お祭り




 お祭り騒ぎとはこの事を言うのだろうな、と。


 いつも通りに果汁の入った杯を傾けながら、アーシェはそんな事を思った。

 あの赫怒種タウロスと戦った日から、既に三日が経過していた。



 Bランクの『赫怒種タウロス』討伐。

 その一報は村の中で瞬く間に広まった。

 元々そんなに広くないコミュニティだ。娯楽の少ない環境という理由もあるが、何よりも当初は危機的状況だったということもあって、不安に駆られた村人たちが口々に話題にした結果、既に解決しているからこそ口が軽くなったのかもしれないが、あっという間に話は広まった。


 戦士団の主要メンバーが戦って時間を稼いでいる旨で、リュイドがなんとか村の士気を保っていたところに、アーシェたちが帰還した。

 見事に討伐を終えた英雄の凱旋として、アーシェたちが駆け込んだのが事の発端。


 そこからてんやわんやの大騒動。

 治療に、討伐対象の運搬に、領主様や村人への説明に、今後の対応策の検討に、宴の準備に、対応に追われて本当に大変だった。あまりの忙しさの中でアーシェが目を回しそうになったのも今では笑い話である。

 そんなこんなでようやく諸々が片付いて、宴の当日。


 それが今。

 討伐してから三日後だった。


 以前にも増して、大掛かりな篝火が村の中心で組まれて焚かれている。

 轟々と燃え盛る炎は盛大に火花を散らして見物人の目を楽しませている。


 村人たちの踊りは普段よりも一層勢いを増して、職人集団の楽器もいつもよりテンポが速いように感じる。

 ドンチャンと騒ぎまくって笑顔を見せる村人たちの姿を眺めながら、アーシェは一人で静かに杯を傾ける。


 その横に、腰を下ろしたのは団長エドガーだった。


「よう、アーシェ。飲んでるか?」


「うん!──って、いつも通りの果汁なんだけどね!?」


「だっはっは!悪い悪い。だがまぁ今日は特別だ、この酒なら飲んでもいいぞ」


「──ッ!?いいの!?」


 予想外の言葉だった。

 アーシェがギョッとして問い掛ければ、笑顔でエドガーが頷いた。


「ああ、構わねえよ。ただし、ちろっと舐めるだけだからな?御神酒っつって──」


「ああもう!そういうの、もういいからいいから!ちょーだい!」


「ったく、しょうがねえ奴だな」


 苦笑いするエドガーが差し出す酒瓶の口に、アーシェは手に持っていた杯を近づける。

 トクトクと波打つお酒が注がれれば、もう我慢する理由などない。 

 ワクワクと瞳を輝かせるアーシェは一息にグイッと一飲みして──


「まっっっずぅい!!」


 ベーっと舌を出して眉を顰めた。


「だーっはっはっは!!」


 口内に広がる腐ったパンのような風味に目が白黒させて、思い切り舌を突き出して瞼を萎める。

 そんな凄まじいアーシェの表情を見て大笑いするエドガーに詰め寄った。


「エドガー!これ腐ってるんだけど!?」


「だーっはっは!ッげほっげほっ!──阿呆!酒ってのはそういうもんだ。わざと腐らせてんだよ」


「う、嘘でしょ!?」


「しかもだ。今回のは御神酒でもあるが、中身は領主様秘蔵の酒だからな!どうせ新しいの買うんだからって無理やり掻っ払ってきた、上等の美味い酒だぞ?」


 エドガーに騙されて不味い酒を飲まされた。そう思っていたアーシェが動揺に瞳を揺らした。


「・・・そんな、バカな・・・」


 あんなにも大人たちが美味しそうに飲んでいるお酒が、実はまったく美味しくないという愕然とする事実を前に、アーシェは両手を地面に付いた。


 ──とまぁ、酒ってのは色々種類があるのは黙っとくとして。

 エドガーが内心でそんな事を考えているとは露知らず、凹みまくっているアーシェを見てエドガーは頬を緩める。

 背格好だけで見れば、とても赫怒種タウロスをほとんど独力で討伐した実力者には見えない。だが、アーシェが赫怒種タウロス討伐に最も貢献した、いや。ほぼ独力と言って良い戦果を出したのは紛れもない事実だ。


「ほら、アーシェ。この酒はお前にやるよ」


「・・・えー」


「嫌そうな顔すんなよ」


「もう飲まないからー。エドガー呑んでいいよ」


「拗ねんなよ。ま、持っとけって」


「自分で飲まないのに?」


「ああ、今後必要になるからな」


 疑問符を浮かべるアーシェに無理やりに渡して、エドガーは格好を改める。

 真っ直ぐにアーシェを見つめた。


「ありがとな。・・・お前が居なきゃ、この村も終わってたかもしれねぇ」


 真剣なエドガーの表情を見て、姿勢を崩していたアーシェも改めて座り直して首を横に振った。


「ううん、そんなことないよ。・・・わたしの方こそ、みんなが居たからがんばれたもん。最後のは特にね!あれ、みんなよく止めたねえ」


「ふふん、ま!俺の腕っ節ありきだな!」


 冗談じみた口調で、右腕の上腕二頭筋をバシバシと叩きながら満面の笑みを見せるエドガーに、アーシェも合わせて笑った。


「あはは!よっ!力持ち!」


「おめぇも、よくあんなでけぇのに立ち向かったよ。最後の一閃なんざ、俺は見てるだけで痺れたね」


「えー?そうかなー、うん、そうだよねー、えへへ。──エドガーも、カッコよかったよ」


「そ、そうか?」


 互いに褒め合って、少し恥ずかしそうに頬をポリポリと掻く二人の仕草はそっくりだった。

 そんな二人に乱入者が現れる。


「ちぃーっす!飲んでるぅ〜〜?うぇーーい」


 酔っ払って、千鳥足になったランドルだった。

 端正な顔立ちは真っ赤に染まってだらしなく緩んでいる。顔だけはいいのにと村の女衆に残念がられるのも納得の表情だった。赫怒種タウロスに挑んでいた時の飄々とした頼もしさ、凛々しさは百万分の一すら残っていない。


「──ランドル。そういやぁ、ゲンコツがまだだったなぁ・・・?」


「うぇい?!」


 一気に酔いが覚めたと言いたげに表情を引き攣らせてズザザと後退したランドルが酒瓶を頭に乗せて頭上にガードを作る。酒と書かれた瓶の文字がアーシェにはよく見えた。


「だ、団長!?それはなんやかんやで流れたんじゃないんすか!?」


「うるせえ!てめぇには前から灸を据えてやろうと思ってたんだ。ちょうど良い機会だな!?」


「ひぇ!?あっ、アーシェ!これだけは言っとくが、お前が今回の誉だぜ〜〜〜!!」


 山彦のように尾を引く声を残して走り去るランドル。でも、その表情はどこか楽しんでいるようだった。その背中を、恥ずかしさを誤魔化すように追いかけていったエドガーを見送って、口直しも兼ねて再び果汁を入れ直した杯をアーシェが傾けていると新しい来客が訪れた。


「おや、一人かい?ちょうど良いね、付き合ってもらおうじゃないか」


「──メイニー!」


「はっは!ちょいと、横に失礼するよ」


 ドデカい酒瓶を両手で抱えたメイニーがドッスンと地べたに腰掛ける。酒瓶は非常に口が広かった。相応に内容量も多い。

 そんな大甕の酒を、中の酒を杯で直接掬って飲むという豪快なスタイルでぐいぐいと飲んだメイニーが心底から旨そうに瞼をしぼめた。

 杯を握る手で、濡れた口元を強引に拭う姿は勇ましさすらあった。


「くぅ〜〜!ようやく酒にありつけたねぇ!このところほんとに忙しかった。こちとら、派手に飛ばされて身体中痛いってのにさ」


「ほんっとに、忙しかったねえ・・・。メイニー、身体は大丈夫?」


「ああ、唾つけたら治ったよ。ただの裂傷と骨折だからね」


 ぐるんぐるんと肩を回し始めたメイニーは元気そのものだ。いつも通りの姿にアーシェはホッと一息吐いた。


「そっか、良かった」


 最後の攻防の中で、メイニーたちが吹っ飛ばされたのを見た時は気が気じゃなかったが、あそこでアーシェが助けるために動けば、それこそ水の泡だ。

 だから、攻撃に専念せねばならないと意識からあえて除外していたが、メイニーの無事な姿に改めて安堵の息が溢れる。

 そんなアーシェに向けて、神妙に居住いを正したメイニーが続ける。


「アーシェ。あんた、ほんとに凄いよ。アタシらも、まぁほんの少しは貢献したかもしれないけど、あんたが居なきゃ絶対に勝てなかったからね。『誉』はあんたのもんさ」


ほまれ

 それは戦闘後に一番の戦士に贈られる言葉だ。

 生粋の戦士であるメイニーから贈られるその言葉は重い。アーシェも居住まいを正して神妙に頷き返した。


「だからね、何としてもアタシも役に立ちたかった。まぁ大した足止めも出来ずに飛ばされてペチャったんだけどさ!あはは!」


 豪快に笑っているが、下手をすれば死んでもおかしくなかった。

 実はそれくらいの重症だったのだ。

 今でこそ、村の薬師謹製の回復薬と持ち前の回復力、頑丈さで持ち治しているが、三日前はみんな酷いものだった。なのに、メイニーはそんな様子を微塵も見せない。普段から傷は戦士の勲章といって憚らないのも頷ける豪快さに、呆れたような安心するような、なんとも言えない困った笑みをアーシェは溢した。


「──それは、俺からも言いたいね」


 その言葉に視線を向ければ、普通サイズの酒瓶を挨拶代わりに片手で掲げて歩いてくるリンネルの姿があった。


「──リンネル!」


「今回の『誉』に乾杯。俺の酒を飲んでくれるか、アーシェ」


「あっと!リンネル、抜け駆けすんなよ。アーシェ、アタシの酒も飲むよな?」


 二人共が満面の笑みで進めてくるのはお酒だった。

 香りこそ悪くないが、口に入れた瞬間の風味は記憶に新しい。瞬時に蘇るほどに強烈であった。口の中で先ほどの風味が回想され、頬が引き攣るのを感じながら、それでも仲間である二人から差し出されれば否とは言えない。


 覚悟を決めた表情のアーシェが杯を差し出したが、リンネルは酒瓶からお酒を注がない。困惑しながらアーシェが見つめれば、やんわりと笑ったリンネルが続ける。


「アーシェはまだ知らないだろうが・・・。本当なら『誉』には役目があってな」


「・・・役目?」


「ああ、そうだ。アーシェは普段酒が飲めんから、知らせてなかったんだが、もう最後だ。御神酒ってことで特別に領主様に許可を貰った」


 最後。

 そう、最後だ。

 Bランクの魔物。それも赫怒種タウロスをアーシェは狩った。

 文句なしの成果だ。これで晴れてアーシェは村の外に出る許可が貰える。

 ──これが、村で過ごす最後のお祭り。

 しんみりとした空気を払拭するようにリンネルが笑う。


「酒だよ。『誉』が、一番の戦士に贈られる言葉ってのは知ってるだろ。『誉』に団員が酒を注ぎ、『誉』から返礼の酒を注いでもらう。・・・返礼の酒には『誉』が貢献度に応じた量を注ぐって儀礼だ。ってことで、アーシェ。俺の酒を受け取ってくれるか?」


 その言葉の意味を悟る。

 戦士にとって重要な役目を担う。その意識がアーシェにも共有された。


「──うん、頂きます」


 両手で杯を持って、リンネルに注がれるお酒が満ちていくのを眺める。

 月明かりに照らされる水面は揺蕩い、夜空の星々を映し出す。


 そのまま、アーシェは先ほどの一幕も忘れて杯を呷った。


 ──旨い。

 味とか、酔いとか、風味とか、そういう意味ではない。酒に込められた感謝をそのまま呑み込んだような心地。

 だから、ただただ、理由が説明出来ないくらい純粋に旨かった。腹に落ちる熱い塊が呼気を染め上げて喉を焼くようだった。

 メイニーのように、目をめいっぱいしぼめた笑みが溢れる。心中から湧き上がる感情が赴くままに、アーシェは笑顔を浮かべた。


「・・・旨い!」


「はは、良かった」


 ニコニコと笑うリンネルに続いて、メイニーが豪快に笑った。


「はっはっは!そうだろう!?『勝利の美酒』は仲間に注いでもらってこそだからね!さぁアーシェ、アタシの酒を掬いなよ」


「おいおい、掬えって、格好がつかないな」


 苦笑して苦言を呈したリンネルに、メイニーが自信満々の笑みで応えた。


「悪くないだろ?これがアタシのスタイルさ。アーシェもそう思うだろ?」


「にひひ、うん。わたしもそう思う」


 アーシェまで同意したので肩を竦めて見せたリンネルを横目に、アーシェは杯を差し出される大甕に杯を差し入れる。

 僅かに酒に触れた指先がほんのりと冷たい。

 掬い上げた小さな杯には波並みとお酒が揺蕩っている。


「頂きます!」


「おう、一気に行くなよ?慣れてねーんだから」


「はーい」


 忠告を聞き入れて、唇をそっと杯に近づける。

 ちゅるっと唇を湿らせるように舌に乗せる。あの独特の風味が広がるが、これが『誉』として得た味だとすれば格別に感じた。


「・・・旨い」


「ふふ、良かったよ。一人で飲むのもアタシは嫌いじゃないけどね、やっぱり仲間と飲む酒が一番さ」


「ああ、それに尽きる。・・・メイニーも、俺の酒を飲んでくれ」


「ん、貰うよ。リンネルも掬いなよ」


「ああ。・・・ふ、確かに旨いな」


「ん、あんたの酒もイケるね」


 ニヤリと笑い合う二人に続いてアーシェも、ビシッと手を上に伸ばして切り出した。


「はい!わたしも注ぎます!!」


「光栄だね」


「ああ、是非頼む」


 急いで脇に置いていた酒瓶を手に取って、アーシェが二人に酒を注ぐ。『今後必要になる』という、エドガーの言っていた意味が今になってわかった。たっぷりとアーシェが注いだ酒は、杯から溢れんばかりに揺蕩って月光を反射して輝いた。


 二つの半月が頭上には輝いている。

 降り注ぐ月明かりに照らされて、杯の酒がゆらゆらと揺らいでいる。

 一気に飲み干す二人は同時に破顔した。


「「やっぱ、これだな!」」


『誉』にたっぷりと注がれる酒。

 それは、貢献を認めたという印に他ならない。戦士として受けるこれ以上ない称賛だ。

 身も心も満たす酒の席は続いていく。

『辺境』の夜はまだまだこれからだった。


 リンネルとメイニーが雑談に花を咲かせる。

 会話の切り口を作ったのはリンネルだった。


「そういえば、ランドルのやつが団長に追いかけられてたが、アレは何だったんだ?」


「ああ。アタシもチラッと見たよ。どうせ碌でもない事したんだろうさ。しっかりと灸を据えてほしいね」


「ランドルはなぁ。昔っから、あの性格だからな・・・」


「まぁ一人くらい居ても良い、とは思うんだけどね。・・・いざってなるとウザいんだよ」


「ははは、まったく持って同意見だ」


「おや、リンネル。あんたが人のこと言えるのかい?アタシは今でも覚えてるけどね」


「・・・おいおい、穏やかじゃないな。なんのことだ?」


「『原罪の魔女シーラが来るぞ』って、よく言われてベソかいてただろ。んで、アタシのとこに来てさ。まー、面倒臭かった」


「・・・な、なんのことかな・・・」


「え?何それ聞きたい!」


「ふっふ!いいよ、話したげる。あれは確か──」


「わぁああ!!おい!メイニーやめろ!?──笑ってねーで止めてくれ!?」


 二人が思い出話に花を咲かせるのを聴きながら、にぱにぱと笑うアーシェは杯を傾けようとして、大人二人にもうやめとけと果汁を入れられたので頬を膨らませて抗議した。





 宴もたけなわ。

 ドンチャンと騒ぎが大きくなっていた。

 場には、エドガー、メイニー、ランドル、リンネル、リュイド、アーシェ。その他にも戦士団の面々が集まって、さながら戦士団の集会のような様相を呈していた。


「──アーシェの門出に戦士の父ヴァルファズルの祝福を祈って!!乾杯!!」


 仁王立ちに顔を真っ赤にしたエドガーが、本日五度目の宣言をして杯を呷る。

 周囲の面々も乗っかって、散発的に『乾杯』やら『戦士の父ヴァルファズルに』やらと斉唱が繰り返される。


「団長、なんかい、乾杯すんのさ」


 若干呂律が回らないメイニーが小突いて、満更でもない顔でエドガーが破顔した。


「がっはっは!こういうのは、なんべんやってもいいもんだ!やらねー理由がねえ!」


 厳しい顔を真っ赤にして上機嫌に続けたエドガーに向けて、随分と泥酔したランドルが呆けた目で手を伸ばした。

 

「・・・ん?なになに?このピカピカは新しい酒瓶かな?」

 

「・・・ランドル。そりゃ俺の頭だ」

 

 一瞬にして仏頂面に戻ったエドガーに張り倒されたランドルが地面に転がりながら、アーシェがそれをみて声を上げて笑っていた。


「あーっはっはっはっは!!あーはっは!あーおかし〜〜!」

 

「アーシェ?」


「おい、誰だこんなになるまで呑ませた奴は」


 周囲に酒瓶が転がっているが、どこからがアーシェでどこからが他の面々の物なのかわからないほどに散乱している。


「まぁ良いんじゃないか?最初で最後だ、羽目くらい外させてやろう」


 リュイドが杯を持って、その周囲にそれ以上の夥しい数の酒瓶を広げながら言った。


「りゅ、リュイド・・・。奢るとは言ったが、流石に飲み過ぎだ・・・」


 リンネルが、酒に付き合った代償として顔を青白く変化させながら苦言を呈するも、まるで堪えた様子もなくリュイドが笑って答えた。


「はっは!俺に奢ると言ったのが悪い!」


「あんたが酔ったとこ見たことないねえ・・・。これだけ呑んで酔わないって、実はドワーフの血でも入ってんじゃないのかい」


「おいおい、弓が巧いドワーフなんざ居るもんかよ」


「そりゃそーなんだけどさ・・・」


 リュイドに絡んだメイニーが、少し釈然としない表情で杯を口に運んだ。

 ちょうど、そんな時。


「──ちょいと、失礼するよ」


 鋭い一声が掛かった。

 声の主を確認して、リュイドは慌てて居住まいを正して頭を下げた。


「ふぃ、フィグ婆さん!?」


 トンガリ帽子を深く被った、村の薬剤師であるフィグ婆が立っていた。

 シワクチャな顔に付いた二つの眼光が異様なほどに鋭く睥睨する。


「なんだい、獲って食おうって訳じゃないんだよ。それより、アーシェはどこだい」


「アーシェなら、あそこに・・・」


 そう言ってリュイドが指差した先では、エドガーに肩車をして貰いながら、その輝く頭をペチペチと太鼓のように叩いている姿があった。幸いなのはエドガーもアーシェも両者ともに笑顔であることだろうか。もし、アーシェと同じ事をランドルがやったならきっと命はないとリュイドは思った。


「・・・ま、いいさ。落ち着いたらわたしゃのところに来るように伝えな。いいね?」


「は、はい!」


 それだけ言い残して、フィグ婆は去っていった。

 杖をつきながら、とんがり帽子をユラユラと揺らせて歩いていく姿はまるで伝説に出てくる魔女のようだった。

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