まれて快諾してしまったモバテと後を任されたアプラクサスは青い顔で「あ…暴れた?」「凄かった?」と言う。


ミチトはちょっとしたイタズラ心でモバテとアプラクサスの困り顔が見られて嬉しくなった所でシックが「ミチト君、陛下も見たいと思うよ?」と言う。


「おお、確かに!…ロゼ、ジェード、折角だから俺がやるみたいにエーライさん呼んでみてよ」

「え!?俺とロゼでやんの?」

「やれるけど…やるのかぁ…」


ロゼとジェードはお互いを見て集中をすると「広域伝心術」と声をそろえる。

伝心術の広域化が出来た事を確認してから2人で「エーライおじさん」「パパとモバテおじさんの所にいるので来てください」「パパが凄いものを見せるそうです」「カラーガで暴れてきた訓練ですよ」と言う。


横でイブとライブ、アクィとメロは「あちゃ〜」と言う顔をしていて、ロゼとジェードは「あれ?」「どうしたの?」と言っている。


ミチトは人差し指を天に向けてクルクルと回しながら「ふふ、やっぱりだ。君達出力調整を間違えてるんだよ。2人でやるんだから半々で力を使えばいいのに2人がかりだから王都中に響いてたよ」と言って笑う。

ちょっとだけカラーガで指南をする姿を見て天狗にはなっていないが変な万能感を感じている表情をしていたジェードとロゼを注意したくて広域伝心術を使わせていた。


「え!?」「止めてよパパ!」と言うジェードとロゼに「いやいや、失敗は成功の母だよね。アクィだって一度失敗した後で肉を焼けるようになったらそれからは上手に焼けたろ?」と言うミチト。


ロゼとジェードが「ええぇぇぇ」「恥ずかしいよぉ」と言って恥ずかしがっていてもエーライは関係なく駆けてきて「お待たせ!来ちゃった!今日はジェード君とロゼ君なんだね!嬉しくて飛んできちゃったよ!」と言う。


そして始まる地獄絵図。

ウシローノはミチトの戦いが見れて仕事どころではないし、イシホは実家の土地が荒れていて仕事どころではない。


青くなるモバテとアプラクサスをよそに、シックとエーライは「おお」「凄いね」と喜びを口にする。


ちなみに今見ているのはイブの目で見た景色で、焦土と化したカラーガの訓練場をみてイシホが「死んだ…、カラーガはおしまいだわ」と漏らす。


「…以上がミチトさんとアクィさんとメロちゃんの訓練です!」

イブがニコニコと言うとミチトはニヤリと笑ってメロに指示を出す。

メロもニコニコと「エーライ様!どうでしたか?」と聞く。


エーライは「凄いねぇ、惚れ惚れする力だね」と返すとメロは少し困った顔で「でもまだまだパパには敵いません」と言う。


そして「でも、これでも最初よりは戦えるようになったんです!」と必死な顔で続けるメロ。


これは良くない流れだとモバテとアプラクサスは青くなるが口を開く前に「エーライ様!きっと戦う回数が少ないからなんです!トウテだとヨシお兄さん達にダメって言われてて…、それでもこの前サルバンでモバテ様が第三騎士団の訓練場なら使っていいって言ってくれたんです!」とメロが言い、エーライも「それは良かったねメロ嬢、今度は訓練の時に僕も呼んでくれるかい?」と返す。


「勿論です!…でも勝つ為にもっと沢山訓練したいんです」

「立派だよメロ嬢、闘神と呼ばれるミチト君相手でも決して折れない貴い心に賞賛を送らせてくれるね?訓練は好きな時に言うといいよ」

欲しい言葉が貰えて嬉しいメロは「ありがとうございます!エーライ様!」と言う。


アプラクサスは真っ青な顔で「あは…ははは…、貴いですねー」と言っていてモバテは眉間を押さえて「勘弁してくれ」と言ってる。


ここでエーライも意地が悪いのはミチトの真意を理解していて「モバテ?まさかとは思うが普段からワガママを言わないこの僕の…いや、余の言葉に異を唱えるか?余の名はエーライ・トーシュ・マイードであるぞ?」と言う。


モバテは肩を落として「い…いえ、陛下のお申し付け通りに…」と言う。

その横では一緒に肩を落とすアプラクサス。

そんなアプラクサスにシックが「何をそんなに困るんだいアプラクサス?」と声をかける。


「シック?何を言うのですか?あの僅かな訓練場で起きた天変地異を見たでしょう!」

「いや、それは確かに安全面に配慮が必要だがそこは第三騎士団の皆に頑張ってもらおう。それよりも以前から議題にあがっていた王都嫌いの闘神にどうしたら王都に来てもらえるかがクリアしたんだよ?喜ぶべきだと私は思うね」


ここで寝耳に水のミチトは「え!?」と言い、エーライは「ふふふ、そうだよ。メロ嬢、勿論訓練はメロ嬢とお父上がセットだよね?」とメロに聞く。


メロも「はい!勿論です」と返してミチトの王都に来る回数が増えた事が決定した。

ミチトはイタズラ心を反省しながら「マジかよ…、やられた」と言って肩を落とした。

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