201 クラスみんなで話し合い(時に魔王様を添えて)――変わりゆく世界でも、地道さは大切に――⑤
「あ、その、まず個人的な意見でなんだけど、いいかな?」
難しい問題を前に少し考え込むクラスのみんな。
ポンコツな自分の意見でも、話し合いを始める切っ掛けになれば……そう思って、私・
「私としては、守護神獣様達に会いに行って、結晶球を譲ってもらいにいくの賛成かな。
みんなも言ってたけど、放っておいたら帰れなくなるかもしれないんならそうならないように動いておくの大事だと思うし。
もちろん、この世界的にもとても大事なことだからね……他の人が難しいなら動ける人が動かなきゃって」
「まぁ、あなたはそう言うでしょうね」
「ま、八重垣はそうだろうな」
私の意見に、
うーむ、私そんなに分かり易いかな……でも、なんとなく嬉しくなる私でした。
「ええ? それ皆で行くの?」
何処となく憮然とした表情で
ああ、その懸念は当然だよね――言葉が足りてなかった事を反省しつつ、私は言った。
「その辺りはまぁ、行ける人が、って方向でどうかな。
私的には、可能な限りみんなの力を借りられたら、とは思ってるけど……。
魔王様も言ってたとおり危険かもしれないからね」
「紫苑変わったわね……前だったら一人ででも行くって言ってたんじゃない?」
こちらを見つつ、ほのかな微笑みを向けてくれているのは
そのあたたかな眼差しに思わずはにかみ気味になりつつ私は言った。
「えと、その――心配してくれる人が、いてくれるからね、うん、ありがたいことに」
「心配はともかく、放置するとどうにも面倒だからな、君は」
「うぐ」
「……全くです。どうせ手間になるなら最初から一緒の方が面倒が少なくて済むというだけの事」
「うぐぐ」
「素直じゃない事で。
……というか、私的にはそこ――紫苑が言ってた危険かもってところが疑問なんだけど」
ささやかに溜息を零した後、網家さんは手を小さく上げ、改めて意見を述べる。
「守護神獣って、大枠はこの世界を守る事が目的って話じゃない。
なのに大結界の展開に反対だってヒト、いるの?
そこはみんな協力してくれるのが自然じゃないかな」
『本来ならそうあるべきなのだがね』
大分慣れてきたとはいえ魔王様、抑えていても圧倒的な存在感なので、思わず身構えてしまうクラスメートも何人かいた。
……私も時々そうなので仲間がいる感じが少し嬉しかったり。
『人族や魔族がそうであるように、守護神獣も立場や考え方による意見の相違はある。
あの痴れ者共をどうこうするよりも世界運営を主目的にし、世界そのものの保全を【守る】と捉えて【今のままがいい】と判断しているものもいる。
自称神々に乗せられた面もあるとは言え、マナを枯渇させていくような技術を気付くまで幾つも使用してきた人族や魔族を毛嫌いしているものもいる。
なにせ、神話の時代からの永い永い時を基本そのままに生きて来た面々だ。
いつしか考えの方向性が逸れて、そのまま凝り固まってしまうのは当然と言えよう。
君達の良く知る赤竜王は、そんな中ではかなり柔軟な方だ』
「「「「それは確かに」」」」
私はじめ、レイラルドで暮らしていた面々は大いに頷いた。
エグザ様最低限威厳は示すけど、かなりフランクだし……それに、実はレーラちゃんの身体で人間の娯楽結構楽しんでいるですよね、ええ。
私も、レイラルドにいた事はエグザ様の気分転換にたまにお付き合いさせていただいておりました。
そういう事を考えると、エグザ様は相当に柔軟だなぁということはただただ納得です。
そうして私達が頷いている中、ポツリともう一人の私――姉さんが呟いた。
「……それに、この世界的には、大結界を使用するデメリットもある。
大結界を使えば二度と異世界召喚は出来なくなる。
それは、マナの循環補助を担える存在を断つ事に他ならない。
さっき魔王ちゃ……んん、魔王殿が言っていた事と重なるけど、世界そのものを存続し続ける為に今のままがいいと判断するのはおかしな事じゃない」
「なるほど……そういう問題もあるんだね――うーむ。
そもそも、神々のみなさんと良い方向性で共存できれば全部解決出来るんだろうけど……」
「『それは絶対に無理だ』ね」
「……ですよね」
息を合わせたかのように姉さんと魔王様の言葉が重なる様子も説得力には十分だけど、私自身【神域】でバヴェートの全てを知る事で――とは言え詳細はもう忘れてしまったんだけど――『神々』との共存は少なくとも現状では叶わないだろう事は確信出来ていた。
「みんな仲良くできればいいんだけどなぁ……難しい事だよね」
人族と魔族がそうであるように、悲しみ苦しんだヒトが確かに存在している以上、それをなかった事には出来ない。しちゃいけない。
だけど――それを踏まえた上で今回人族と魔族が和解を始められたように、神々ともそう出来ないかな、とは思う。
けれど……きっと、今はまだその時じゃないんだろう。
『私は真っ平御免被るが、もし万が一……いや、それよりも遥かに低い可能性で共存が叶うのだとしても、そこ至るには順序がある。
なにせ、あの痴れ者どもは、自分達以外の存在をケダモノ以下としか思っていないからな。
私と君達は…………異なる者同士だが、こうして円卓に集い、意見を交わす事が出来る――だが、連中にはそれができない』
「え? しかし、今度話し合いの場を設けるという事だったのでは――?」
思わず困惑の声を上げる
そんな彼に向けて、魔王様は首を大きく横に振ってみせた。
『表向きはそうなっているが、実際はそうはならないだろう。
出来ればそうあってほしくはないがね……連中の一周回った愚かさ加減を世界に知らしめるには良い機会だが、良い気分はしない。
まぁ、いずれ否が応でも分かる事だ。
詰まる所、連中と最低限の共存――そうだな、こうして我々の様に同卓で語り合うには、連中を同じ位置まで引きずり下ろさなければはじまるまい』
「その為――になるかどうかは未知数だが、連中へのカードとして、神域結晶球を手中に収めておいた方がいいのは確かだな」
「カードとして?」
私の疑問の意味を込めた呟きに頷きつつ、
「連中の最終的な目的は分からないが――連中としても、この世界と断絶されるのは不都合なはずだ。
大結界を使われたくなければ、という脅しでこちらに有利なものをいくつも引き出せるかもしれない」
『そうして利用しつくした後で、素知らぬ顔で大結界を使えれば私達としては溜飲が下がる思いだな……ふっふっふ』
「まったくでございますね魔王様、ふっふっふ」
「まったくもってそのとおりね、ふっふっふ」
おお、少し意地悪そうな顔でささやかに笑った
『……と、どうやら菓子が到着したようだ』
魔王様の言葉で思わず円卓の間の入口の方を見る――すると、メイドさんの格好をした……というか、そのままメイドさんなのだろう魔族の方々が結構な量のカート……いや、ワゴンかな。
レストランなどで料理を運ぶワゴンにたくさんのお菓子と飲み物を乗せて持ってきてくださっている姿が見えた。
手伝った方がいいかな、とも思うけど――貴族令嬢としての学びもあり、それが皆さんの仕事である以上、口出しはするべきではないとグッと堪える私。
でも、それはそれとして感謝の言葉はちゃんと伝えよう、うん。
『では、これも食しつつ、大いに語らうとしよう』
そうして、私達はティータイム的なものも挟みつつ、その後も今後について大いに語り合った。
――なんだろうか。
私には、魔王様が……すごくすごくこの時間を愉しんでいるように思えた。
なんというか……上手く言えないんだけど、いずれ終わる、終わってしまう愉快な時間を惜しんでいるかのように――。
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