第15話 シーナとヨンゴ。

シーナ達が戻れたのは一時的なものだった。

ロリーが用意した昼食を食べてヨンゴは「うめぇ!パンがうめぇよ!」と喜ぶとシヤが「さあ!もっと食べてくれヨンゴ!」と話しかけて、シーナは「もう、シヤってばそればっかり」と笑う。


食後にシーナが「マスター、シヤの力かな?この身体にも術があるよ」と言う。

ミチトは頷いて「超熱術は?」と聞くとシーナは掌を見ながら「あるかも知れないけど前の私がちゃんと撃てないからかよくわからないや」と返す。


「ファイヤーボールを見せられる?」

「はい。ファイヤーボール」


シーナとヨンゴのファイヤーボールは一般的なモノだった。


ここでイイーンダからミチトにどうしてもお願いがあると言われて渋い顔をしたが話を聞くと暴れ馬をなんとかしてくれというもので快諾をする。


ミチトがイイーンダに連れて来られた真っ黒な馬と話す姿にヨンゴとシーナが「わぁ、マスターすげぇ」「本当、マスターは凄いね」と声を出す。


馬と話したミチトは声を上げて笑うと暴れ馬と言われている馬を抱きしめて「大丈夫。言うよ。その間にシーナとヨンゴを乗せてあげてくれない?」と言う。

馬はシーナとヨンゴを見てしゃがみ込むと2人を乗せて優雅に走る。

その姿のどこにも暴れ馬の感じはない。


少し話しただけで暴れ馬を大人しくさせたミチトにイイーンダが感謝をすると「あの子、イイーンダさんが大好きすぎるんです。本来なら騎士団の馬になりますよね?」と説明をした。


「はい。その為の馬です」

「騎士団よりもイイーンダさんの馬になりたいそうです。お世話もイイーンダさんのお世話がうますぎるから他の人は嫌ですって」


なんて事はない。

イイーンダと共にいたい馬は暴れて主張していただけだった。


話が終わると馬は呼ばなくても戻ってきてイイーンダの横でしゃがんでシーナとヨンゴを下ろす。

イイーンダは「私でいいのかい?」と聞きながらも優しく撫でて礼を言った。



その横でシーナとヨンゴが「シヤ、抱っこ。眠いの」「俺もだ、シーシーは照れるからシヤがいい」と言い出した。


シヤは急に眠いと言い出した2人を見て不思議がりながら「シーナ?ヨンゴ?構わない。来るんだ」と言いながら抱く。


シヤと同じ目線になったシーナは「シヤ、また会えて嬉しいよ。この身体にいつも私達は居るからね。沢山の愛をありがとう。やっぱり彼女がよかったかな?」と言い、ヨンゴが「いやいや、シーナとシヤだと俺達は生まれてこれなかっただろうな」と言う。


シヤは急な話に「なんの話だ?」と聞くがシーナとヨンゴは「マスター、シイ達に言葉を届けてくれるかな?」「あ、それいいな。俺達はみてきたし抱っこもして貰ったけどな」と言ってミチトに話しかける。


ミチトが頷くとそのまま「シイ、シヅ、ヨミ、大きくなった皆を見れて良かったよ。訓練をサボらずに頑張って私の分まで治癒院の仕事を頑張ってよね」とシーナが言うとヨンゴも呆れ顔で「本当だぜまったく、1番の俺がやる仕事は任せたからな」と言った後で真っ直ぐな目で「俺たちの分まで皆を、マスターの代わりに騎士団で術人間にされる子供が出ないように頼むぜ?」と言った。


ミチトは事態を理解していた。

だからこそ「君達…」と言った。


シーナは儚い笑顔で「いいの。わかってるの」と言い、ヨンゴは「どうせまた来れるって」と一度シヤを見て軽口を叩く。


「うん。今度はシローとヨンシーとね」

「ただ眠るだけだよマスター」


そう言ったシーナはシヤを見て「シヤ、ギュッとして?眠る前にいつもしてくれるよね?」と言い、ヨンゴはシーシーを見て「シーシー、今だけシヤだけど今晩はシーシーもやってくれよな?シローとヨンシーに取られて面白くないからな」と言う。


シヤが抱きしめるとすぐにシーナとヨンゴは眠りにつき、数分で普段のシーナとヨンゴに戻る。


「お父さん?」

「寝てた?」



子供達の変化に困惑するシヤが「シーナ?ヨンゴ?」と声をかけるとミチトは「恐らくシヤの力が一時的に膨らんだ時、ステップアップをさせない為に2人が出てきてくれて力を自身に逃がしてくれたんだと思う」と言う。


「でも…わざとステップアップをしようとしてはダメだ。みてご覧、シーナもヨンゴも今のことを覚えていないよね?2人を犠牲にするかい?」


シヤは先程の2人を想いながら自身の子供を見る。

「…シーナ、ヨンゴ」と名前を呼べば不思議そうに「お父さん?」と声をかけるシーナと「さっきのマスターとの訓練怖かったからもうやめてよね」と言うヨンゴ。


少し言葉に詰まったシヤは「そうだな。とりあえず帰ろう」と言って2人を抱きしめて立ち上がると「マスター、わかった。でもマスターが無理をやめないなら俺も無理をする。忘れないでね」と言った。


ミチトは困り笑顔で「わかったよ。今日はありがとう」と言ってシヤの頭を撫でた。

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