第16話 変わる日常。

この日からなにもかもが変わった。

ミチトとナハトの訓練を見たがったシヅ達は顔面蒼白になって「マスター怖い」「ナハトはヤバい」と言った後でシーナとヨンゴの言葉を聞いて心を入れ替える。


「シヤ!シーナ達に土産買ってやるから持って帰れよ!」

「うん!ヨンゴにパン買うからさ!」

「シーナに絵本は?」


訓練終わりにはシイ達はシーナ達に何かを持たせたいと言い出す。

シヤは困り顔で「シイ、シヅ、ヨミ、それは今のシーナ達が困惑するからダメだ」と言って断る。


「それより訓練だ。二刀剣術をマスターは200近く放てるらしい。負けていられない」

どうしてミチトと戦ったかを聞いたシイ達は「…それだけどシヤも1人でやろうとしないで俺たちと頑張ろうよ」「そうだよ」と声をかけるとシヤは「…そうだな」と言って頷いた。


「シーシーと使った火の雨を完成させたいから付き合ってくれ」

「そうだよ!それにしようぜ」


シヤはもうすぐトウテに帰るがシイ達はまだ騎士団と治癒院を行き来するので皆の分まで働く事を誓う。




ナハトはサルバンで自らヒノに心を鍛えてくれと頼み込む。

ヒノは正直ナハトの中に見え隠れしていた、甘ったれた心を嫌悪していたがミチトとの訓練を経て生まれ変わったナハトに嫌悪の気持ちはなく「へぇ、いい顔をするじゃない」と言った。


そしてわざと圧を放ちながら「甘ったれのナハトにしては大進歩ね」と挑発をしてみたがナハトは怯むことなく「はい!よろしくお願いします!」と返事をする。


このナハトならと思ったヒノはスカロを見て「スカロ、ミチトの訓練を活かすわ。ナハトの剣を木剣で作りなさい。スカロは刃のない練習用とは言え鉄製の剣でナハトを痛め付けて」と指示を出す。ヒノの言いたい事がわかったスカロは「わかった」と返事をする。


「熊男、これからは休みの日以外は寝込みすら殴りかかりなさい」

「ぬぅ、任された!」


「ノルアとナノカはキチンと化粧を覚えて相応しくなる事よ」

「はい!」

「が…頑張ります!」

こうしてナハトの訓練は始まりそれぞれの新しい日常は始まった。




トウテではリナは時間の許す限りミチトと話をしてミチトを癒す。

イブはアイリスになってミチトと過去について話し、ライブは親としてこうありたいと未来を語る。


そんな中、ミチトはアクィにお願いをした。


「アクィ、一個頼まれてよ」

「何?言いなさい」


「ブレイクポイントに行こう」

「ブレイクポイント?良いけど」


ミチトはブレイクポイントの温泉に着くと「入ろう」と誘う。

アクィはガットゥーの件から暗く、日中は普段通りだったが共に過ごす夜は泣いていて何遍もミチトに「ごめんなさい。また甘い考えで傷付けたわ」と謝っていた。なのでミチト自身、アクィのケアもしたかったがアクィと温泉に入りたかった。



アクィはいつも通り「え?私と?リナさんじゃないの?」と聞き返す。


「え?嫌なの?」

「嫌じゃないわよ!」


ミチトは「じゃあよろしく」と言うとアクィを抱き締めながら温泉に浸かる。

普段のミチトなら根を上げる時間でも静かに入る。

アクィは最初こそアレコレと話しかけてきていたが、すぐに大人しく風呂に入っていた。


木々の音や鳥の鳴き声が聞こえる中でようやくミチトがおおきくホッと一息ついて「ありがとうアクィ」と言った。


「ミチト?」

「前に風呂の入り方を教えてくれただろ?アレをしてスッキリしたかったんだ」


「あ…ラージポットの時の?」

「アクィに教わったこれでスッキリしたくてさ。ありがとう」


アクィも流石にそこまでバカではない。ミチトなりにアクィを慰めようとしてくれている事はわかっていたので「ミチト…、ありがとう…。後はごめんなさい」ともう一度謝った。


「いや、丁度いいんだよ」

「え?」


「俺にはあんな親しかいない。イブもライブもね。リナさんは早くに親元を離れたしマテさんの事があったからティナさん達との付き合い方がアクィ程わかってない。だからアクィが居てくれると普通がわかるからさ」

この言葉に救いを求めるように「本当?私居ても嫌にならない?」とアクィが聞く。


「まあ後ろから撃たれると辛いけど、でも俺はアクィにいて欲しいんだよ」

「ありがとう。これからも居させて」


暫く抱き締めあった後で「本当はフユィも連れてきてあげたかったけど子供達を連れてきて周りをシャットアウトするのは出来ないからさ、それにアレ以来怖がられてる気がするんだよね」とミチトが言う。

アクィは穏やかな顔で「誰も怖がってないわよ」と返す。


「そうかな?」

「どう接していいのかわからないのよ」


この部分の子供達の機微はミチトにはわからない。

だからこそアクィの普通がありがたい。


「マジか、じゃあ付き合ってよ」

「何に?」


「別荘でベリルとフユィと家族をしない?」

「良いわね。でもその前にメロよ。メロが1番傷ついてるわ」


メロはあの日以来どうしても何かにつけて落ち込んでいた。

ミチトを見ているとミチトを悪く言った実母の事を思い出す。

その母と同じ血が流れているかと思うとさらに落ち込んでいた。


「うん。それもアクィに頼みたいんだ」

「了解よ。サルバンかしら?」


「この前メロがモバテさんの許可を貰ったから第三騎士団の訓練場かな?」

「じゃあ帰りましょう」


ミチトとアクィが帰ると大鍋亭にはリナとタシア、シア、コード、ラミィ、トゥモ、フユィ、ベリルが居て、イブとライブ、メロとロゼは外出中だった。


ミチトは「あれ?メロが…」と言いながら金色の目でカラーガの方角を見て「カラーガ?」と言う。リナは半分呆れながら「言う前に見ちゃったか」と言った後で「イブとライブとロゼはマアルの訓練、ジェードはアルマ、メロは滅入ってるからってイブが連れてったわよ」と教えてくれる。トウテで話を済ませてさっさと第三騎士団の訓練場で暴れようと思っていたミチトは「マジか」と言う。


「ミチト?」

「メロが落ち込んでいるから暴れようと思ったんですけど…カラーガを焦土にして許されるかなぁ、本当は第三騎士団でやりたかったんだけど…」


ミチトが話を飛ばす事になれたリナは「焦土は知らないけど、メロはああなったらミチトじゃないとダメだよね。サンクタ様に頼んでみたら?」と言うと、ここにタシア達が来て「お父さん、メロをなんとかしてよ」と言う。


「タシア?」

「メロのクッキーがいつもより美味しくないんだよ」


「マジで?」

「本当、これ食べてみてよ」


タシアに渡されたクッキーを食べたミチトは「甘さがまだらで砂糖の塊が出てきた」と言い、一緒に食べていたアクィも「心ここに在らずね」と言う。


タシアに「僕達留守番してるからお父さんお願い」と言われたミチトは「うん。行ってくるよ」と言いアクィと一緒にその場から消えた。

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