第12話 祝賀会と練習会。
剣術大会の晩は祝賀会。
5位までの選手が集まる中、ミチトは万一に備えて気を張り巡らせる。
顔つきだけでミチトが気を張り巡らせている事を察したアクィが「大丈夫、私がいるわよ」と声をかけるがミチトは「わかってる。でも何があるかわからないだろ?」と返す。
正直、今は誰と何を話してもうまくいかない。
ナハトと話せば両親がついてくる。
優勝者や上位入賞者と話せばナハトと話す必要が出てくる。
また元に戻ってしまう。
アクィもそれは理解しているので今日のイイヒートの話をミチトに振る。
ミチトは優しい笑顔でイイヒートとアメジストの仲を嬉しそうに話していた。
そんな話の最中にイイテーロが近づいて来て「ミチトおじさん。お父様もお母様もロワもズルいです」と言う。
「イイテーロ?どうしたの?」
「皆ミチトおじさんからフォークとかネックレスとかコロシアムとか貰ってます。僕は何も貰ってない…」
ここでおねだりが出来るのがイイテーロらしいし、そんなイイテーロをミチトは悪く思わない。
「ああ、何が欲しいの?」
「剣が欲しいです。僕は強くなってガットゥーを守るんです!」
やはりロリーとマンテローは兄妹だったのだろう。
どこか息子のイイテーロの目はマンテローを彷彿させる。
だが、ミチトはイブ達がスード達から聞いて少しだけ知ったマンテローの話を聞いていたので否定する事なく「おお、いいね。じゃあ頭に剣の姿を思い浮かべてごらん」と言ってイイテーロの希望で作った剣はゴテゴテした見た目重視の剣だった。
機能美優先のミチトからすれば呆れてしまうが否定はしない。
ミチトが「まあ、それがいいなら良いけど…」と言うとイイテーロは本当に嬉しそうに「ありがとうミチトおじさん!」と言って喜ぶ。
貰ったばかりの剣を持って喜ぶイイテーロにミチトは「それ、先は丸くしてあるし刃は付けてないから手足のように振り回せるようになったら仕上げてあげるよ」と言った。
イイテーロは嬉しそうに父母に報告に行く。
離れた所に居るイイーンダとロリーはミチトを見て頭を下げてくるのでミチトは手で返事をした。
その姿を見てアクィが「ミチト?」と聞くとミチトは「いや、変われるのなら変われるべきさ、きっとマンテローは変われる機会に恵まれなかったからね」と返す。
やられた事は変わらない。
許せない気持ちも変わらない。
だがマンテローに何があったかを知り、子を持ったミチトは少しだけ変わっていた。
アクィは嬉しそうに「そうね」と言った後で「ねぇミチト?」と声をかけるが、ミチトはアクィに話を聞く前に「パス」と返す。
「まだ何も言ってないわよ」
「メロにさっき言われたからわかるよ。あの本気の手前の俺とやりたいんだろ?やだよ。なんか心が黒く染まる感じだしベリルが泣く」
「ふふ。そうね。でもリナさんじゃないけど全部格好良かった。惚れ直しちゃった。今日はイブが良いって言ったら5人になる?」
「パス、多分今の俺は乱暴だよ。今は奥さん達と一人一人で穏やかに過ごしたい」
ミチトはそうしてイブとの夜を迎える。
イブはライブ以上にミチトを求めて受け入れた。
その間にエーライは一つのものをリナに頼み、リナはそれに応じた。
翌朝、先着100人の「闘神に好きに挑める練習会」の為にミチトの作った暴れられるコロシアムには大会参加者以上の剣士達が集まる。
中には術使いから拳士までいる始末で、そもそも数日前に決まってこの人数はおかしいとミチトが言うとロリーは「すみません、実は集客が見込めなかった時のために…」と言って最初に用意したふれ込みには「闘神・ミチト・スティエットが気が向いたら手合わせをしてくれるかもしれない」と書かれていて、そこに二日前に決まった先着100名までの話が出てしまう。
こうなるとアクィに頼むのも気が引けてしまうし、ナハトを痛めつけるために土地を分けてもらったのでミチトは仕方ないと前に出て100人の相手をする。
術使いの老人はファイヤーボールを一発放ちミチトはあえてファイヤーインパクトで打ち上げて見せてそれに自身のファイヤーボールを当てて破壊をする。
そして2発目は発動すらさせずに「術を封じられる可能性を考えてくださいね」と指南する。
その後も全ての挑戦者の必殺の一撃を全ていなしてから圧倒的な力の差でうわ被せてワンポイントアドバイスをしていく。
「百…。お疲れ様でした」
ミチトは挑戦者達に挨拶をするとイブが「飛び込みでもう1人だけお願いします」と言ってくる。
ミチトは本当に嫌そうに「は?もうお昼食べて帰ろうよ」と言うがイブは首を横に振って「ダメですよ。挑戦者のマスクド・トウテさんです」と言った。
「は?トウテ?」と言って驚くミチトの前に現れたのは王都で2番弟子を名乗っている四児の父、シヤだった。
だが一応申し訳程度にターバンを顔に巻いていてマスクの人にはなっている。
ミチトは呆れながら「シヤ?」と声をかけるがシヤ…否、マスクド・トウテは「誰だそれは?俺はマスクド・トウテだ。闘神を本気にさせたい男だ」と返す。
だがまあ、声はシヤだった。
ミチトは呆れながら場外で見守っているシーナの方を見ながら「…シヤ、シーナが手を振ってるよ?」と声をかけるとシヤは「なに?シーナ!見ていてくれ!」と言って手を振った。シーナも正解ですとばかりにシヤに向かい手を振り返している。
「…シヤだよね?」
「俺はマスクド・トウテだ。闘神、本気で戦わせてくれ!」
ミチトをマスターと呼ばずに闘神と呼ぶシヤの言葉が気になって「なんで本気?」と聞くとシヤは「昨日…アクィさんに見せてもらった。俺も本気でぶつかる。でもシヤだと本気になってもらえないと思った」と言った。
ミチトは「見たの?…見たのか……」と言った後で何でそんな真似をと言う意味で「アクィ?」と真意を問う。
アクィは困り顔で「どうしてもとモバテ様とエーライさんが言った時にシヤ君にも頼まれたのよ」と言う。妻の立場として、スレイブの立場として、そして貴い者としての板挟みを理解したミチトは「ふぅ…、仕方ない」と言ってシヤを見る。
「子供の願いは聞くよ。でもそのターバンは外すんだ。視野が狭まる。そしてキチンと本当の名で名乗りを上げて挑んでこい」
「ありがとうマスター。俺の名はシヤ・トウテ!師匠ミチト・スティエットの2番弟子!この場で正々堂々と勝負を挑む!」
ミチトは頷くと場外を見て「アクィ、イブ、ライブ、流れ弾だけ面倒見て」と言う。
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