第6話 ごめんなさいと贈り物。
アイリスは情報を取捨選択しながら見せられる範囲のものをエスカ達に見せた。
最初に「全部は見せない。これでもまだマシなものです」と添えた。
15で村を出るまでの苦痛の日々。
容姿を、生まれを、育ちを悪く言われ使い潰され虐げられ蔑まされる地獄の日々。
祖父母を亡くして地獄が激化する中に帰ってきたエスカと横にいたミトレに少なからず淡い期待をして打ち砕かれたミチトの気持ち。
ナハトを妊娠した事でハッキリと言わずに察しろとばかりに村から追い出され身一つでフォルとソリードの所で世話になったが、行き違いでソリードに気を遣ってズメサからも出て行く。
その後の使い潰される地獄の日々、何度助けてほしいと思いながら、何度人との距離感に悩まされ、断りの言葉を無視されるのか夜の闇の中で苦しむ。
そしてシキョウ。
アクィとのすれ違いでお互いに地獄を見たアクィとミチト。
ミチトはマロ達から散々馬鹿にされてきた恋愛不適合者の言葉に焦燥していてラレスにいいように扱われ、地獄の日々でなんとか貯めた生活費を盗まれる。
ミチトは知らないが才能に嫉妬した師範から飼い殺されて何もできない日々。
剣術道場を破門されて工房にも居られず、他業種ならばと身を寄せた飲食店にまで迷惑がかかり逃げるようにシキョウを去ってダカンに行く。
ダカンではR to Rで使い潰され生命保険の為に殺されかける。術使いとしてやり切るしかなく、見捨てられ裏切られる中で1人でヒールを行って治せばチームの回復役として奴隷並の扱いで人の尊厳も何も無かった。
マンテロー・ガットゥーのおふざけでコレでもかと謀殺されかけてその全てに打ち勝って来た。
心の支えだったウブツンからの手紙を奪われて燃やされた日の絶望と怒りは見ていられなかった。
ファイヤーサラマンダーを独力で倒して仕舞えば1ヶ月ファイヤーサラマンダーの巣に追いやられて戦わされた。
魔物の巣で眠りの魔術を使われて眠らされて武器を奪われて殺されかけた。毒殺を防ぐ為に最低限の薬学を身につけた。
それもあり死なないミチトを殺そうとチームが一丸となって襲いかかってくる日々。
ついにジェネシス家の荷物を守りきれずに訴えられてロキが落札をしてラージポットに行く。
その日までの地獄の全てをアイリスは見せた。
そこにはメロも居てマロの暴虐を恥ずかしく許せないと泣き、ノルアとパテラが支えた。
ソリードもミチトにフォルの死の悲しみをぶつけてしまい、ズメサから追い出す結果になった事を後悔して泣く。
アクィはあのシキョウでの日々でミチトを助ける事を忘れてミチトの気をひく為にテノブレの名前を出して駆け引きを行った事を後悔した。
ロリー・ガットゥーも兄の愚行に肩を落として、イイーンダがそれを支える。
「イブ、まだその先も見てもらおうよ」
「リナさん?」
リナの心を見て見せたいものを理解したイブはラージポットを救う為に犠牲になろうとした姿、実際に犠牲になってオーバーフローヴァージを止める為に一度死んだ姿。必死に自己犠牲を止めるリナに「ただ使い潰されるだけの命に…日々に意味ができました。俺の命はこの為に…リナをイブをライブを…皆を生かす為にあったんだと思います」と言うミチト。
「命を狙われるなんておかしいよ」と言って泣くリナに「命は狙われ慣れてるから平気…」と言った時の顔は見ていられるものでは無かった。
「ここにいる人たちは信じられる人だから」
イブはそう言って最後には皆にミチトの過去を見せた。
皆顔を伏せてしまう内容だった。
サンクタやパテラはミチトの強さを見たと思い、サルバンやカラーガの訓練で満足していた自分を恥じた。
4人の術人間達もミチトに対して決して埋まらない能力差を才能のようなものだと思い、単純にヤキモチを妬いていたことを恥じて心を入れ替えようと思っていた。
最後にエスカはキチンと姿勢を正して「息子と呼ぶのもおこがましいですが、息子の事で大変ご迷惑をおかけしました。私は皆さんのおかげで息子の事を知ることができました。手遅れでなければこれから少しずつ変わっていきたいと思います」と言って頭を下げた後でイブの前に出て「イブさん、ひとつだけ…イブさんなら出来ると思うことがあってお願いしたいの」と言った。
周りからはまた人を頼るのかと思われたがエスカのお願いしたい事はイブ達にしか出来ないことでイブは「とても素敵な事です。それはお義母様にしか出来ません」と言った。
翌朝、ミチトは目の下にクマを作っていた。
それはミチトの人生を見たライブが必死になって一晩中泣きながらミチトを抱きしめて言葉を送って尽くせるだけ尽くし、ミチトはそれに全力で応じてライブが限界を口にするまで愛そうとして朝を迎えていたからだった。
ライブは一晩中尽くしても、それでも朝一番に「ごめんねミチト。私じゃダメだよね?やっぱりリナさんやイブだよね?」と泣きながら謝っていた。
朝食の前にミチトはエスカの前に出る。
その時、エスカの横にはイブが居た。
「ミチトさん、お義母様からの贈り物と…ごめんなさいだよ。先にごめんなさいからね」
そう言ってイブが使った伝心術は村で暮らす実父ファルとエスカの新婚時代だった。
初めは仲睦まじく笑顔だったが、次第にオオキーニ人として迫害されて顔を曇らせるファルと、それを見ないようにしていくエスカ。
ミチトは朝一番からキレかけて呼応するように天気が悪くなる。だがキレる前にアイリスはミチトを見つめて首を横に振る。
「それでこれが贈り物」
その瞬間、ミチトが見たものはエスカ視点のミチトの出産だった。
エスカの手を握って必死に応援するファル。
そのファルが生まれてきたミチトを抱いて泣いてエスカに感謝を告げる。
そして「この子の名前、ミチトにしたいんだ。ミチト・トゥーザー。ミチトは道の途中、まだ終わらない、どこまでも躍進できるようにミチトにしたい」と言ったファルの笑顔で伝心術は終わった。
「ミチトさん、ミチトさんは愛されてたよ。だから生まれてきてくれたんだよ。私はお義母様にもお父様にも感謝をしてる。ミチトさんに会えたんだもん」
アイリスはそう言ってミチトを抱きしめた。
ミチトはその後でエスカに「何かありますか?」と聞く。
「全部見せてもらったわ。謝る事の意味や価値なんかを考えた。ミチトは嫌でもまずは謝らせて。でもそれは自分の罪を軽くする言葉ではなく、ミチトに謝りたいから謝るの」
そう言ったエスカはミチトを抱きしめて「今までごめんなさい。抱きしめてこなかった事も謝らなかった事も、今になって謝った事もごめんなさい。至らない母だけど母で居させて」と謝った。
ミチトは心が冷え切っていて言葉をうまく消化できずにいる。
アイリスは「それでいいんだよ」と言葉をかけるとミチトは頷いた後で「今まで通りでお願いします。シアもラミィもロゼも懐いています。昨日の麦のコースターにしても子供達は全員感謝をしていました。今まで通りでお願いします」とだけ言って一歩前進をした。
シヤはミチトの過去を知りたかったと言い「マスターの強さを知れたとウシローノ達が言っていた」と話すとミチトは照れ笑いをして「シヤ達には敵わないよ。俺はただ心と身体を殺され続けただけさ」とミチトは笑い飛ばした。
子供達はボロボロの親達を見てその中でも頼みやすそうなミチトにあるお願いをした。
「イイテーロとロワに王都散策をさせたいんだ。モバテおじさんとエーライおじさんを迎えに行くよね?お父さんは別荘で休んだりしてなよ」
タシアの言葉にミチトは「それもいいか」と言うとローサ達はエスカと親睦を深めると言い、ミトレは久しぶりに1人でガットゥーを散策すると言う。
シヤはシーナとヨンゴに今日も麦体験をしたいと言い、イイーンダが手伝う事になった。
パテラ達は鍛えると言い出して勝手にガットゥー騎士団にお邪魔をして…本当に邪魔をして狂ったように訓練に勤しんだ。
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