第4話 怒りに任せて力を振るう器用貧乏。

ミチトはスティエット村…今は村でもない場所に来ていた。

怒りに震えるミチトは村を見て嫌な過去をコレでもかと思い出す。

1人屋根の修理をやらされた家、扉の建て付けを直させられた家、畑仕事、大掃除、冬支度、子供達をもてはやして蔑む比較対象の為にミチトを呼びつけた。

コレでもかと蔑まれた。

もうないだろうと思ってもそれ以上に虐げられた。


途中からは忘れていた事すら記憶の海から引き摺り出して怒りに変えていく。


限界を迎えてその全てを解き放つ。

一瞬でスティエット村が村の形を成していた時の家々、廃屋達がインフェルノフレイムの炎で蒸発をした。


「ふーっ…、ふーっ…」と怒りに震えて口から湯気を出すミチトの単純な術の怒りで大気は震え地震が起きていた。




そこに「ねぇ?」と言いながら来たのはメロの母マロだった。

怒りに震えるミチトは一瞬で距離を詰めるとマロの首を持って持ち上げる。


ミチトを忘れているマロはただ村に来ていた人間に興味を持ってただ声をかけただけだったが声をかけた次の瞬間には首を持たれて持ち上げられた。

マロは目を白黒させてミチトの手を振り解こうと必死にもがく。

だがたかだか非力な中年女にどうこうできるミチトの手ではない。


「俺を見ろ!俺の顔にはオオキーニの血が入っている!そんなに俺が憎いか!散々痛ぶってきたのがまだ序の口で先がある?ふざけるな!何が打ち明けて絶望を与えるだ!この国から追い出すだ!お前こそこの世から追い出してやる!」


ミチトが手に力をこめ「死ね!」と言いかけた時、本気で駆けてきたライブと「やめなさいミチト君!」と言ったソリードが重ね技でミチトを殴り飛ばすと、ライブはマロを救い上げてすぐにヒールで治療をする。


マロは生きていたがあまりの事に気絶していた。


殴り飛ばされたミチトはすぐに姿勢を直すと「がっ!?ぐ…、ライブ…なんで…」と言ってライブを見た。


「なんでじゃないよバカ!あんな話の後だからお爺さん達のお墓参りだろうと思って転移しようとしたら弾かれたの!ズメサにだって来られなかった!」

「ああ、きっと俺がここにくる事は皆なら分かると思って転移術限定で広域奪術術を仕掛けて転移術をさせないようにしたからね」


自嘲気味に見える表情のミチト。

どうしてもスティエット村が関わった時にはこの表情になってしまう。


「バカ!ミチトはアクィに言ったんだよね!怒りに任せて力を奮ったら化け物になるって言ったんだよね!それなのになんでそんな事するの!」

「さっきの話を聞いたよね?俺はどこまでこの村に嫌われていたのか知らされた。俺を助けてくれる人のいないこの村で散々泣きたいのに泣くことすら許されずに薄ら笑いを浮かべる日々だった俺を助けてライブ達と笑顔で暮らすにはこの村の全てが憎く邪魔だった、この村がある限り俺は幸せになる事を許されていないと思ったんだ。

そう思ったらリナさん、アクィ、ライブ、イブ…、メロやタシア達…皆の顔が見えてきて、俺が幸せになる事が許されないなら、俺の家族皆を不幸にすると思ったら居ても立っても居られなくなった。

そして俺を1番虐げて喜んでいたその女を生かすのが嫌になったんだ」


マロを地面に降ろして寝かしたライブが「バカ!ミチトが私達を幸せにするのは勿論だけど私達がミチトを幸せにするんだ!」と怒鳴る。



「こんな小さい村一つで私達の愛は揺るがない!私達の愛でミチトを幸せにするんだ!私を信じて!私が幸せにするからつまらない事は無視しようよ!ミチトは優し過ぎて器用貧乏だからこんな村の小さな言葉すら拾って気にしちゃうんだよ!」

「ライブ…」


返事に困る中、「ミチト君、覚悟はあった?怒りだけだったんじゃないの?」と声をかけるソリードの方を見ながら返事をするミチトは「ソリードさ…ソリードさん!?」と言って驚いた。


よくみるとソリードは右肩を押さえて苦痛に顔を歪ませていた。


「当たり前でしょ?超加速のライブさんの背中から飛び出して闘神なんて異名のつくミチト君を本気で殴ったのよ?大事な息子に余計な人殺しをさせる訳にはいかないから私も無我夢中よ、おかげで肩も肘も拳もぐちゃぐちゃよ」

「そんな!俺なんかの為に?」


ミチトは慌ててソリードに駆け寄るとソリードの怪我をあっという間に治す。


「バカね。なんかなんて言わないのよ。あなたは私達の大切な子。たった一年でもフォルと心と身体を鍛えた大切な子。ミチト君も子供達の為ならなんでも出来るでしょ?一緒よ。それよりも奥さんのライブさんに感謝しなさい。かなり無理してくれたのよ?」


ミチトはここで改めてライブがここに来られる意味を理解していなかったので確認をした。


「ライブ…なんで?」

「ガットゥーでここもズメサも転移術が弾かれた瞬間に真式から連絡が来たんだよ。ミチトに間違いを起こさせない為に力を貸すから頑張れって言われて、助けを頼んだら天空島を既にズメサの直上に強制転移させたから天空島に転移して落下しろって言ってくれたんだよ。それでも時間勝負だから風の術と超重術で加速して、ズメサに被害は出せないからギリギリで急ブレーキかけて、ソリードさんを捕まえて走りながら説明したら馬鹿みたいにインフェルノフレイムが見えたから必死だよ。

全力に本気の身体強化まで使ったからボロボロ」


「そんな…、天空島から追い風と超重術なんて無茶苦茶だよ」

「バカ、だからそこまで本気になる相手なんだよミチト。お願いだから自分を大事にしてよ。怒りも悲しみも全部頂戴?私は奥さんの中でビリッケツだけど頑張るから全部頂戴?」

ライブの真剣な表情と声にミチトは素直に「ライブ…、ありがとう」と言った。


「にひひ、今日は私の日だからこのまま別荘行く?」

「ボロボロなんだから変な事言わないで、すぐ治すよ」

ミチトが見ると足には無理をし過ぎてヒビまで入っていた。


「ライブ…骨…」

「まあ仕方ないって。私は弱い術人間だもん」


「ごめん。ありがとう」

ミチトはソリードが見ていてもお構いなしにライブを抱きしめて「ありがとう」と言う。少し落ち着いたところで「さて、落とし前をつけに行くわよミチト君」とソリードが言った。


「ソリードさん?」

「やだ、わからないの?私が母としてその母と戦います!」


「えぇ!?」

「どうせズメサに住むんでしょ?対決が少し早まっただけよ」

そう言うソリードの顔はキレていて断れるものではない。


ミチトは少し時間を貰って祖父母の墓に手を合わせて「お爺さん、お婆さん。守ってくれていてありがとうございました」と言うとライブが「奥さんの私がミチトを助けるからね!」と言った。

ソリードはその間にマロをベッドに寝かしつけに行っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る