第八話 龍解体作戦第一号

「とにもかくにも、巨大龍の解体には、鱗を剥ぐことが先決だ」


 私は、龍災対の本部へと集まった人員一同を見回して告げる。


「300年前の龍災害が記された古文書にも、明確に記載されている。鱗と血液がある限り、龍の体内には魔力が残存し続ける。先人たちは〝白き巨人〟の手を借りて龍を解体したとあるが……どこまでが真実か解らん」


 なにより、いまは人の時代だ。

 神話の神々になど、祈ったところで力は借りられない。

 例外は神聖魔法だろうが、あれにも怪しむべき点はある。


「ゆえに、問題は龍の莫大な魔力が与える影響に絞れる。ここで提案するのが――〝龍解体作戦第一号〟だ」


 先日発生した龍牙兵は、調査の結果、龍の身体から生えだしたことが判明していた。

 つまり、放置すれば王国の精強な騎士でも一対一では勝てないような魔物が、際限なく湧き出してくることになる。


「状況は切迫している。龍を解体ばらさなければ、魔力が体外に放出されることはない」

「魔法で爆破してしまえばいかがですか、マスター。あるいは、火薬を用いるという手段も」


 顔に火傷の跡が残る、紫の髪をツインテールにまとめた娘が声を上げた。

 私の副官として、龍災対を5年間運営してくれた才女、ルルミである。

 彼女の疑問は当然だ。

 しかし、忸怩じくじたる思いで首を横に振るしかない。


「巨大な魔力と、物理的な強度を誇る鱗。この二種の守りが、いまだに龍への如何いかなる傷も許さない。魔力を放出させるにしても鱗が邪魔。鱗を砕くには魔力が邪魔という、二重防壁だ」

「……でしたら」

「そう、鱗さえ剥いでしまえば、護りが一つ減る。刃物が通る……ようになるかもしれない」


 これが、龍解体作戦第一号のあらましである。


「現実的に、剥ぐことは可能なのでしょうか、マスター?」

「できる。なぜならば――」


 私が、そこまで言いかけたところで、入り口がノックされた。

 入出してきたのは、肩で風を切る伊達男。


「悪いな、ちっと遅れた」


 ルドガー・ハイネマンが、ニヤリと口元を歪めてそこにいた。

 おそらく、父親と相当やり合ってきたのだろう。

 態度こそ飄々ひょうひょうとしていたが、顔には疲労の色が濃い。


 けれどもさすがは大陸最強の剣士である。

 手ぶらでの帰還というわけではないらしい。

 視線だけで訊ねれば、彼は布に包まれた長物を、背中から取りだして見せた。


「抜かり無く、親父殿から借り受けて来たぜ。こいつが――〝鉄扉切りティルトー〟だ」


 布がほどかれる。

 ざわめきが生まれた。

 大業物おおわざものが姿を現したからだ。


 そこにあったのは、質実剛健な鞘に収められた剣。

 つばの部分には見事な象嵌ぞうがんが施され、雄々しい獅子が見て取れる。

 柄頭には球形の魔石がはめ込まれ、内部には幾つかの聖遺物魔力源が治められていた。


 ハイネマン家の至宝、王宮にすら並ぶものなしとされる稀代の聖剣――〝鉄扉切りティルトー〟。


「こいつなら、確実に鱗と皮を分離できる。任せてくれ」


 友の言葉を信頼し、私は頷く。


災世断剣さいせいだんけん、ハイネマン卿の武勇は、これまでの戦働いくさばたらきで皆知っていると思う。異存はないな?」


 一同が頷く。

 私も顎を引き、告げる。


「では、龍解体作戦第一号――その第一段階を開始する!」

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